ラミリアさんのお誘い※アユム視点
「元! 元婚約者だろう、ラミリア」
エイシオさんが間に入ってすぐ否定する。
元……元なんだ。
「うふふ、まぁね。ただの冗談じゃない?」
「冗談って……」
「元……婚約者」
「そうだよアユム。昔、昔の話だよ! とっくの昔に婚約破棄してるんだ!」
こ、婚約破棄……すごく異世界っぽい。
エイシオさん、こんなに綺麗な人と婚約してたのに破棄しちゃったんだ……。
普通ならもったいないって思うはずなのに、なんでだろ俺……安心してしまった。
ラミリアさんは、気にもしないように笑ってる。
円満婚約破棄ってやつなのかな。
「エイシオは変わり者すぎるでしょ?
ロードリア家の跡継ぎだって事も隠して冒険者やってるだなんて」
「は、はぁ……」
「あら? ロードリア家の御子息だって知っても驚かないのね?
名前も独特だしその髪と瞳もセクシーだし……遠い国の人なのかしら?」
「あ、はい……すみません。まだ疎くて……」
ロードリア家……なんだか、すごく名門とか富豪なんだろうか。
ラミリアさんの身なりも立ち振る舞いも、たしかにすごく上品だ。
「なるほどね、エイシオがあなたを雇ったわけがわかるわ」
「だからアユムは使用人ではないんだよ」
「じゃあどういう関係なの?」
「えっ! それは……」
エイシオさんは急にワタワタし始める。
そうだよな……なんて言えばいいか困るよね。
「俺が路頭に迷ってるところを、助けて頂いたんです」
「そう……そうなの……大変だったわね」
ラミリアさんはにっこり微笑んだ。
やっぱり優しい人なんだな。
「ラミリア、そろそろ怪我を治してくれないか?
これからの予定も詰まってるんだ」
あれ、エイシオさん予定が……? 俺、知らなかった。
「そうね。じゃあ傷を見せてちょうだい。アユム君、洗面の桶を貸してくれるかしら? 水も入れてきてほしいわ」
「はい」
ラミリアさんが、エイシオさんの包帯を外していく。
何かの粉と、綺麗な石を入れた洗面桶の水が光り輝く。
「さぁ、まずは聖水に手を浸してちょうだい」
エイシオさんは言われた通りに水の中に手を入れる。
簡易的な縫い跡が痛々しい。
小さな片手の杖を持って、何か呪文を唱えると傷跡から黒いものが溢れて聖水に溶けていく。
それから更に呪文を唱えて、傷は光に包まれて治っていった。
「すごい……」
「ありがとう、ラミリア」
「いいえ、あなたのためだものエイシオ」
……ラミリアさんは、エイシオさんが好きなのかな……。
じっとラミリアさんに見つめられたエイシオさんは、視線をずらして俺を見た。
エイシオさんと視線が合って、俺は恥ずかしさで視線を外してしまった。
そんな俺達をラミリアさんが見ている。
「ねぇアユム君! 今晩、私と一緒に夕飯食べない?」
「えっ」
「えっ」
お、俺!? エイシオさんじゃなくて俺!?




