判断ミス※エイシオ視点
結局僕は『バル・エルハード』の店の前までやってきてしまった。
なんだかんだチームのご老人たちと今後の事を話したりして、結構遅くなったけど……。
ラミリアは話も長いし、やっぱり二人きりにさせるべきじゃなかったかな。
「え? もう帰った?」
店長の言葉に、僕は驚く。
「うん、大盛りあがりだったんだけどねー。二軒目どっか行くって」
「どこですか!?」
「うーん、えーっと。あっちの飲み屋街の……」
「『バー・タリス』?」
「かな? うん、そうだと思う」
ラミリアのお気に入りの飲み屋だ。
あそこにアユムを連れて行くなんて……本当に口説き落とすつもりか?
裏には宿屋もあるし……。
急ごう。
無粋だとか、そんな事気にしなければ良かった。
冒険者として、こんな判断ミスをするなんて。
タリスに急いで行くと、かなり酔ったラミリアが一人でいた。
「あーー! エイシオ遅い~~!!」
「ラミリア、アユムは!?」
「帰っちゃったわよ」
「帰った!?」
「えぇ」
「彼を何か不快にさせたのか?」
「不快になる話なんてしてないわ。彼が仕事を探したいって顔してたから……」
「アユムが仕事を?」
そんな話、僕は聞いた事がなかった。
「多分、飲みすぎて疲れちゃったんじゃないですかねぇ」
ラミリアの隣に座ってる女の子が言う。
アユムが飲みすぎるなんて……。
「此処から家までの帰り道を、アユムは知らないかもしれない」
鍵は渡してあるけど、こんな夜道で……家まで帰れるんだろうか。
不安がどんどん湧き上がる。
それなのにラミリアは吹き出した。
「えぇ? ねぇ、いくら此処に来て半年ったって、いい歳した大の男が一人で帰れないって……」
「何が言いたい」
「アユムを無知にさせて閉じ込めて、何がしたいの?」
ラミリアが鋭い視線を向ける。
「無知に……?」
「そうよ。アユムの学びを貴方が奪ってる!」
「アユムがそう言ったのか?」
「男二人であんな狭い家に閉じこもって、いつまでも何やってるのって話よ。正気に戻って! エイシオ・ロードリア!」
ただ言われた事の衝撃だけ胸に刺さって、僕は店を出た。
背中で何かまだラミリアは言っていたけれど、そのまま歩く。
殴られたような目眩がする。
ポツポツと雨が降ってきた。
僕は走って家まで一度戻ったが、家は暗くアユムの姿はない。
「アユム……」
やはり道に迷ったのか!?
アユムに何かあったら……!
どんなダンジョンを前にしても、感じた事のない恐怖が、僕の全身を駆け巡る。
まだ酷くなる雨の中を僕は走った。




