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異端使いの学園支配  作者: 酒ッ呑童子三号
入学〜帰らずの森
9/17

9話 行方不明

「ヘスターくん、今日学校に来なかったね……」

「あぁ」


リリーナは中庭のベンチに座り、膝の上に乗せた杖を強く握る。


「やっぱり昨日の事かな……」

「そうだな」

「……どうしたらいいんだろう」

「ヘスター自身の問題だ。俺達にできる事は何もない」

「でも……責任の一端は私達にもあるよ……」


リリーナは落ち込んだ様子で、静かに肩を震わせている。


「おぉ……いた」


俺達に向けられた声に振り向くと、ジオ先生がコートを地面に擦りながら走ってきた。


「てめぇら、ヘスターについて何か知らないか?」

「彼がどうしたんですか?」

「いやぁ……寮に様子を見に行ったら、部屋にいなくてな。荷物もそのままだったし、どこ行ったのかと思ってなぁ……」

「へスターが……?」


その話を聞いて、リリーナは俺のローブの端を強く引っ張った。


「【帰らずの森】だよ! 絶対一人で行ったんだよ!」

「待て、まだそうと決まったわけじゃないだろ」

「おいおいおいおい……何の話だ、あぁ?」


俺達を疑う様な顔をするジオ先生に、俺は正直に全てを話した。

へスターに石碑探しに誘われた事、ヘスターと仲違いした事、ヘスターが月光草を盗んできた事は内緒にした。

それを聞くと、ジオ先生は頭を掻いてため息をついた。


「【帰らずの森】か……もし本当にそこにいるなら、厄介だな」

「やっぱりあの森には何かあるんですか?」

「いや、何もない。目印も、地図もな。それにあの森には方向感覚を狂わせる植物が生えていてなぁ……エレノア学長も、ネス先生も不在な時にこんな面倒な事になるとはな……面倒くせぇ……」

「先生、ヘスターくんを探してください……! 元はと言えば私達のせいだし……」

「……まぁ、ぼちぼちやるよ。てめぇらは気にせずいつも通りの生活を送れ、適当になんとかする」


そう言い残し、ジオ先生は何かを紙に書きながら去って行った。

リリーナは俺のローブを離さず、決意を固めた様に俺の目をまっすぐ見た。


「探しに行こう」

「……だが、まだ【帰らずの森】にヘスターが行ったとは限らないぞ」

「それは……! そうだけど……」

「……俺に考えがある。数日待っていてほしい」

「って事は!」

「あぁ、あの様子じゃ先生は頼れないからな。俺達で解決しよう」


リリーナはベンチから飛び上がり、俺に抱きついてきた。


「ありがとうっ! 絶対見つけよう!」

「あぁ。とりあえず今日は一旦解散だ。明日一日は準備に回って、明日明後日に捜索に探しに行こう。それまで勝手に探しに行くなよ」

「うっ。肝に銘じておきます……」


釘を刺されたリリーナは小さくなりながらも、俺に笑顔を向けた。

________________________________________

「って事で人を探している。何か便利な呪物はないか?」

「……朝イチで何かと思えば、私を便利屋か何かと思っていないかィ?」


ジュディは猫のカップでコーヒーを飲みながら、ボサボサの髪を櫛で整えている。


「頼む」

「……一応私は2年の先輩なんだよォ? もっと敬意とかないのかい?」

「お願いします。可愛い後輩の為と思って」

「それはキミのセリフじゃないねェ……まぁないわけじゃあないがね」


ジュディは引き出しの中身をガサガサと漁り、中から何かの皮でぐるぐる巻きにされた小さな棒を取り出した。

そしてその皮を剥ぎ、直接手で触れない様に俺に差し出した。


「ペン?」

「あァ、探し物の場所が分かるペンだよ」


俺はペンを手に取り、まじまじと見つめた。

一般市販されていてもおかしくない様な綺麗なペンで、なんの変哲も無かった。


「あァあァ! あんまり持たない方がいいよ!」

「え?」


ペン先からインクが垂れ、俺のローブに一滴落ちた。それは黒いローブに真っ赤なシミを残し、かすかに血の匂いがした。

俺は嫌な予感がし、ジュディにペンを返した。するとペンを握っていた手の平からは出血しており、俺はその光景に仰天した。


「これは使用者の血をインクとして物を書くペンだよォ、それに探したい物を紙に書いてくれる。ただインクの使用量が異常なまでに多いから、一日一分以上の使用はオススメできないねェ……」

「そうか。何か書けるものはあるか?」

「この紙なら使っていいよォ」


そう言ってジュディはまっさらな紙を取り出し、机の上に置いた。

俺はジュディからペンを受け取り、その紙の上にペン先を付ける。するとペンが走り出し、紙の上に文字が描かれていく。


「えェとなになに……汝の探し求める者は……日も当たらぬ深き場所にて……たった一人でェ……」

「もっと簡潔な文章にならないのか?」

「そりゃペンだって血を吸いたいだろうから、無理じゃないかねェ」

「そうか。ならば二度と血も吸えないようにしてやろう」

「えっ! ちょ! 壊すのは勘弁してくれェ!」


俺はペンを力強く握り、ペンがミシミシと嫌な音を立て始める。

今まで一文字一文字噛み締める様に書いていたペンは、雑にザラザラと文字を書き俺の手から自発的に離れた。


「ひェェ……今後キミには呪物の貸し出しはしたくないね……」

「それよりも、なんて書いてある?」

「あェ? ……ここからの距離と方角が書かれているねェ。あの森の中だ」

「そうか。やっぱり一人で行ったのか……」

「まぁそう気を落とすなァ。人付き合いが全くない私からしても、キミ達はあまり悪くない」


ジュディは俺に、コーヒーの入ったドクロのカップを差し出した。

湯気も立っていない冷めたコーヒーを飲み、俺は息を吐く。


「悪いのは彼を追い詰める環境だろう」

「環境?」

「あァ。聞いてる限り、何かの事情がある様に思える。それは彼を苦悩させ、自虐させ、いずれは破綻に追い込む」

「どういう事だ?」

「時には飛ぶ勇気も必要だって事さァ。さァさ帰った帰った、私はこれから着替えるんだ」

「そうか。ありがとう、助かった」

「おォう。代わりに石碑とその変な月光草を持ってきてくれたらいいよォ」


ジュディは大笑いしながら、俺を部屋から押し出した。

暗い地下室に閉め出された俺は、ドクロのカップに入ったコーヒーを飲み干しその場にカップを置いた。

その時、俺の手が血まみれだった事に気づいた。


「……あぁ、ペンのせいか」


このままでリリーナに会えば、きっと心配されてしまう。

俺は血が垂れない様に受け止めながら、手を洗える場所を探して地下室を出た。

別に魔術で水を出せばどこでも洗えるが、血が混じっているから排水溝が備わっている場所で洗いたい。

校舎を彷徨いていると、トイレが目に入る。ここなら血を洗い流しても大丈夫だろう。

そう思っていると、トイレのドアが開いて誰かが出てきた。


「あぁ? テメェは……!」

「ん? あ、イグレ」


俺の言葉を遮る様に、顔面に向かって蹴りが飛んでくる。体を反らせて回避するが、鼻先に少し掠った。

距離を取り、イグレアの様子を見る。

イグレアは懐から短杖を取り出し、俺を睨みつけている。


「異端野郎……テメェと教室で顔を付き合わすのもムカつくって言うのに、こんな所でも出会うなんてクソムカつくぜ……!」

「イグレア、どいてくれないか? 手を洗いたいだけなんだ」

「異端野郎の要望を通すほど俺が心優しいと思ったか……?! ちょうどいい、ムカッ腹が立ってたんだ。テメェをぶちのめせばスカッとするだろうよ!」

「いや、本当に手を洗いたいだけだ。それにもうそろそろ授業が始まる時間だし」

「問答無用! 消えろ【炎矢(フレイム・ショット)】!」


炎の矢がいくつも浮かび上がり、こちらに飛んでくる。ただ狙いが甘く、全て俺を無視して背後に飛んでいく。

次の瞬間、ガラスが粉々に割れる音が聞こえる。振り返ると、窓が割れガラスが飛び散っていた。


「俺を甘く見てんじゃねぇぞ!」

「ぐっ!」


背後を見ている隙に、イグレアの蹴りが俺の腹に押し込まれる。

吹き飛ばされ窓際に押し込まれ、ガラスの破片が背中に刺さる。

窓枠に飛び乗り、イグレアは俺にまたがる様に立つ。


「全力だ、死ね。【灼熱極炎(インフェルノ・バーン)】ッ!」

「【シールド】ッ!」


短杖から赤い炎が溢れ出し、俺に向かって一直線に放たれる。

シールドで防ぐが防いだ炎が跳ね返り、廊下を埋め尽くす。


「被害が大きすぎる! やめろイグレア!」

「俺に指図すんなぁ!」

「……許せよ」


俺は窓枠に寄りかかった状態で体重をかけ、窓の外に仰け反る様に飛び出る。ついでにイグレアの股間を足で蹴り上げ、一緒に外に出す。


「外なら被害はそこまで出ない、来い」

「……っ! ……ッッッ!」


イグレアは蹲ったまま起き上がらず、言葉にならない声を叫んでいる。

俺は背中に刺さったガラスを抜きながら、ついでに手の血を流し落とす。校舎内ではないから、きっと大丈夫だろう。


「てめ、ころ、ぶち殺す……!」

「ならとっとと来い」

「言われなくても……! 【灼熱極(インフェルノ・)炎球(サンショット)】ッ!」


短杖から巨大な炎の球が、連続で放たれる。地面を抉りながら飛んでくる球を避けつつ、俺はイグレアに向かって手を構える。


「【インパクト】ッ!」

「甘いんだよ!」


俺の放った衝撃波を避け、イグレアは絶えず魔術を放つ。


「【スラッシュ】!」

「炎がぶった斬られたおかげで軌道が見えるぜ!」

「くっ! 【グラビティ】……!」

「【炎矢(フレイム・ショット)】!」


俺が指を構えると同時に、イグレアが炎の矢を飛ばす。以前にも増して速度を上げた炎の矢は、俺の肩を貫いた。

焼けるような痛みが肩を抜け、傷跡に炎が残る。


「それは構えがいるんだろ……一回受けたんだ、もう二度と当たると思うな!」

「動きを上げたな……!」

「【灼熱極(インフェルノ・)炎球(サンショット)】!」


痛む肩を庇いながら、イグレアから打ち出される炎の球から逃げる。

滑り込む様に大きな岩陰に隠れ、息を整える。

すると俺の座っている地面が赤熱し、地面が盛り上がった。


「【灼熱極(インフェルノ・)炎柱(パルテノン)】!」


小さな火口が開き、そこから炎が吹き上がる。

俺は何とか避けるが、岩陰から出てしまったが為にイグレアと目が合ってしまった。


「異端魔術は俺達の知る魔術と違ぇ、何が出るかがわからねぇ。だから全力で潰すんだよ、異端野郎……!」

「これは信条的に使いたくなかったが、この際仕方ない」

「次は何を仕掛ける異端野郎! 今の俺ならどんな異端でも真正面から叩き潰せるぜ!」

「最大光量、【光球(フラッシュ)】!」

「クソが! この後に及んで目眩しか!」

「【スティール】」


俺は紐を引くように指を動かし、魔術を発動した。

イグレアの手から短杖が飛び出し、俺の手元に飛んできた。


「……」

「これはあまりにも卑怯だから、あまり使いたくないんだ」

「んだそりゃ……なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


イグレアは俺に向かって走り出し、拳を振り上げた。

その拳を受け流し、イグレアに足をかけ転ばせる。


「杖は魔術の威力が増強する補助具……だったか? だが補助具を使い続けると、いずれはそれ無くすとパニックに陥るようになる。と授業で習ったな。お前は謹慎でいなかったがちゃんと」


イグレアは俺の話を遮る様に、地面を何度も殴りつけた。その耳は真っ赤に染まっていた。

俺はそっと杖をイグレアのそばに置き、その場を去った。

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