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異端使いの学園支配  作者: 酒ッ呑童子三号
入学〜帰らずの森
7/17

7話 届け物

あれから四日ほど経った。へスターからの直接的な接触はなく、授業が終わり次第足早に教室を去っていく。

そんな様子を横目に、俺とリリーナは将来の事を考えて4級魔術の勉強に勤しんでいた。


「じゃあおさらい! 4級から詠唱と攻撃性が備わる魔術、この魔術から身を守る方法は?」

「遮蔽物に身を隠す。同属性・同ランク以上の魔術で打ち消す。有利な属性の魔術をぶつける」

「正解! いやぁ、ラルくんは魔術座学が苦手だったとはね……」

「今まで感覚で魔術を使ってきたからか、どうにもな。だが、もう覚えたぞ」

「私もラルくんみたいにスイスイと魔術を使えたらいいんだけどね……どうやっても難しく考えちゃうや」


リリーナは困った様に頬に手を当て、ため息をつく。


「あ、あなた達ちょうどよかったわ」

「ん? あれは……」


中庭に入り、俺達に駆け寄ってくる中年の女性が目に入った。

ジオ先生がいない時に代わりに雑学を担当する、キュラー先生だ。


「どうしたんですか?」

「実は急ぎの用事があって学長の所に行かなくちゃならないんだけど、この箱を今すぐ地下室に届けなきゃならないのよ」


キュラー先生は手の平サイズの木箱を取り出した。

その木箱には、何かの文様が描かれた紙がベタベタと貼ってあった。


「あなた達授業態度もいいし、信用できるから地下に届けるのをお願いできないかしら」

「任せてください! 私とラルできちんと届けます!」

「よかったわ。地下の第三研究室っていう部屋にお願いね」


キュラー先生はリリーナに箱を渡し、走って中庭から出て行ってしまった。


「さ、早く届けよう!」

「リリーナ、俺は別に届けるとは言っていないぞ」

「え!? 一緒に来てくれないの?」

「いや行く。だがその頼まれた事を喜んでやる性格は、いつか破滅を呼び込むぞ」

「そういうラルくんだって……治せそうな欠点がない」

「完璧って事か?」

「どうしようもない欠点まみれって事だよ! ほら行くよ!」


歩き出したリリーナの後を追い、俺は釈然としないまま校舎に入った。

昼休み故にあまり人のいない校舎を進み、地下に伸びた木製の階段にまでやってくる。


「地下室ってここからだったよね……」

「生徒手帳の地図にはそう書いてあるな」

「お化けとか出たらどうしよう……」

「そんな物が、この世にあるわけないだろう」


俺はリリーナから箱を取り上げ、木製の階段を降りていく。

地下はひんやりと冷たく暗く、埃とカビの匂い充満していた。


「何も見えないな」

「何か光を持ってくるしかないよぉ……」

「そんな事しなくても……【光球(フラッシュ)】」

「あ、まだ光の4級取ってないのに使ってる! それ異端魔術と同じ扱いって習ったでしょ!」

「俺は異端使いだ。それに緊急時と練習の時は使っていいんだろ、なら今は緊急事態の練習時だ」

「屁理屈ばっかり……!」

「なら消すか?」

「むぅ……」


俺に向けて冷たい視線とむくれた顔を向けつつ、リリーナは俺のローブの端を握る。

そしてしきりに周囲を見渡し、反響した俺達の足音にいちいち驚いている。

そんなに怖いのなら、来なければよかったものを。

そう思っていると、曲がり角に大きな部屋が見えてきた。


「あ、扉に第一研究室って書いてあるよ」

「なら二つ隣の部屋だな」

「なら早く行こうよ!」


急かすリリーナに引っ張られながら、俺は部屋に沿うように廊下を歩く。

そして、二つ目の扉の前で立ち止まった。


「あれ……第一研究室って書いてある」

「そうか。きっと部屋が大きいから扉が二つあるんだろう」

「そっか……ならあと三つ先の扉だね!」


俺は何か不思議な感覚に襲われながらも、リリーナに引っ張られ先に進む。

一つ、二つ扉をスルーし、三つ目の扉の前で立ち止まった。


「あ、れ……第一研究室……?」

「妙だな。戻ってみるか」

「う、うん。というか一回上に戻ろう!」


俺は振り返り、先を照らす。しかし、廊下が無限に通じている様な遠さを感じた。


「……おかしい」

「え?」

「俺達はそこまで歩いていない。角を曲がって第一研究室の扉を見つけたのだって、たかだか数十メートルだ。だが、今はその曲がり角の突き当たりすら光が届いていない」

「え……ど、どういうこと!?」

「多分後ろに進んでも無駄って事だ……一度地図を確認するか」


俺はポケットに手を入れ、生徒手帳を取り出そうとした。

しかし、いつも入れているポケットに生徒手帳が入っていない。

他のポケットも調べるが、どこにも入っていない。


「リリーナ、生徒手帳を落とした。貸してもらえるか?」

「も、も〜しょうがないなぁ! 落とすなんてうっかりさんなんだから!」


わざと大きな声を出しながら、リリーナは自分のポケットを探り生徒手帳を俺に差し出した。

受け取ろうとした時、リリーナよりも後ろに何かが落ちているのが見えた。

俺の視線を辿り、リリーナも背後を振り返る。


「あれって……生徒手帳?」


俺はリリーナの横を通り抜け、地面に落ちている生徒手帳を拾い上げた。

中を改めると、間違いなく俺の生徒手帳だった。


「俺のだ」

「え……でもラルくんはそんな先まで行ってないよ……?」

「リリーナ、少し歩くぞ」


俺はわざとその場に生徒手帳を置き、リリーナの手を引っ張り先に進んだ。

また扉が見え、それをスルーする。そして二つ目の扉が見えた時、少し先の地面に生徒手帳が落ちているのが見えた。

二人揃って無言のまま、生徒手帳を拾い上げる。


「……俺のだな」

「る、ループしてるって事……!?」

「あぁ、恐らくな」

「そ、そんな事現実的にありえないよ……!」

「まぁ実際起こっているからな」

「うぅ……お化けよりかは怖くないけど、帰れるのかな……」

「……伏せろ!」


リリーナの頭を抑え、地面に伏せる。正面から飛んできた何かが俺達の頭の上を通過して、後ろの方に飛んでいく。

俺達の目の前には、真っ二つになった蜘蛛の巣がハラハラと落ちてきた。


「な、なに……」

「刃物……? だが透明だったな……」


壁に触れてみると、何かが鋭い物が壁を削りながら飛んでいった跡が確認できた。

恐らく立ったままだと、首の下から真っ二つになっていただろう。


「うぇぇ……もう嫌だぁ……」

「なら箱をここに置いて帰るか?」

「それも嫌だぁ……頼まれたからには、ちゃんと届けないとぉ……」


涙を流しながら、リリーナは箱を大事そうに抱える。


「……ん? 少し貸してくれ」


リリーナから箱を半ば取り上げ、箱の調べる。

貼ってあった紙が少し剥がれ、蓋が少しだけ空いていた。


「……これか?」

「え?」

「これが原因かもしれない」

「そんなわけ……あるかも。なぜかずっと暖かかったんだ……」

「壊すか。【スラッシュ】」


箱を後方に投げ上げ、指を滑らせ透明な刃を放つ。

刃は箱を真っ二つに裂き、そのまま飛んで行ってしまった。

すると鈍い衝撃音が響き、地下室が揺れた。


「うぇっ、なになに!?」

「どうやら正解みたいだな」

「え? あ、さっきの突き当たりの壁!」


俺達の後方には、さっき曲がってきた壁が照らされた。壁の中央部には刃物でできた様な跡があり、恐らく俺の魔術が当たったのだろうと推測できた。

真っ二つになった箱をリリーナが拾い上げ、周りをキョロキョロと見渡す。


「何を探しているんだ?」

「箱の中身がない……さっきはもうちょっと重かったのに」

「中身も真っ二つだろうしな……先生と受け取り手にも謝らなきゃな」

「私も一緒に謝るよ……」


箱の中身の諦め、俺達は廊下をまた歩き出した。

そして扉に差し掛かり、扉に書かれた文字を読んだ。


「よかった、第二研究室だよ!」

「ならあと少しだな」


そう言って先に進もうとし、二人とも足を止めた。

ヒタリ、ヒタリと裸足で石を踏むような足音が、廊下に鳴り響いたのだ。

俺は光量を最大にし、後ろを見る。しかし後ろにはキチンと壁が見え、俺はほんの少し安堵した。


「……! ……!」


リリーナが声にならない叫び声を上げ、俺のローブを強く引っ張る。

俺はリリーナの方を見る。その時、廊下の奥に見えてしまった。

紫の髪を地面に垂らし、俺達の方にやってくる裸足の女。

学生のローブを着て、項垂れながらゆっくりとこっちに向かってきている。


「おばおばおばばばばばばば……!」

「く、そんなもの存在しない……!」


俺のローブに半分くるまっているリリーナを後ろに下がらせ、魔術をいつでも打てるように構える。

裸足の女はこちらに気付いたかのように、顔をゆっくりと上げる。その時、髪の間から緑の眼が光った。


「【インパクト】!」


指を突き出し、衝撃波を放つ。

すると女は何かを懐から取り出し、俺達に向かって投げつけた。

衝撃波はそれに当たると同時に、消えてしまった。


「貫通しない……!?」

「ひぃ……手縫いの人形だよぉ!」


俺達の足元に転がったそれは、恨みの籠った表情の人形だった。

すると人形の腹がぶくぶくと膨れ、何かが中で暴れる様に蠢き出した。


「それ、危ないよ」

「……っ! 【シールド】!」


シールドを展開した瞬間、衝撃波が人形から放たれシールドにぶつかった。

廊下の向こうで女は手を叩いて笑っている。どうやら生きている人間の様だ。


「お前……何者だ」

「あ〜……あ〜? 私かァ? 私は【ジュティ・アドルネシア】、この第三研究室を根城にする研究者さァ。キミタチこそどうしてこんなところへ?」

「第三研究室……? 俺達はそこの人に届け物を頼まれたんだ、ほら」


俺は半分気絶しているリリーナから箱を取り、ジュティに向かって軽く投げた。


「お、お……? おォ! これは頼んでおいたブツじゃあないか! いやァ半年届くのを待っていたんだよォ!」

「あ、実は伝えなければならない事があって」

「ふふふ……! これを手にするためにどれだけの苦労と金をォ……あ? どうして真っ二つになっているんだ?!」

「実は……」

「せっかく、半年も待ったのにィ……」


ジュティは膝から崩れ落ち、そのままうつ伏せになって動きを止めた。

俺はローブにくるまり完全に気絶したリリーナと、ピクリとも動かないジュティを交互に見た。


「なんだこの状況は……」


誰も聞いていない地下室の廊下で、俺は一人立ち尽くした。

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