離れないでくれ※エイシオ視点
「あ、あの……」
「ん?」
アユムがもじもじと言いにくそうな顔をする。
「じ、実は、あの……箸を一緒に使ってしまってました。すみません」
知ってた。
僕がそうなるように、なったらいいなって思って、アユムにそのまま食べるように言ったんだ。
ずるい男だよね、僕は。
「僕は、気にしないよ」
気にしないというか、嬉しいんだよ。
ごめんね、アユム。
男性である君に対して、こんな感情を抱いてしまって……。
「あ、良かったです。今頃すみません」
そう言いながらもアユムは、自分の箸を取ろうと立ち上がろうとした。
離れないでくれ――!
なんだかその瞬間に、自分の元から去ってしまう切なさが吹き上がってきた。
僕はアユムの腕を、グッと掴んでしまう。
「えっ?」
「あっ」
力の強い僕が、必死に掴んでしまったせいで細いアユムはバランスを崩す。
「アユムっ」
僕は慌ててアユムを抱き寄せた。
「わっ」
ドサリ。
あぐらをかいていた僕の足の上に、アユムがお姫様抱っこのように座る。
「エ、エイシオさん!? どっどうしたんですか」
「ア……アユム……」
一体僕は、何をしているんだ……。
腕と一緒にユカタ独特の袖も掴んだせいで、乱れてアユムの白くて細い首元が、いつも以上に見える。
一緒のボディソープの良い香り。
そして、驚きと戸惑いの黒い瞳。
「ア……アユム……あの……」
「は、はい」
「えっと」
「は、はい……」
「……酒をもう一本頼んでくれないか」
「え?」
少しの沈黙。
え? だよね。僕もそう思います。
「そんな必死にならなくても、もう俺もうるさく言いませんよ」
戸惑いの瞳からプッと吹き出してクスクスと笑うアユム。
可愛い。
このままお姫様抱っこしたまま立ち上がって、教会に駆け込みたいな。
そんな事を伝えたら、君は僕を軽蔑の瞳で見るのかな。
アユムが頼んでくれた酒は、今度は温められた酒だった。
それを飲んだら、すごく美味しくて。
夕飯後もアユムを見つめながら飲んでいたらすごく酔っ払ってしまった。
女将が来て布団を敷いてくれる間に、夜風にあたっていた気がするのだけど……。
気付いたら朝、アユムと同じ布団で僕は寝ていた。




