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異端使いの学園支配  作者: 酒ッ呑童子三号
入学〜帰らずの森
3/17

3話 最初の壁

目が覚めると、見慣れない石の天井が見えた。

若干重い体を起こし、周囲を見回す。窓の外はほんのり白んでいて、明け方である事が伺えた。


「……リリーナ」


俺の乗るベッドに寄りかかる様に、リリーナが杖を抱いて眠っていた。

その手には、書きかけのメモが握られていた。

俺はリリーナを起こさない様に、そっとそのメモを抜き取った。


『私のせいで怪我をさせちゃって、ごめんなさい。ラルくんがフーリンさんに後ろから殴られた後、血が出ていたので保健室に運びました。入学式の日は腕試しで喧嘩をして、怪我をする生徒が多いと聞きました。ラルくんの怪我は深くないけれど魔力の消耗が激しいから、明日の授業に出れないかもと言われていました。一日目の授業を受けれないのはきっと痛手だから、必死でメモして後で見せます。だからゆっくりと体を休め』


ここからふにゃふにゃと文字が曲がって、最後は謎の一本線になっている。

周囲のベッドは満床で、シーツを敷いて床に寝かされている怪我人も見える。恐らくリリーナは俺の隣で、必死にベッドを守ってくれていたのだろう。

俺はベッドから抜け出し、綺麗に整える。

そしてリリーナのメモに『ありがとう、また後で教室で』と書き残し、外に出る。


朝の空気はまだ冷たく、頬の傷跡を優しく撫でる。

すぐそこには食堂があり、俺が割ったガラスがまだ修復されずに残っているのが見える。

俺は自分の寮に向かって歩きながら、昨日の戦いを思い出す。


「フーリン・フィンドルド……【風の魔術1級】で、翠星の一人。か」


恐らく視界から消えたのは、風の魔術で自分を加速させたのだろう。しかし一瞬で消える程の加速を施すのは、尋常でない練度が必要なはずだ。

【風の1級】。俺にとっては、まだ遠い壁の話。しかし、必ず越えなければいけない壁だ。


「少し、気合を入れ直すか」


俺は自分の頬を張り、大きく息を吐いた。

古城の様な本校舎の背面から、朝日が登ってくる。

____________________________________

授業開始の鐘が鳴り終わりそうな時に、リリーナは教室に滑り込んできた。


「せ、セーフ?」


教室から小さな笑い声が聞こえ、先生が席に着く様に促す。

リリーナは恥ずかしそうに身を縮めたが、俺の姿を見ると嬉しそうに隣の席に座った。


「遅刻ギリギリだったな」

「保健室で寝ちゃってさ……それよりも傷は大丈夫?」

「あぁ、今は何ともない」

「よかった……」


ほっと息を吐くリリーナ。その表情には、安堵よりも罪悪感の方が強く見えた。


「気にするな。俺が勝手に挑んだだけの話だ」

「でも……!」

「え〜痴話喧嘩なら授業が終わってからで頼めるか?」

「わ! すいません先生!」

「てめぇら昨日食堂で騒ぎを起こした二人だろ、あんまり食堂で面倒事は起こすなよ」


教壇に立つ先生はため息をつきながら、丸メガネを親指で押し上げた。


「俺ぁジオ、てめぇら一年の座学を全て受け持っている……ひたすらに面倒臭いし、人員増やせって言っても聞いてもらえない不憫な先生だ。せいぜい一年よろしくな」


ジオ先生はフラフラと椅子に座り、黒板に頭を預けた。


「最初の授業だってのに出席者は半分程度、理由は分かるか? はい問題児二人答えろ」

「え、え、私?」

「はい正解は入学初日に腕試しやら上級生のシメやらで怪我するからだ、あんま怪我とかしてほしくないんだけどな俺ぁ……」


指を刺されて立とうとしていたリリーナは、何が起きたか分からない顔をしながら立ち上がった。


「何立ってる。何か聞きたい事があるのか?」

「え……いや……え?」

「あぁ、さっきので真面目に立ったの。ご苦労さん、もう座っていいよ」

「……」


リリーナは釈然としない顔をして、もう一度着席した。


「まぁ今日は参加者も少ないから、超基礎的な事でも適当に話すか……」


ジオ先生は長いコートの内から杖を取り出し、その先にチョークを刺して黒板に文字を書き始めた。


「魔術は最初に2つに分けられる。長年の研究と実践によって使用者に対する絶対の安全性と抜群の威力、そして誰でも扱える汎用性を獲得した【体系魔術】。そして安全性も性質も法則も分からない上に、使える者がいたりいなかったりする【異端魔術】だ。今は体系魔術を使うことが魔術局から勧められている」


先生は急に動きを止め、脱力したように杖を落とした。


「腕が疲れた……」


そう言って手を翳し、杖を浮かび上がらせる。

そして浮かせた状態で、チョークは黒板に文字を書いていく。


「体系魔術は5属性5ランクに分けられる。火・水・風・土・光の5属性、5級から1級の5ランクだ。参考までだが、俺は【風の魔術2級】だ。ちなみにそのランクの魔術が全て使える様になったら、【体系魔術◯級】を名乗る事を許される。ちなみにこの学園の卒業条件は、【体系魔術3級以上】だから得意な魔術以外もちゃんと鍛えろよ」


クラス中の視線が集まり、また俺をクスクスと笑う声が聞こえる。

ジオ先生は後頭部を掻きながら、またため息を吐いた。


「あ〜……なんだっけ、名前」

「ラル・ガスコールです」

「あぁ、ラル・ガスコール。どうして笑われてるか分かるか?」

「……【光の魔術5級】だからですか?」

「そうだ。基礎的な魔力の操作と、魔力を形にして体外に出す。この二つが【光の魔術5級】を名乗れる条件だが、これは魔術を使う上で呼吸と同義だ。つまり取れて当然なのが【光の魔術5級】だ」

「……存じています」

「うん……どうせてめぇは今までランク試験受けてこなかったタイプだろ。この学園は毎週末は魔術局から試験官がくるから、来週までに【体系魔術5級】取っとけ。出来なきゃてめぇは退学にする」

「そんな! 横暴です!」


リリーナが声を荒げる。その瞬間今まで黒板に向かっていたジオ先生の杖が、リリーナに向かって飛んでくる。チョーク付きの杖はリリーナの目の前でピタリと止まり、風が教室内を駆け巡る。


「いいか、この学園では少なからず命の危機がある。生徒同士の決闘、授業中の事故、妬みによる暗殺、自分に才能がない事に絶望しての自殺……ここじゃ命の保証は出来ねぇ。おいラル」

「はい」

「てめぇ【風の1級】にボコされたらしいな」

「……」

「魔術を極めようとする奴らは、ああいう自分勝手な奴が多い。異端魔術が得意だか何だか知らねぇが、あんまり慢心してると死ぬぞ」

「はい」

「……チッ」


ジオ先生は舌打ちをし、杖を手元に引き寄せコートの中に仕舞う。


「今日の授業はこれくらいでいいだろ……残りは自由時間だ。それと体系魔術5級は全員の共通課題だから、各々しっかり取っとけよぉ……」


ジオ先生はそう言い残し、教卓に突っ伏し眠ってしまった。


「だ、大丈夫だよ。ラルくんならきっと取れるよ!」

「いや、別にそれは心配していない……どうして震えてるんだ?」

「ゔぇっ!?」


リリーナは顔を青くしながら、プルプルと震えている。

杖を抱えたままモジモジと指を突き合わせ、困った様に視線を逸らす。


「じ、実は私も体系魔術5級持ってないんだよね……あはは」

「取ればいいじゃないか」

「取れなかったんだよぉ!」


泣きそうな顔をしながら、リリーナは自分の手を見つめる。


「ずっと体系魔術5級は取っといた方がいいって村のみんなが言ってたんだけど、どうしても土の5級だけが取れなくて……」

「ちなみに今のランクは?」

「土以外は一応5級は取ってて、水だけ4級……」

「なら後四日で土の魔術を使えるようになればいいんだな」

「三日だよぉ……くそう簡単に言ってくれるなよぉ……」


下唇を噛みながら、リリーナは俺の事を軽く小突きまくる。

リリーナはこんな調子だが、一番気を引き締めないといけないのは俺だ。万が一にも試験に落ちれば、退学と言われてしまった。

師匠からは異端魔術しか教わっていないので、俺には体系魔術のノウハウがない。


「そういえば、ラルはどうして光の5級をだけ持ってるの?」

「入学試験を受ける時に最低でも5級が必要だと言われたから、その場で取った」

「……あれそういう使い方する人いるんだ。普通は入学してからの待遇を良くする為に、もっと上のランクの人が使うシステムだよ……」

「どうりであの試験官も苦い顔をしていたんだな、納得した」

「ラルくんどんな生活してきたの……?」


不思議そうな顔をしながら俺の顔を覗くリリーナを抑え、俺は教科書を机の上に広げる。


「とりあえず、今は体系魔術5級を取るために勉強するべきだ」

「それはそうだけどぉ……無駄だと思うよ……」

「どういう事だ?」


リリーナは無言で教科書の目次を開く。そこには4級からの魔術の事しか載っておらず、5級については一切載っていなかった。


「……5級は基礎の基礎すぎて、専門書とかじゃないと逆に載っていないんだ」

「……じゃあどうやってみんなは学んでいるんだ?」

「親とか、近所の人とか。お金持ちなら家庭教師とかに。とりあえず使える人に聞くしか分からないよ、5級って感覚の世界だし……」


確かに。呼吸の仕方を知らない人のために、呼吸の仕方を書いている本はない。

大抵どういう呼吸が健康にいいかとか、運動時はどういう呼吸がいいかとかだけだ。

しかし困った。これでは学習のしようもない。


「うー……土の魔術だけ勝手が違うから自己学習のしようもないよ〜……!」

「……」

「……何?」

「土以外使えるのなら、俺に魔術を教えてくれないか?」

「……いいけど、土魔術はどうするの?」

「それは俺がなんとかしよう。土の魔術を教えてくれる人を確保しておく」

「……わかった、頼りにしてるぞ」


リリーナは拳を突き出してきた。

俺はよく分からず、チョキを出した。

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