温泉までの馬車旅※エイシオ視点
馬の世話は大変なので遠方に出掛ける時は、その都度馬車を手配する。
一番豪華な馬車にしようとしたが、アユムが質素な馬車でいいと言いオープンタイプの馬車になった。
気遣いが可愛い。
「馬ってすごいですねぇ。あぁ風が気持ちいいなぁ」
「うん、オープンタイプにして良かった」
今日は良い天気で温度も心地よい。
アユムの言うように、風が気持ちいい。
いつも見る木や草木や、花も川もキラキラして見える。
僕は詩には興味がなかったが、最近詩人にでもなってしまったか? と思えるくらい世界が綺麗に見えて詩のような心情を思い浮かべてしまう。
「エイシオさん、あの木のお花すごく綺麗ですね! わぁ~良い香りだ」
「本当だね」
僕には見慣れた木に咲く紫の花。
でも、今日はすごく綺麗に見える。
アユムがすごく楽しそうにしているから、キラキラに見えるんだろうな。
アユムと出会う前は、色も何も見えない感じない……そんな毎日だったのに。
「すみません~道が悪いので揺れますよっ」
「うわっ!」
#御者__ぎょしゃ__#の言葉は言うのが遅かった。
突然ガン! と揺れて、馬車に乗り慣れていないアユムの身体が少し浮かぶ。
「アユムッ!」
僕は隣に座っているアユムの背中に、右手を回して抱き寄せた。
「わっ」
胸元に寄りかかるアユム。
「すんません! お客さん大丈夫でしたか?」
御者は前を向いたまま、僕達を気遣う。
御者に感謝。
「エイシオさん、すみません。怪我が」
「怪我は左腕、こっちは全然平気さ」
アユムに言われて三角巾をしているが、実際もう全然平気だ。
ガタガタと揺れるたびに、アユムの重さを感じる。
「揺れている間はこうしていよう。馬車から落ちたら大変だよ」
「す、すみません」
「全然、大丈夫だよ。もう少し先に滝が見えるから、酔わないように風景を楽しもう」
「はい……重くないですか?」
「重くないよ」
幸せな重さなんだ。
こんな風に君と、色とりどりの世界を一緒に見れて
あぁ生きてて良かったなぁって、何度でも思ってしまう。




