テンドルニオンの神殿※エイシオ視点
僕達はロードリア家を出て、五日かかってようやくテンドルニオンの神殿に近づいた。
最後の村に馬車を預け、危険な深い森で魔物と闘った。
黒い雲が上空に渦巻き、いつ天罰のような雷が落ちるかわからない荒れた大地。
更に進んだ岩だらけの丘に、テンドルニオンの神殿がある。
「はぁ……ここまで大変な道のりでしたね」
「あぁ……本来ならばかなりの大人数で挑むべき場所なんだ」
それでも僕ならば、守るのがアユム一人という方が却って楽なのだ。
僕達の目の前に、崩れかけた柱の神殿が見える。
「わぁ……パルテノン神殿みたいだなぁ」
「アユムの世界の神殿かい?」
「はい……でも昔の遺跡です」
「へぇ……パルテノン……いい響きだ」
「俺もよく知らないんですけどね」
ベッドでまた、アユムの世界の話をゆっくり聞きたい。
「つ、着いたぞぉ~苦労と苦難の末に、ついについにか……あー疲れたぁフルーツポンチ食べたい。しんどい、疲れたぴー」
アユムの背中から現れたアライグマ。
あんたはアユムの背中で煎餅食べてただけでしょうが! と言いたくなるの気持ちを抑える。
食料がどれだけ重かったか……!
だけどこれで、もうアライグマともグッバイだ。
うんうん、そうだ。これからアライグマのいない素晴らしい未来が僕達を待っているんだ。
「あっ……」
パリリッとアユムのしているテンドルニオンの指輪が反応した。
『転移者殿……私はお会いいたしません』
雷の女神、テンドルニオン様の声だ。
「テ、テンドルニオン~話を聞いてくれぇ~」
『……』
「今から神殿に入るからなぁ? ビリビリやめてよ?」
『……』
……無視か……。
とりあえず、僕達は神殿の中に入る。
実際には数々のパズルや迷路のようなダンジョンを乗り越えて行くのだが攻略者の僕と転移者のアユムを考えてなのかスンナリとテンドルニオンの指輪があった最下層の部屋に着いた。
一体どんな方なんだろう……僕が指輪を受け取った時は声だけでお顔は知らないもんな。
しかし、誰もいない。
「……誰もいませんね」
「そのようだ。……違う部屋にお隠れなのか……」
「テンドルニオン様、どこですか……?」
テンドルニオン様はアユムの声かけにも反応しない。
「探すんじゃあ勇者! 探してくだされい転移者殿!」
「まったく……」
毎度人をこき使うアライグマだ。
「ど、どうしましょう」
目の前には指輪が置かれていた台。
周りには柱や垂れ幕、石像や噴水なんかもある。
結構な広さの部屋だ。
なんの手がかりもない。
今までの道のりであるはずのダンジョンの中に隠れられたらどうしようもないぞ。
しかし獣人化ももうすぐ終わりかけの僕の鼻が動く。
クンッ! これは……アライグマ臭……!!




