帰り道※エイシオ視点
温泉旅行の朝。
記憶のない僕は、めちゃくちゃ落ち込んでいた。
なんて事だ……。
アユムは笑いながら話してくれたし、何も気にする事はないと言ってくれた。
でも最低だよ。
泥酔して一緒の布団で寝る男とか……。
友達としても、引かれてしまったんじゃないだろうか。
でもアユムは優しく、また朝風呂でも色々と手助けしてくれて、朝ご飯も一緒に食べて……。
優しすぎる。
めちゃくちゃ落ち込んでるのに、めちゃくちゃ好きになっていってしまう。
「やだなぁ、エイシオさん。まだ落ち込んでるんですか? もう気にしないでくださいよ」
「いや、相当な迷惑をかけてしまって」
「だから~楽しかったです! ……また来たいです」
「う、うん! 僕もまた来たいよ!」
「俺が熱燗を勧めたのが悪いんですし」
「いや、すごく美味しかった。教えてくれてありがとう! お土産を買って帰ろう。アユムの欲しい物全部買って帰ろうね」
「そんなー!」
僕は、アユムの顔を見ながら気になったような物は全部買った。
荷物が倍になった馬車に揺られての帰路。
「沢山のお土産、ありがとうございます」
「いや、僕が気になったから」
「帰ってからの料理も頑張りますね」
「催促ではなかったんだけど、アユムの料理は最高だから楽しみだよ」
「そ、そんな」
「これからもよろしくね」
「はい! こちらこそです。よろしくお願いします」
ヨシ! 良かった~。
まだアユムと一緒にいられるんだ。
ガタガタと馬車は進み、温泉の観光地を抜ければまた静かな道だ。
うつら、うつらとアユムはしている。
「眠っていいよ」
「あ、すみません……」
寝不足なんだろうか、僕のせいかな。
少し肩を寄せて、もたれてもよいと告げるとアユムは微笑んで、そのまま眠り始めた。
すぅすぅと可愛い寝息。
僕の寝相が悪くて寝不足にさせてしまったのかも。
色々な事を思って、また不安になるけど……。
「エ……イ……シオさん……ふふ」
えっ……。
僕の名前を呼んで笑った……。
夢の中で?
「ふふ……」
アユム……。
ゆっくりと、前に進む馬車。
澄み切った空気に流れる小川。
揺れる花。
さえずる小鳥。
誰も見ていない。
可愛いアユム、大好きだよ。
僕は眠り姫みたいなアユムの額に、ついキスをしてしまった。




