逃げ出したい※アユム視点
ラミリアさんに引きずられて入った店。
木造だけど、うんスナック。
カウンターにソファのボックス席が二つ。
こじんまりした薄暗い……いやムードのある店だ。
客はカウンターに男性が二人だけ……。
「まぁ~ラミちゃん~久しぶりね~」
ママさんは、綺麗な青い髪をしている。
この世界では色とりどりの髪は珍しくない。
五十代くらいかな。恰幅もいいけど綺麗な人だ。
「ママ~久しぶり! こっちはアユムよ」
「あらっ!? 彼氏~?」
「お友達よ~! エイシオは抜きで大事な話をしてたのよ」
「そうなの、まぁ座って!」
ソファの席に座って、ラミリアさんがまた適当に頼んでくれる。
「あの僕、お茶で……」
「ええ~? 駄目よ~薄いの作って? シルフィちゃん」
僕達の席に座ったシルフィさんは、ローテーブルに置かれた茶色い酒を氷の入ったグラスに注いで水を注ぐ。
くるくるとマドラーで混ぜて、僕の手元に置いてくれた。
完全にウイスキーじゃないかな、これ。
「はぁいアユム君どーぞ、黒髪綺麗だね」
「えっ!? あ、ども」
結局、薄く作られた酒を飲む。
酔っ払ったラミリアさんは、ペラペラと僕の話をする。
異世界から来たっていうのは、ごまかしたけど……。
シルフィさんはニコニコと話を聞いてる。
ちょっとギャルっぽい。青い髪だからママの娘さん?
「へぇ~アユム君、エイシオさんのとこの家政婦なんだ」
「はい……そんな感じです」
うう……痛い。この話題やめてほしいな、
「あっちのショーもやる大きな店で住み込みのボーイ探してたよ~? それにアユム君なら私の部屋に来てもいいよ~?」
「ええ!?」
突然何を言い出すんだろうシルフィさん。
これが店の女の子の魔力なんだろか……怖い。
「ね? アユム。あなたは自信もっていいのよ~あの家にいるだけじゃ、あなたの可能性は狭まるばかり。しっかり働けば、すぐに恋人も見つかるし結婚だってできるわよ!」
ラミリアさん……なんか急に親戚のおばさんみたいになってきた。
顔を合わせれば結婚が~とか言われて苦手だったんだよな。
でも、そうか……。
俺があそこにいたら……エイシオさんが恋人も結婚もできない?
俺の心臓に痛みが走る。
半年も一緒にいて、俺はエイシオさんの未来もちゃんと考えず、この幸せな毎日が続くだなんて考えてた。
異世界に来ても、なんのチートでもないし勇者にもなれない。
あの家にいるべきは……エイシオさんの恋人?
……確実に俺じゃ、ない……。
胸が……痛い……。
「あの……俺、帰りますっ。すみません」
「ちょっと!? アユム!?」
俺はお金を置いて、店を飛び出した。
逃げてばっかりの人生だ。




