美味しい料理に間接キス※アユム視点
異世界で浴衣が着られるなんて思わなかったな。
エイシオさんは金髪碧眼だから外国からの観光客みたい。
「こう、お腹の前で帯を結ぶんです」
「なるほど。似合うかな?」
「とっても!」
美丈夫っていう言葉がとっても似合うなぁ。
「アユムも似合うよ」
「ふふ」「はは」
二人で笑う時間が幸せだ。
お風呂も気持ちよかったし、楽しい。
今まで誰かと目を合わせて話すことも苦手だったのに……。
エイシオさんの瞳はとっても優しくて、今は目が合うのが嬉しいくらいだ。
「そろそろ夕飯だね」
「はい」
ベストタイミングで、夕飯の時間になった。
女将さんが、沢山の豪華な食事を並べてくれる。
「こちらは、この海での名産サニパ魚という白身の魚のお刺身……生の身を切って盛り付けた料理です」
「へぇ……ナマ? 僕は初めて食べるよ」
「まさかこの世界で、生魚を食べられるなんて」
あ、変な事を言ったせいで女将さんにチラと見られてしまった。
「フォークとナイフも御用意しました。それではごゆっくり」
まるで日本みたいに食べる道具も箸だ。
使い慣れていないエイシオさんにはやっぱりフォークだよね。
「さぁエイシオさん、どうぞ」
「お、ありがとう」
御酌したけど、透明なこのお酒。日本酒っぽいのかな。
お刺身に、ステーキもあって、小さなお鍋に、小料理がいくつも。
贅沢すぎる!
「それではアユム、乾杯」
「はい、乾杯です」
エイシオさんも元気だし、お酒の量にはあまりうるさく言わないようにしよう。
「美味しいお酒だ」
うん、エイシオさんがニコニコしてて楽しい。
やっぱり日本酒の味だ。
「おっとっと、これは難しいね」
あ、いくらフォークでも片手でお刺身を食べるのは食べにくいよな。
「俺、そっちに行ってお手伝いしますよ」
「え? いや……でも」
「せっかくのご馳走なんですから!」
「でもアユムが食べられなく……」
「俺も食べながらお手伝いしますよ。エイシオさんはお酒飲みながら、お口開けてくれたら……それって楽じゃないですか? あはは」
「アユム……」
俺にできる事なんて、何もないに等しいから。
何か少しでもできる事をしたいんだ。
俺が隣に座ると、エイシオさんはグイッとお猪口をあおった。
良い飲みっぷり。
お醤油をお刺身につけて、と。
「はい、どうぞ」
「あ、あ~ん」
あ~んって言うエイシオさん、可愛い。
本当は俺もちょっと照れるけど、そこは隠して……。
「あ~ん」
「ん……これは、美味しいね! 全然臭みもなく甘いよ!」
「お刺身美味しいですよね!」
「そのまま僕の皿のを、アユムも食べたらいい」
「えっ」
「ほら美味しいよ。食べて食べて」
「は、はいっ」
俺はエイシオさんの厚意のままに、刺し身を食べた。
「わぁ甘い! 美味しい!」
「だね、美味しいよ」
鯛っぽい見た目だけど、鮭みたいに甘くて脂ものってる!
「じゃあ、次はエイシオさんどうぞ。あ~……」
あ……!
俺、馬鹿!
箸まで一緒に使ってた……!
「あ~ん」
エイシオさんは、気にせず食べてくれたけど
か、か、間接キス……。
「アユム?」
「い、いえ!」
「じゃあ次はステーキも食べてみようか」
「はい」
い、今更、箸を換えますってのも、なんか変だよね。
エイシオさんは普通にしてるし……。
そうだよ。男同士なんだから気にする事ないじゃないか。
俺はしたことなかったけど……。
初めてだから?
どうして、こんなにめちゃくちゃドキドキするんだろう!?
なんか……なんだかエイシオさん、ごめんなさい!




