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異端使いの学園支配  作者: 酒ッ呑童子三号
入学〜帰らずの森
5/17

5話 体系魔術5級

一斉に杖や魔導書が向けられ、俺に向かって無数の魔術が放たれる。


「【シールド】」


指を弾いてシールドを出し、様子を見る。

イグレアや食堂で戦った上級生とは違い、威力もランクも低い魔術だ。シールドが削れる事はなく、ただ時間だけが過ぎた。


「ふぁ……」

「貴様らは標的役があくびを出す程つまらん魔術しか打てんのか! もっと気合を入れろ、工夫を施せ!」

「異端魔術は卑怯だべ!」

「今弱音を吐いた奴は誰だ! 貴様が荒地で敵に殺されそうな時にも、『殺すのは良くない!』などと宣うのか愚か者!」


ザイレム先生は第5演習場の端から怒声を飛ばしている。

しかし相変わらず他の生徒達は、俺のシールドに向かって必死に魔術を打ち込んでいる。


「【水球(ウォーターボール)】!」


背後から飛んできた魔術が、俺の背中をびしょ濡れにする。

振り返ると、リリーナが杖を構えて立っていた。


「やっぱりすぐには動かせないっぽいね、その魔術」

「リリーナ・イオニア一点! 奴を見習え凡骨共! 常に工夫を忘れるな!」


リリーナの行動とザイレム先生の激励を受け、生徒達の動きが変わった。

固まって魔術を打っていたのが、一斉に弾ける様に走り出した。


「【火球(ファイア)】!」

「【水矢(ウォーターショット)】!」

「【嵐矢(ストーム・ショット)】!」


一斉に四方八方から魔術が飛んでくる。

どうやら本番はここからの様だ。

俺は両腕を脱力し、地面に向かって手の平を向けた。


「【インパクト】!」


両腕から衝撃波が放たれ、俺は空へと飛ばされる。

魔術が飛び交う第5演習場を見下ろし、さっきの集中砲火で高威力の魔術を使った奴を捕捉する。

空に向かって腕を伸ばし、頭の先をそいつに向ける。


「【インパクト】!」

「ちょっ!?」


衝撃波は俺の体を地面に向けて飛ばし、そいつの背後に着地する。

危険度の高い者から排除するのが、最適解だ。


「貴様! 標的役は反撃禁止だ!」

「あぁ、知っているさ」


食堂でも攻撃を止められた、だから今回は最初から攻撃を予定していない。

そいつの背後にピッタリと付き、周囲を伺う。

魔術を打とうとしているが、こいつに当てるわけにはいかないといった様子だ。


「えぇっと……ハロー? ラル……なんだっけ?」

「ラル・ガスコールだ。少し盾役になってもらうぞ、名前は……」

「あ、オレはへスター・ラピスっす。じゃなくって、何でオレんとこ来るんすか!」

「お前が一番強い魔術を打ったからだ」

「こっち来ないで欲しいから打ったのに……」


肩を落とすへスターを見ながら、俺は周囲の様子を見る。

イグレアは演習場の隅で退屈そうに寝転んでいる。誰もイグレアに魔術を打ち込もうとは思わないようだ。

となると異端使いの俺に全ての矛が向くわけだ。


「これはキツイな」

「モタモタするな、流れ弾で怪我する事などよくある事だ! あと5分!」

「【水矢(ウォーターショット)】!」


俺に向けて放たれた水の矢は、俺の盾に徹してくれていたへスターを吹き飛ばした。


「い、今だ!」

「【炎柱(フレイムピラー)】!」

「【水球(ウォーターボール)】!」

「【風矢(ウインドショット)】!」


誰かの声を皮切りに、また魔術の一斉砲火が始まった。

俺は演習場の壁に沿って走り、当たりそうな魔術はインパクトで打ち消していく。

一つ一つが大した威力はないが、これだけ数があると視界の確保すらままならない。


「角だ! 角に追い込め!」

「まかせろぉ! 【火柱(ファイヤピラー)】!」


火の柱が壁から吹き出し、俺はどんどん演習場の角に追い込まれていく。


「ついに角に追い詰めたぞ!」

「逃すな、囲め!」

「これで大量得点だ!」


ジリジリと圧をかける様に、ゆっくりと包囲の隙間を無くしていく。

人数がいるだけで、これほどまでに不利になるとは思わなかった。


「全員一斉にだ、抜け駆けするなよ」

「お前こそするなよ」

「もう盾も壁もない、これまでだ」

「いくぞ……!」


クラスほぼ全員の魔術が俺に向く。俺は地面にしゃがみ込み、魔力を流し込んだ。

覚えたてで上手く使えるかは分からなかったが、今やらなければいつやるのだ。


「「「打てぇ!」」」


一斉に魔術が放たれ、衝撃音と土埃が当たりを埋め尽くす。

俺は背中を角に押し込めながら、正面に作った土の壁を撫でた。


「結構使えるな……」

「当たってないぞ!」

「おいこれどうするんだよ!」

「土魔術得意な奴いるか!」


壁の向こうでは、てんわやんわと騒がしい。

咄嗟に作ったが、厚さは必要以上に盛った。どんな魔術が来ても、時間までは防げるだろう。


「クソ! 何で土魔術得意な奴がいないんだよ!」

「とにかく打ち込め!」

「無駄だって……!」


ついには言い争う声まで聞こえてきた。

これは出て行って止めるべきと思い、壁に手を触れ崩そうとした瞬間。


「そこまで! 貴様ら直ちに集合!」


ザイレム先生の大声が、演習場に響き渡った。


「貴様らみたいなボンクラは初めてだ! これ程までに魔術ができんと明日の飯すら確保できんぞ!」

「……」

「何か言い訳のあるものはいるか!」

「あ、オレいいっすか」

「ダメだ! それに貴様はぬけぬけと盾に使われたから、大幅減点だ!」

「えぇ!? そりゃないっすよ!」

「黙れ! まず貴様ら、標的役は二人いる事を忘れたのか! 仕返しが怖くて魔術師が務まるか、このボンクラクソデクノボウ共が!」

「……けっ、腰抜け共が」


イグレアは悪態をつき、ゼッケンを地面に叩きつけて演習場の出口に向かう。

そのイグレアの頭を掴み、ザイレム先生は地面に叩きつける。


「おい貴様。まだ授業は始まったばかりだぞ、どこに行こうというのだ」

「あぁ!? やっただろ!」

「ここからはさっきの反省と、復習。そして自分の魔術を磨け! 俺が監督役として見ててやる、困った事や、わからない事があったら俺に聞け! 各自散会し即刻訓練を開始せよ!」


ザイレム先生はイグレアから手を離し、土の魔術で人型の的を作って演習場に散らした。

生徒達はぽつりぽつりと散会し、各々が土人形相手に魔術を打ち込み始めた。


「ラルくん、さっきはすごかったね」

「リリーナ」


小走りで駆け寄ってきたリリーナは、頬にかすり傷を作っていた。

俺が傷に気づいたのを察したのか、リリーナは大きな手袋でその傷を隠した。


「ラルくんを狙う途中で転んじゃってさ……恥ずかしいね」

「いいや、努力の証だな」

「そうかな……! あ。各自練習だから、私達も体系5級の練習しよっ」

「リリーナ・イオニア!」

「ぴゃっ! ざ、ザイレム先生……」


いつの間にか、ザイレム先生がリリーナの背後に立っていた。

純粋に背丈の差が三倍くらいあるんじゃないだろうか。


「さっきの一撃は見事だった。他の生徒も貴様に続いた、いい影響を与えたな」

「え……そうですかね……」

「怯えるな! 胸を張れ! 貴様は優秀だ! では練習に励む様に!」


そう言うと、ザイレム先生は俺からゼッケンを引っぺがすと他の生徒に呼ばれて行ってしまった。

残された俺達は顔を見合わせ、リリーナがクスリと笑った。

________________________________________

あれから二日。

俺達は昼も夜も空いてる時間は二人で魔術を特訓した。

5級の試験は簡単らしく、殆どは出せれば受かるらしい。

鬼門は土の魔術で、一定量の土を一気に動かせるのが5級を名乗れる条件らしい。


「予想よりも受験者が多いな」

「入学して一回目だからね……緊張してきた……」


杖を抱きしめながら、リリーナは身震いする。

俺は自分の整理券と、リリーナの整理券を見比べる。


「試験場が違うな」

「一人一人試験官と対面だから、時間がかかるんだね……合流は終わってから食堂でねっ!」

「あぁ、必ず受かって祝杯をあげよう」

「うんっ!」


列が大きく進み、俺達の番がやってくる。

整理券ごとに別々の部屋に分けられ、一人一人試験管の待つ部屋に通される。


「ラル・ガスコール」

「はい」


俺は名前を呼ばれ、部屋に入る。

部屋の奥には長机と、二人の男が見えた。


「私は魔術局より派遣された試験担当、ジェスファーだ」

「僕は今回の試験で補佐を担当するハスターだ、よろしく」


魔術局の制服をきっちりと着こなしたメガネの男と、その横に立つ爽やかな雰囲気を纏った男。しかし俺はその二人よりも、部屋の真ん中に残された焦げ跡に目を奪われた。


「あぁ、それは気にするな。ここでは様々な属性・ランクの試験をする、多少傷つくのは想定済みだ。君も全力を出す様に……いや、君は5級魔術の試験か」

「ジェスファーさん、侮りは死を呼びますよ」

「ハスター、君はいつから見習いを卒業したんだ?」

「あの、試験って何をすれば」

「あぁ、すまない。早速始めようか」


ジェスファー試験管はメガネを押し上げ、咳払いを一つした。


「火・水・風・土の試験、土の用意をしておけハスター」

「はい」

「では、火を出してみてくれ。それで合否を伝えよう」

「分かりました、いきます」


俺は手の平を広げ、その中に小さな火を出した。

この二日間の特訓で、いつでもすぐに出せる様に慣らした。火力の調整も同時に行い、魔力をあまり消費しない様に改善した。これで安定して出し続ける事が出来る。


「ふむ、安定しているな。では次、水を出してみてくれ」

「はい」


俺は手の平から出ている火を止め、水を噴き出させた。

ジェスファー試験管にかからない様、散らばらない様に圧縮し、綺麗な一本線で噴き上がらせる。


「ほう、相当練習した様だな。では次だ」

「分かりました」


俺は拳を握り水を止め、手の平をジェスファー試験管に向けて風を出した。


「はは、心遣いか? いい心がけだが、少し風力が足りない。もう少し強める事は?」

「あ、分かりました」


俺は出す風を少し強める。するとジェスファー試験管の帽子が飛びかけ、それを慌てて手で抑える。


「良い。いい風だ」

「これで大丈夫ですかね?」

「あぁ、もちろんだ。ハスター、土の準備は?」

「できましたよ、ジェスファー試験管」


ハスター補佐官は部屋の隅に積まれた土の塊を指差す。片付けやすい様に、下に大きなシートが敷かれている。


「さぁ、あの量の土を動かして何かを作ってくれ」

「はい」


俺は土の塊に手を伸ばし、魔力を送る。適当に土を固め、球体を作り上げる。

こんな物でいいだろうかとジェスファー試験管の方を見ると、驚いた顔でこちらを見ていた。


「君は……今何をした?」

「何って……土の魔術で球体を作ったんですけど」

「手を触れずに?」

「……この二日間で習得しました」

「あぁ……そうか……」


ジェスファー試験管は困った様にメガネを外し、レンズの汚れを拭いてかけ直した。


「ハスター、君の見解を聞きたい。彼をどう見る?」

「はい。火の魔術は安定しており、相当の力量が見込めます。水の圧縮技術も3級相当以上に達しており、やり方さえ学べば2級魔術もすぐかと。風ですが、一点に集め放つ点においては技術的に素晴らしいかと」

「ふむ、土の魔術は?」

「あれは……どう判別したらいいんでしょうか。遠隔でやる芸当は見た事はありますが、あんな綺麗な球体にまではできないかと」

「やはり見習いだな。あれを我々の中では異端魔術と呼ぶのだ」


ハスター補佐官を鼻で笑い、ジェスファー試験管は手元の紙に目を落とした。


「火・水・風の5級試験は合格。しかし、土魔術は失格だ」

「……なぜですか」

「聞こえていただろうが、あれは異端魔術だからだ。土魔術は土に触れ、形を変化させる事が常識だ。君は触れていない、だから失格だ」

「ジェスファー試験管、少しよろしいですか」


紙に何かを書き込もうとしていたジェスファー試験管の腕を、ハスター補佐官が掴んで止める。


「彼にもう一度チャンスを与えてみませんか?」

「チャンスなら来週にもう一度来る」

「あれだけの魔力量です、将来も有望だ。ここで恩を売っておくのは、将来への投資です」

「彼が魔術局に来る人材……と君は言いたいのか?」

「えぇ。私には、未来が見えていますから」


ジェスファー試験管とハスター補佐官が見つめ合い、数秒するとペンが机に置かれる。


「早くしたまえ、後がつっかえているんだ」

「……ありがとうございます」


俺はジェスファー試験管に急かされ、球体の土の中に片手を入れる。

そして魔力を流し込み、形を変えていく。角は滑らかに、凸凹ははっきりと。

俺は完成した土の塊から手を抜き、試験管の方を向く。


「確かに土の魔術は精密性を大事にする。だが……」

「ふはは、やはり彼は逸材の様ですね」

「感謝の気持ちを込めて、ジェスファー試験管とハスター補佐官の顔を作りました。お納めください」


二人の顔を球体の側面に並べて掘ったが、完成してから見ると妙な気持ち悪さがある。

自分で作った物だが、感謝の気持ちが伝わる様な物ではない。


「さっさと崩せ、気持ち悪い……合格だ、君は今日から体系5級魔術師だ。さぁ次の試験者だ」

「やったな」

「ハスターは始末書だ、長引かせおって……」

「ありがとうございます」


俺はそう言って部屋を出ようとする。


「アルビオンの子……要注意だな」


何か聞こえた様な気がしたが、俺は確証が持てずに部屋を出た。

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