気付いてしまったら※エイシオ視点
僕は気付いてしまった。
アユムに恋心を抱いていることを。
そうだ、僕はアユムのことが特別に好きなんだ……。
恋の相手として見ている……。
こんな事は初めてだ。
初恋は年上の女性家庭教師だったし、女性とお付き合いした事も何度かある。
別れの時までは幸せな時間を過ごしていた、と思っていた。
でもこんな、言葉一つ。
笑顔一つにときめいたり、ドキドキしたりするのは初めてかもしれない。
わーっ!
自覚しちゃったら!
僕は好きな人と一緒に暮らして、今は好きな人の隣でお風呂に入ってるんだ。
何もかもすっ飛ばして……こんな状況って!
あり得ない展開続きの、恋愛小説みたいだ……!
「エイシオさん。俺ちょっと熱くなってきたんで、先に身体洗いますね」
「おぅっ!?」
まずい、変な受け答えをしてしまった!
「? エイシオさんが洗う時は、言ってくださいね」
ツッコミはされなかった……ホッ。
ザバっと上がるアユムの身体を見つめる事ができず、僕は海を見た。
好きな人の裸が目の前にあるとか……ドキドキし過ぎて見られないよ。
あぁどうしよう。
男を好きになってしまった。
ただでさえ
アユムがいつか帰る時が来るのだろうか、と思ったら切なさで苦しかったのに……。
これから、もっと
悩んだりするのかな。
きっと、悩むんだろう。
でも……でも今。
こんなにも大好きだと思える恋をした事を、僕は嬉しいと思ってもいいだろうか?
誰もいなかった心に君がいる事が……なんだか、とても温かくて嬉しい。
そんな清い優しい心のままでいられるように、僕は努めて身体を洗った。
「エイシオさん、泡立てますよ」
「ありがとう」
「お背中流しますか」
「じゃ、じゃあ……お湯をまた頭からかけてほしいかな」
「はい!」
かなり努めに努めた。
心の中で不気味なゴブリンを思い浮かべたり、錬金術の記号論理を思い浮かべたりして、よこしまな気持ちを追い出したんだ。
10代の若い男子みたいだ。
僕ってこんな人間だったんだ。
ドキドキして、ドキドキしてしまう。
「帯をこう、結ぶんですよ」
風呂から上がると、変わった寝巻きを着た。
アユムの世界にも、似たような服があるようだ。
ユカタというらしい。
お揃いのユカタ。
アユムはユカタが似合うなぁ。
湯上がりが可愛くて、ドキドキする。
「エイシオさん、頭拭きますよ」
あぁ~怪我治したくないなぁ!
怪我治すの、やめたくなっちゃうなぁ!
「すごく、いいお湯でしたね」
椅子に座る僕を、アユムがワシャワシャとタオルで拭いてた。
「そうだね。また後で入ろうか」
「お酒飲んだら、お風呂はダメですよ……って俺、口うるさいですね」
「そんなことないよ。心配してくれてありがとう」
僕の事を心配してくれる優しいアユム。
こんな幸せがずっと続いてほしい。
って考えると
また胸が少し痛んだ。
失恋確定の恋……だからね。




