いたたまれない気持ち※アユム視点
「急に、こんなお願いして……ごめんねアユム」
「いえ……」
悪気なんて全く無いのは、理解できる。
「人には役目というものがあると思うの」
「……そうですね」
「アユムだって、まさかあそこでずっと暮らしていくつもりじゃないわよね?」
ラミリアさんの綺麗な青い瞳が、俺を見つめる。
「えっ」
「何か夢や目標があるでしょ? ないの?」
う……グサっと刺さる。
「……特には……」
「じゃあ……あそこで何もない毎日をずっと暮らしていくの? 毎日何か刺激でもあるのかしら」
「刺激は、ないです……」
「エイシオも内心はつまらない毎日だと思ってるはずなのよ。きっと意地になってるんだわ」
そっか……俺は自分が穏やかで平凡な毎日がただ、幸せだった。
夕飯は何にしよう、とか。
野菜の成長を見たり、とか。
エイシオさん喜んでもらえるかな。
とか、そんな毎日が楽しくて……。
食後の会話も本を読んでもらうのも楽しかったけど……
エイシオさんは自分の目で足で、世界を冒険できる人なんだもんな……。
本なんか、きっとつまらなかったよな……。
「あの……アユム? ごめんなさいね。貴方には貴方のペースがあるし……でも良かったらお仕事の紹介やお友達なんかも紹介できるわよ」
「あ……はい、はは……そうですね」
ラミリアさんから見たら、俺が居候しててエイシオさんに面倒みさせてるように思うよな。
あぁ……落ち込んできた。
「貴方とってもセクシーなんだから、自分にもっと自信をもって! さぁ飲みましょう!」
俺がセクシーとか……有り得ない。
「はい……」
そこからは、ラミリアさんとエイシオさんの冒険譚を聞いたりした。
その話を途中から聞きたがる人も出てきて、俺達のテーブルはすみっこだったのに人が群がってくる。
たまに『兄ちゃんはどんな強者なんだい?』と聞かれたりしていたたまれない。
家事手伝いです……。
エイシオさん……来ないな。
こんなに人がいるのに、俺一人ぼっちだ。
ラミリアさんの冒険譚に、皆が拍手をして俺のジョッキにまで酒が注がれた。
「ごめんね! もう此処だと居心地悪いから次の店に行きましょう!」
「次!? いや、俺はもうそろそろ……」
「駄目よ~! 何言ってるの」
うう……もう22時くらいかな。
エイシオさんはまだ何かやってるのかな。
此処を移動したら、エイシオさんが迷う……と言ったら店主に伝言を頼んだと言われてしまった。
支払いも済ませてもらっちゃって……落ち込むばかりだよ。
「行くわよ行くわよ~~~~~!!」
「あ……は、はい……」
ラミリアさんは酔って忘れちゃったのか、俺の腕に絡まりながら歩く。
いや、俺が半分引きずられている……。
「此処ら辺の店だと、静かに飲めるでしょ?」
「はい……って此処は」
薄暗い飲み屋街。
色街ほど酷くはないけど、いわゆるスナック街みたいな……。
「ラ、ラミリアさん、女性なのに」
「え~、綺麗な女の子やママと飲むのって女でも案外楽しいものなのよ? 久々に来たから会いたい子もいるの~! 行きましょ行きましょ!」
ひー!
なんだか災難になってきた。
でもエイシオさんの従姉妹さんだ。
失礼な拒絶はできない……。
はぁ……辛いなぁ
でも俺のせいかな。




