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異端使いの学園支配  作者: 酒ッ呑童子三号
入学〜帰らずの森
2/17

2話 食堂での一幕

「あ、ラルくんこっち〜!」


食堂の隅のテーブルに座るリリーナが、俺に向かって手を振る。

俺は人を避けつつ、リリーナのいるテーブルに向かう。

俺は料理の乗ったトレイをテーブルに置き、リリーナの向かいに座った。

リリーナは杖を握りながら、周囲を見まわした。


「すごい人の数だね」

「昼時にはまだ早いが、生徒数が多いからかな」

「あれ、ラルくん着替えた?」

「あぁ、部屋に荷物を置いたついでにローブが邪魔だったからな」

「ここの制服生地が厚手だから、この季節でもちょっと暑いよね」


そう言う割に、シャツだけの俺とは違いリリーナは手袋もローブも着けている。

食堂は風通しが良いとはいえ、この人混みのせいで風が遮られている。

食事と一緒に持ってきた水だけでは、足りなくなりそうだ。それに俺を待っている間に飲んだのか、リリーナのコップも空だった。


「リリーナ、俺は水を持ってくる。コップを貸してくれ」

「え、私がやるよ!」

「この人混みの中、その大きい杖を持ちながらコップ二つをこぼさず持ってこれるのか?」

「うぅ……」


悔しがるリリーナからコップを受け取り、俺は食堂の給水機に水を汲みにいく。

ふと外を見ると、遠くに俺が作ったクレーターが見える。イグレアは、もうそこにはいなかった。

俺は両手に持った水入りコップを溢さぬように、リリーナのいた席に戻る。


「ん?」


さっきまでリリーナのいた席には、数人の男が見える。

制服の色からして上級生だろうか。


「おい、何をしている」


近づこうとするが、人混みに阻まれてスムーズに動けない。

迂回しようにも、あまり時間をかけたくはない。

そんな事を考えていると、その男達に話しかける二人組の女が現れた。


「……」

「……!」


食堂の喧騒にかき消され会話は聞こえないが、何やら男達が声を荒げている。

俺は人混みを強引に突っ切り、テーブルに向かった。

俺がテーブルに辿り着くと同時に、男達は不満気な顔をして引き下がっていった。

俺に気づいたのか、金髪の女が俺ににこりと微笑んだ。


「あら、あの人達のお友達? 申し訳ないですけれど、(わたくし)のお友達とお昼の先約がありますの。お引き取りくださる?」


そう微笑む彼女は、どこか高貴さすら感じる佇まいだった。

しかし対照的に、その後ろに立つもう一人の女。大きな黒髪の女は直立不動のまま、俺に向かって殺気を向けている。


「あっ、あの、その人私の友達で……」

「あら、そうでしたのね。失礼いたしました」

「いや、なんだかリリーナが大変な時に助けてもらったみたいだな。ありがとう」

「そんな事ありませんのよ、(わたくし)達は景色のいい窓際の席に座りたかっただけですので。ところで(わたくし)達もお昼をご一緒しても?」

「あぁ、構わない」

「よかった、悪い人じゃない様ですよツルギ」


口元に手を当て笑う女。

まるで心の奥を探られている様な得体の知れなさを、俺はひしひしと感じていた。

水入りのコップをリリーナに渡し、俺は席に着く。

リリーナを挟み込むように、二人の女が席に着いた。


「自己紹介が遅れましたわ。(わたくし)ベルベット・エストナ=ムラサメと申しますわ。恐らくクラスは違う様ですけれど、よろしくお願いしますわ」

「俺はラル・ガスコールだ」

「私はリリーナ・イオニアです。えっと、助けてくれてありがとうございます!」

「ふふふ。そんなに畏まらなくっても、同級生なんですからもっと仲良くしましょう」


ベルベットは持参したランチボックスを開け、中からサンドイッチを取り出した。

黒髪の女は相変わらず一言も喋らず、同じ様に持ってきたランチボックスから昼食を摂っている。


「こっちの黒髪の方は?」

「ツルギ、自己紹介を」

「ツルギ・サトノ。ベルベットお嬢様の従者です」


短く自己紹介を終え、ツルギは空になったランチボックスを片付けた。

俺も自分の持ってきた食事を軽く食べ終え、コップの水を飲み干した。


「ベルベットお嬢様……そういえばムラサメは聞かない名前だな」

「えぇ。(わたくし)東洋の少し大きい家の出なので、この辺りでは聞かない名前でしょう」

「そうか。ここには魔術の勉強で?」

「それもありますけれど、知見を深めたり他人との交友を広げたりと様々ですわ。そういうあなたはどうしてこの学園に?」

「俺はこの学園を支配する為だ」

「まぁ、ふふふ。面白い人ですね。得意魔術はなんですの?」

「異端魔術だ」


それを言うと、ベルベットは驚いた様な顔で口を手で覆った。


「異端魔術って、五系統ある体系魔術以外の魔術ですか!? てっきりおとぎ話かと思っていましたわ……」

「案外使い勝手はいいぞ」

「でも異端魔術って使い方や魔力の流し方を間違えると暴走して、使用者が死ぬと聞いた事が……」

「死にはしない、ただ大怪我を負うだけだ」

「結局痛い目には合うんですのね。(わたくし)には新すぎる世界でしたわ」


ベルベットは笑いながら、自分の口をハンカチで軽く拭く。

ツルギは俺に向かって、また鋭い視線を向けている。


「ところでリリーナさんはどうしてここに?」

「あ、私は村のみんなに恩返しできたらな〜って……」

「まぁ、故郷のために頑張っているんですね。立派ですわ」

「え。そ、そうかな……!」


リリーナは照れながら、自分の顔を両手で隠す。


「お嬢様、そろそろお時間です」

「まぁ、もうそんな時間?」


ベルベットは自分の懐中時計を確認し、立ち上がった。


「この後に予定があるので、(わたくし)はこれで失礼させていただきますわ。ラルさん、リリーナさん、また今度ご飯をご一緒しましょうね」

「あ、ベルベットさん! 助けてくれて、ありがとう!」


リリーナのその言葉に、ベルベットは軽く手を振りツルギと一緒に人混みの中に消えていった。

リリーナはテーブルにべちゃりと広がる。


「すっごい綺麗な人だったなぁ……髪とか凄く手入れされてたし、服もシワひとつできなかったよ……」

「よく見てるんだな」

「え!? いや、そんな事ないよ! 本当に目に入っただけだって! ラルくんこそ、ツルギさんの事ちょくちょく見てたじゃん!」

「あぁ、俺に敵意がある様だったからな」

「も〜、この世のみんながラルくんみたいに交戦的な訳じゃないよ」

「そうだったら良いんだけどな」


俺は自分のトレーを持ち上げ、リリーナの顔の横に投げる。

するとトレイが弾かれ、歪んで地面に落ちた。


「え! 何!?」

「魔術だ。どうやら恨みを買った様だな」


人混みの中を掻き分け、さっきすごすごと引き下がったはずの上級生が現れた。


「おいおいさっきのお嬢様一行がいなくなったからチャンスだと思ったら、なんだお前は邪魔しやがってよぉ」

「悪いな、友人が目の前で傷付けられるのは趣味じゃないんだ」

「カッコつけやがってこのクソ新入生が、ローブの色が見えないのか?」

「生憎今日入学したばかりで、紫が何年生の色かは知らないんだ。もしかして一年生か?」

「……表出ろ一年。実家に帰る準備をしながらな」


この学園を支配する上で避けて通れない道。

上級生と言う障害物。俺はこれを超えなければならない。


「面倒だ、ここでやろう」

「……上等だ」

「ラルくん後ろ!」


その一言と同時に、背後から何者かに羽交締めにされる。


「しっかり押さえとけや!」


上級生の男は、俺の顔面目掛けてパンチを放つ。

俺は羽交締めにされたまま、体を反らしてそのパンチを蹴り上げる。

勢いのまま一回転し、背後の男の羽交締めから抜け出す。


「げぇ、マジかよ!」


もう一人の男の腰の下を蹴り、地面に膝をつかせる。

そのまま頭を掴み、後ろに引っ張りながら後頭部に膝蹴りを入れる。


「っグェ」


潰れる様な声を出し、気絶したのかそのまま倒れる。


「使えん奴だ!」


正面の男はそう吐き捨て、俺に飛びかかってくる。

俺は指を突き出し、男の胸に当て魔力を込めた。


「【インパ……」

「ラルくん食堂は魔術禁止だよ!」

「マジか」


男の太い腕が喉を掴み、そのままの勢いでガラスに叩きつけられる。


「その首へし折ってやる……!」

「ここじゃ魔術を使えないなら……外に行こうか!」


大きく足を上げその勢いを使って背面のガラスを蹴り破り、外に転がり出る。


「ここなら心置きなく戦える」

「くくく……! 外に出た事を後悔するんだな」


男は懐から魔術書を取り出し、その表紙を見える様に掲げた。


「俺様はあの翠星の一人、フーリン様の舎弟の一人。二年の中でも【風の魔術3級】の、超実力者なんだからな!」

「翠星……?」

「あぁ!? 風魔術の使い手のトップ達だよ! それくらい予習してこい、クソ一年坊が! 【風刃(ウインドカッター)】!」


魔術書の表紙から無数の風の刃が射出される。


「【シールド】!」


俺は指を弾いてシールドを張る。しかし威力が高いのか、半透明のシールドは見る見るうちに削れていく。


「たった一年の違いでここまで差があるのか……」

「そうだ、これが一年の差だ! だからお前達下級生は俺達上級生の奴隷として、この学園生活をビクビクしながら過ごすべきなんだよ!」


風の刃の威力と数がさらに増していく。シールドを抜けた刃が、俺の頬を切り裂く。


(守るだけなら負ける、攻めに転じなければ)


そう考えた俺はシールドを解き、その瞬間に男に向かって走り出した。


「馬鹿が! ズタズタになれぇ!」

「【シールド】!」


指を弾きシールドを展開する。そのシールドを持ち、自分の前方に構えながら距離を詰める。

さっきよりも早いペースでシールドは削れるが、削り切れる前に男の懐までたどり着く。

その顎に指をピタリとくっつけ、シールドを解除する。


「ここなら撃てる、【インパクト】!」


男の顎から脳天にかけての一直線を、衝撃波が貫く。

衝撃で少し浮いた男は魔術書を落とし、ヨダレを垂らして立ったまま気絶してしまった。

俺はまだ乾いていない頬の傷を摩りながら、割れたガラス壁から食堂に戻る。


「これが二年生。上級生の壁は想像よりも厚いな」

「ら、ラルくんすごい怪我だよ! 早く保健室に……」

「あぁ気にするな、ただのかすり傷だ」

「そんな事ないよ! それに、私のせいで……」

「それも気にするな、俺が勝手にやった喧嘩だ。それに上級生の力量も見ておきたかったからな」

「でも……」

「おいおい、負けた上に不意打ちまでしようとは。僕の名前を出した上で、みっともないことしてくれるね」


背後から声が聞こえる。得体の知れない何かがいる。

俺はその正体を確かめるべく、さっきまで戦ったいた場所に振り向いた。

そこには背の低い白いローブを着た男が、さっきの男の首を絞めていた。


「あぁごめんごめん、ちょっと待ってて。人の名前を勝手に使うカスを始末するところだからさ」

「……お前は?」

「ん? 僕はフーリン・フィンドルド。ランクは【風1級】で、翠星の一人だ」

「……つまりこの学園のトップに限りなく近い、そう言う事だな」

「ま〜そう言っても差し支えないかな!」


好都合だ。本来はこの学園の情報を集め実力上位者をピックアップする所から始める予定だったが、トップだと俺の前に名乗り出てきてくれた。

今ここでこいつを倒せば、俺の学園支配は確実に進む。


「ここで倒させてもらう」

「え〜! 僕、翠星だよ!? いいの?」

「いずれぶつかるのなら、今ここでやった方が好都合だ」

「ぶつかる? 君も風の魔術師?」

「いいや、ただの異端使いだ」


親指を立てた手の平で、四角形を作る。

どうしても簡略化できなかった俺の最後の切り札、ここで使わずにいつ使うのか。


「【開界(サモン)異元(ウロ)

「風使いじゃないなら興味ないや」


俺の記憶は、誰もいない視界、背後から聞こえた声だけを記録していた。

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