ダンジョンへ向かいながら君を想う※エイシオ視点
アユムが作ってくれた美味しい朝食を食べて、僕は今日もダンジョンへ向かう。
「いってきます」
「エイシオさん、いってらっしゃいませ」
エプロンをしたアユムが微笑みながら礼をする。
「いってらっしゃいでいいんだよ」
「あ、はい……あ、あの……いってらっしゃい」
この世界では珍しい黒髪が艷やかで可愛い。
アユムは一重の黒目も気にするが、とても素敵だと思う。
「いってきます。今日は日差しが強いから帽子をかぶるんだよ」
「はい、トマト沢山とってきます」
「無理はしないで」
「はい」
我ながら成人している青年に対して口うるさいかな、といつも自己嫌悪してしまう。
それでも、アユムは可愛くて一人で留守番させるのも正直心配なくらいだ。
僕があの時、山で彼と遭遇しなければ彼は魔物に襲われ殺されていただろう。
もしそうなっていたらと、想像でもゾッとする。
アユムがその時に命を絶たれていたなんて考えたくもない、もしもの世界。
僕には彼が……必要なんだ。
彼と暮らしてから、僕の生活は一変した。
今日は水筒に、アユムが淹れてくれたコーヒーと保存食に作ってくれたカラメルの飴がある。
今回のダンジョンでは、弁当は魔物に匂いを察知されるので持ってはいけない。
でも、これがあるだけで今日のダンジョン攻略も頑張れる。
ずっと旅の冒険者をしていたが、行く先々のパーティーで女性達との問題が起きてしまう。
女性達が僕へ好意を持ってくれるのは嬉しい……から辛いに変わっていった。
『私が彼を最初に好きになったのよ』
『あんたなんか彼が相手にするわけないでしょ!?』
思い出す醜い争い。
結局パーティー内での疑心暗鬼のキッカケに僕は、なってしまう。
ダンジョン攻略中に女性同士が急に罵り合いの喧嘩をし始めたり、その女性を好きな男性に恨まれたり……実際に崖から突き落とされそうにもなった。
それがどんどん酷くなり……。
そんなわけで軽い人間不信に陥って、金の面より精神の平穏を一番に考えてこの土地に居座る事に決めたんだ。