テンドルニオン様探し※アユム視点
困った事になった!
テンドルニオン様が、会いたくないって言うし……ザピクロス様は探せと言う。
でも、手がかりもないしどうやって!?
その時、エイシオさんがキリッと立ち止まり目を閉じた。
ピクッピクと耳が動き、尻尾もピン! と張り詰める。
「臭う……!」
「に、におう?」
あ、ニオイか。
鼻がヒクヒクしている。
獣人だから嗅覚も敏感だという話だ。
「す、すみません……俺かな。昨日拭いたくらいじゃやっぱり……」
旅の5日間は、もちろん風呂など入れない。
「違うよアユム……多分これはテンドルニオン様の臭いだ」
「なにぃ! 勇者! 本当か!」
「ザピクロス様、あなたもわかりませんか?」
「んんーズビビ……我は慢性鼻炎での~ズビビ」
慢性鼻炎の神様なんて、アライグマなんているの?
だからイビキがあんなにうるさいんだ……。
でも、エイシオさんならテンドルニオン様を探すことができるって事だ。
話ができる俺がなんとか説得しないと!
「……テンドルニオン様、俺達は貴女に会うためにここまでやって来たんです。俺達が貴女を探すことができたら、どうか御褒美にお顔を見せて頂けませんか……?」
あとはテンドルニオン様のお気持ちだけど……。
「テンドルニオン様、雷の女神よ。どうか御慈悲を……」
エイシオさんも、すごく想いを込めた顔をする。
よっぽど、ザピクロス様のことを考えているんだろうか。
優しいエイシオさん。
『転移者殿……わかりました……勇者とはいえ、再度此処までの道のりを越えた事を評価します』
良かった! 彼女もここまで来る苦労はわかってくれた。
「それでは女神よ、今から貴女をお探します!」
『おほほ、これはこれで面白い』
テンドルニオン様の笑い声が聞こえる。
エイシオさんは重たいリュックや装備を外して靴まで脱いで裸足になった。
そして身軽な服のままで一気に神殿内を走り出す!
「エイシオさん!」
わぁ! エイシオさんがまるで猫のようだ!
神殿の部屋のなかを、上下左右、ダダダダダ! と走って何かを追いかけている!
「あっ!」
「テンドルニオンッッ!」
透明な影が、揺れて本当の姿が見えた!
ザピクロス様も叫ぶ。
「アッアライグマ!?」
テンドルニオン様の姿もアライグマ!?
「無論、神々が仮姿になるに相応しい麗しき美しき器完成された器なのであーる」
ザピクロス様がふんぞり返って言う。
えぇ!? じゃあこの世界の神様みんなアライグマなの!?
「えぇい! 勇者そこ! そっち! 下手っぴ!」
ザピクロス様が応援なのか、野次なのかピョンピョン飛び跳ねながら大声を出す。
「馬鹿! 上だよ! テンドルニオンはそういうストレートな道を選ばないんだからぁ! まったくへたっぴ勇者!!」
あぁ、エイシオさんも一生懸命追いかけているのに……。
エイシオさんから怒りのオーラを感じる、と思ったその時。
ピカッと雷撃が光った!
「あぎゃあああああああああああ!」
ザピクロス様に直撃した。
そして走ってきたテンドルニオン様が突っ込み、短いアライグマの足でザピクロス様に蹴りを入れた!
ザピクロス様が、壁に吹っ飛んでいく。
後ろで追いかけていたエイシオさんは、追いかけた手前で呼吸荒く立ち止まったまま。
わけがわからないといった顔で、額の汗を拭っている。
そして神殿内に、可愛い女の子の声が響く。
「まったく……! 勇者に追いかけさせておいて……いいえ、ここまでの道のりも全て勇者と転移者殿に任せて、なんたる横暴さ! このバカアライグマ!」
半透明だったテンドルニオン様がポン! とアライグマの姿を本格的に見せてくれた。
同じアライグマでも、なんだか可愛いお姿だ。
そして、エイシオさんの腕に飛び込んだ。
ザピクロス様は壁に刺さったまま、ひくひくぴくぴく……してる……。




