宿屋に着いたが※エイシオ視点
アユムが宿屋を見て、ポカーンとしている。
この海の温泉宿で、一番高級なところだ。
僕もこんな高級宿屋は、初めて来た。
何故か女性達には僕が贅沢を好む男だと勘違いされがちだけど、冒険者は土の上でも眠れるし宿なんてどこでもいいんだ。
でもアユムと一緒だと思うと喜んでほしくて、なんでも『一番にしてくれ!』って思ってしまう。
馬車から降りてアユムが荷物を持ってくれた。優しいな。
「わぁ~すごい……高級旅館……」
綺麗にカットされた木や、岩が綺麗に並べられている。
池も美しい庭を抜けると木造なんだろうか、平屋だが豪華な宿屋が見えた。
普段見慣れない異文化の服を着て、髪を結った女性数人が出迎えてくれた。
一人だけ綺麗な黄色い服の女性が、うやうやしく僕達にお辞儀をしてくれる。
宿屋の女主人だろう。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
「お世話になります」
黒髪や茶色髪の女性が多いな。
アユムと一緒で羨ましい。僕も黒髪にしようかな。
みんなと同じピンク色の服の女性が、アユムに声をかけた。
「御者のお部屋はこちらになりますので、荷物はお預かり致します」
「あ、は、はい」
「な、彼は御者ではない! 彼は僕の……!」
皆の顔が焦りに変わる。
「僕の大事な連れだ!」
「た、大変失礼しました」
女主人と皆が、焦り頭を下げた。
「申し訳ございません、大変な失礼を……!」
「いっいえいえ。俺なんて御者みたいなものですから、気にしないでください」
アユムは微笑む。いつものアユムのままで。
「アユム」
「申し訳ございません。お連れ様は女性の方かとばかり……」
「そうですよね。紛らわしくて、すみません」
何故かアユムが謝っている。
「アユム」
「エイシオさん、いいんですよ~悪気ないんですし! 俺そういうキャラなんです。
あ、馬車の御者さんはいらっしゃるので、案内してあげてください」
「ほ、本当に申し訳ございませんでした……!」
間違えた女性に、アユムが明るく微笑む。
「全然ですよ、あはは。気にしないでくださいね」
「エイシオ様、申し訳ありませんでした。お連れ様に大変な失礼を……」
「いや、僕のほうこそ……大きな声を出してしまい、失礼した」
ピンクの服の女性は、可愛らしい風貌だ。
「ほんとに、ほんとに気にしないでくださいね」
「は、はい……ありがとうございます」
照れたように笑うアユム。
ホッとしたように女性も微笑んで、二人で笑ってる。
アユムはもしかして、ああいう女性が好みだったんだろうか。
……。
……。
……。
ハッ……! なんだか心が黒く染まるような感情を抱いてしまった……。
なんだ、このモヤモヤする感情は……。




