女ヒーラーさんがやってきた※アユム視点(当て馬女登場回)
温泉から帰宅した次の日。
昼食も終わってのんびりお茶を飲んでいたら、急にヒーラーさんが家にやってきた。
「エイシオ! 心配したのよ」
「ラミリア……君が来たのか」
ラミリアと呼ばれた女性は、とても綺麗な人だった。
エイシオさんの隣に並べば、二人で雑誌の表紙に出てもおかしくない。
つやつやのブロンドヘアは綺麗にカールされている。
ヒーラーと言っても、服装は胸元が開いてスリットの入った、ロングドレスのような格好だ。
豊満な胸の谷間を、大きな飾りのついたネックレスが揺れている。
俺はつい見てしまった。
「あなたが怪我してるって聞いたから、他のヒーラーに任せられないって思って! 一日でも早くって急いで来たのよ!」
「そうか……ありがとう。まぁ入って」
本当は明日の予定だったのに、わざわざ早く来てくれたんだ。
優しい人なんだな。
エイシオさんはやっと怪我が治るのに、どうしてか無表情だ。
「あら……新しいメイドさん?」
「はい」
つい、返事をしてしまった。
でもメイドみたいなもんだよね。男だけど。
「ラミリア、アユムはメイドじゃない同居人だよ」
「同居人ですって!? どうしてそんな」
ヒーラーさんは驚きの声をあげる。
「まぁいいじゃないか。じゃあ治療をお願いするよ」
「急いで来たのよ。お茶の一杯くらい飲ませてくれてもいいじゃない」
「あ! すみません、今お持ちします」
俺は慌てて台所にお茶を淹れに行く。気が利かないって思われたかな。
温泉で買ってきた饅頭をお茶請けにしようか……。
「あなた今、老人チームの助っ人みたいな事ばかりやっているんですってね」
「あぁ」
ダイニングテーブルにいる二人の会話が聞こえてくる。
小さな家なので、リビングダイニングに台所があるんだ。
「もったいないわよ、あなた程の才能のある冒険者が……」
「まあ色々と思うところがあってね」
「また……あなたと色んな土地を冒険したいわ」
何か懐かしむような、顔をするヒーラーさん。
エイシオさんは、いつもより無表情だ。
「もう、この家も買っちゃったしね。近場のダンジョン攻略者で十分なんだ」
「疲れたなら、もう実家に戻ったら? 心配してらしたわよ、おじ様」
「家の話はしないでくれよ。もう戻る気はないし……」
「跡継ぎが何を言っているのよ」
聞き耳を立てるつもりはないんだけど、聞こえてきちゃう。
出掛けた方が良かったかな。
「アユムに聞こえてるよ、もうやめよう」
「あぁ彼、アユム君って言うのね。自己紹介もしていなかったわね。ごめんなさい」
「あ、いえ! 俺のほうこそ」
二人が台所にいる俺に話しかけてきた。
お湯も湧いたので急いでお茶を淹れてテーブルに持っていく。
「俺……僕は伊橋歩夢と言います。えっとエイシオさんの家に居候させてもらっています」
「私は、ラミリア・アイナ・ロードリアよ。特級ヒーラーをしているの。エイシオとは従姉妹なのよ。……そして婚約者なの」
婚約者……。
その言葉が俺の心臓に突き刺さって、自分でも驚くくらい……激しく胸が痛んだ。




