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異端使いの学園支配  作者: 酒ッ呑童子三号
入学〜帰らずの森
6/17

6話 うまい話

試験会場を後にし、食堂に向かう。

居住区域の隣で試験を行ってくれるのは、とても便利だ。

食堂での修理されたばかりの壁際の席で、リリーナが待っていた。


「あっ、ラルくん!」

「やぁ、無事合格したよ」

「よかった〜……遅かったからダメだったんじゃないかって、心配したんだから……」

「でもこれで退学は二人して免れたな」

「よかった〜! 早速お祝いしなくちゃ!」


リリーナは浮き足だった様子で、食べ物を買いに行こうとする。

しかし、その行手に男が立ち塞がった。

その手には大量の菓子と、飲み物の瓶を抱えていた。


「その祝いの席に、俺も同席させてもらってもいいっすか?」

「……誰だ?」

「あれっ、覚えてないんすか!? 俺っすよ、先週盾にされた……!」

「……誰だ?」

「へスター・ラピスっすよ! 確かに昨日髪染めましたけど!」


へスター。へスター……

思い出した、先週の授業で盾にした男だ。しかし雰囲気が違う。前は黒髪で制服もきっちり着こなしていたが、今は茶髪で制服も着崩している。


「どうして髪を染めたの?」

「イメチェンっすよ、モテる為の工夫っす」

「へ、へぇ〜……」


リリーナはへスターの格好を見て、静かに首を傾げた。


「それで、そのへスターが何の用だ」

「あぁいやいや、俺はただ純粋に祝いたいと言う気持ちで……いや、隠しても無駄っすね」


へスターは伸びを一つしてから、俺とリリーナの対面に座った。


「実は面白い話を耳に挟んだんすよね。この学園の隣の森に、読めば誰でも体系1級を獲得できる様になる秘密の石碑があるって言う噂っす」

「そんな与太話、興味ないな」

「私は少し興味あるかな。でもそんな石碑はないんじゃないかなぁ」

「と思うじゃないっすか。こんな物があるんすよ」


そう言ってへスターは一枚の紙を取り出した。


「これは翠星の集まる部屋から盗み取って来た物なんすけど、ここにその森に行く予定が書かれているんすよ。しかも翠星だけじゃないく、【紅星(こうせい)】や【蒼星(そうせい)】も同じ日に森に行くって……!」

「待て、【紅星(こうせい)】と【蒼星(そうせい)】って言うのはなんだ?」

「この学園における1級魔術師の呼び名っすよ。火の魔術師なら【紅星(こうせい)】、水なら【蒼星(そうせい)】って感じに呼び方が変わるんすよ。ちなみに1級魔術師は、四年に4人、三年に6人、二年に1人いるっすよ」

「俺は少し幸先が不安になってきたぞ。6人を後一年で倒せる様にならないといけないのか」

「ら、ラルくんならきっと大丈夫だよ……!」

「え、何の話っすか?」

「ええっと、かくかくしかじかで……」


リリーナから俺の話を聞き、へスターは腕を組んで天井を見上げた。

そして少し考えた後に、俺の肩を叩いた。


「その噂の石碑さえ見つければ1級魔術師だけじゃなく、全ての生徒があんたに従うっすよ……!」

「そうか、なら探しに行こう」

「ちょろいっすね……」

「うん……ラルくんは世間知らずと言うか、純粋なんだよね……」

「それで、いつその森に行く?」

「あ、それなんすけど。この予定日の少し前に行こうと思うんすよ」

「つまり来週末ってこと?」

「そう言う事っす、これにはちゃんと理由もあって」


へスターは制服の中から、一輪の花を取り出した。


「あ、月光草。でも少し形が違う……?」

「そうっす。水をかけると月の光と同じ波長の光を放つ月光草。これがこの紙と一緒に置いてあったんすよ」

「何か関係があるのか?」

「少し水を出してもらってもいいっすか?」


リリーナが魔術で水を出し、月光草を濡らす。すると花が淡く光りだした。

へスターはローブを外し、その月光草を覆う。


「中、覗いて見てください」


俺が頭を突っ込むと、少しの汗と埃の臭い。そして一方向に光を伸ばす月光草が見えた。


「どこかに向かって、光が伸びてるな」

「え、見せて見せて! ……ほんとだ、月光草はこんな風に光らないよ」

「これの指す光の方向、その噂の森の中なんすよ」

「つまり……?」

「この月光草が、その石碑への地図になっているんじゃないか……と思ったんすよ!」


そんな事はないんじゃないか。と言いかけた言葉を飲み込んでしまい、俺はどう反応しようか迷う。

可能性がない訳ではないが、あまりにも話が突飛すぎる。

それに不可解な点が一つある。


「なぜへスターは俺達に声をかけたんだ?」

「ふぇっ!? あ〜……それ聞きます?」

「確かに。私達じゃなくても良いよね」

「実は最初はイグレアに話を持って行ったんですけど……『そんな与太話に興味ねぇ』って一蹴されちゃいまして」

「……だから私達に?」

「いや、実習の時とかもラルさんは強かったですし。リリーナさんだってほら、ラルさんに一撃入れてたし……」

「本当の理由は別にありそうだな」

「あ〜……」


へスターは逃げ場を探す様に視線を右往左往させるが、観念した様に肩を落とした。


「怒らないで欲しいんすけど……正直友達いなさそうだから、この話が他に広まる事ないかな〜って」

「ひどい! けど事実……」

「まぁ俺達交友関係は広くないからな」

「あと落ちこぼれの二人ならこういう美味い話に、すぐに食いついてくるかなって……」

「信じられない、ラルくんこういう人を信用しちゃダメだよ! 隣の家のおばあちゃんも『こういう奴は骨までしゃぶってくる』って言ってたし!」

「落ち着けリリーナ、隣の家のおばあちゃんの事を俺は知らない」


憤慨するリリーナを宥め、椅子に座らせる。


「いやぁ信用されないのは元から分かってたけど、ここまで言われるんすね……」

「正直な所は悪くないが、性根が腐ってるから仕方ないな」

「正直でもないよ! 一回誤魔化したよ!」


へスターはまるでイタズラがバレた子供の様に、肩をすくめて小さくなった。


「どうするリリーナ」

「気にはなるけど、あんまりこの人は信用しちゃいけない気がする……」

「俺としては、別にこっちに明確なデメリットがないなら行ってもいいと思っている。リリーナはどう思う?」

「明確なデメリット……う〜ん今の所は思い浮かばないかなぁ」

「なら行ってみるか?」

「う〜んなんだかいい様に話が進みすぎている気がするけど……しょうがないな」

「と言うことだへスター。その石碑探し、俺達も連れて行ってくれ」

「マジっすか!? マジで感謝っす!」


俺とリリーナの手を握り、へスターは大きく上下に振る。

リリーナはすぐに振り払い、杖を抱いて腕を組んだ。


「でも何か悪い事が起きたり、何かの責任問題になったらヘスターくんが責任を取ってね!」

「あ、そこはもう全然大丈夫っす! 任せてくださいよ!」


ローブを羽織ったヘスターは、持ってきたジュースを嬉しそうに三つのコップに注ぐ。

そして、それぞれを俺とリリーナの前に差し出してきた。


「ささ、契約成立と二人の体系5級の祝会っす! かんぱ〜い!」

「乾杯」

「え、乾杯……!」

「これ全部奢りっすから、どんどん食べちゃっていいっすよ!」

「え、これ全部!? このお菓子とかも?」

「そうっすよ〜! これとか街でも中々買えない銘菓っすよ!」

「わぁ……! いいかな、食べてもいいかな!」

「どうして俺に聞くんだ。……俺も一つもらおうか」


少しずつ人の増え始めた食堂の片隅で、俺達のささやかな宴が始まった。

俺は初めての他人との宴に心を躍らせながら、味わった事のない甘味に舌鼓を打った。


これが、俺達の学園生活最初の大事件になるとは思いもしなかった。

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