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【短編】俺=最弱テイマー。S級パーティを追放されたテイマーの俺が帝国の特殊部隊で美少女たちと冒険をすることになったのだが。

作者: 神谷みこと

 「ヨースケ。最弱のお前は追放だ。今すぐこのパーティから出ていけ。」


 パーティリーダーである幼なじみのケヴィンから追放を言い渡された。

 

 オレたちは冒険を終えて宿についている飲み屋でクエスト達成のお祝いをしていた。


 急に追放だなんて言われても、はいそうですか。とはならない。


 【銀狼の牙】はS級冒険者パーティになったばかり。ケヴィンに至っては勇者だ。ケヴィンは幼なじみ。赤髪が特徴の男だ。記憶がある頃からの幼なじみで、村を出てから一緒に銀狼の牙で冒険をしていた。


 パーティメンバーはオレ含めて5人。もう一人の幼なじみをシャルロット見た。シャルロットは手を握りしめて発言した。

 

 「私は昨日も言ったけど、反対よ。ヨースケはこのパーティの最初からの功労者だもの。」

 「それは昨日も話しただろう。ヨースケはもう実力的に厳しい。オレたちは勇者パーティだぜ! ヨースケもわかっているだろ、パーティの脚を引っ張ってるってことを。冒険者の中でお前は最弱って言われてるんだぜ。追放は俺様の優しさなんだぜ。」


 オレの職業はテイマーで、鷹のジークハルトが相棒だ。


 たしかにオレは戦闘には不向きだが、最弱と言うのはひどい。相棒のジークを活かして偵察や斥候。補助魔法での後方支援。冒険以外での雑務は全て担っていた。


 「オレは戦闘は弱いさ。でも、それだけが冒険じゃないだろ。」

 「俺たちはS級パーティだぞ。ヨースケの代わりなどいくらでもいる。戦えて雑務もできて俺たちのパーティに入りたいやつなんてわんさかいるさ。」


 銀狼の牙が引く手あまたのは事実だ。オレにもS級パーティまで頑張ってきた自負がある。それだけの理由で納得できるわけがない。


 「私も賛成。ヨースケより強い男がいいわ。」


 そう言うのはアマンダだ。魔法使いでケヴィンの彼女だ。髪色は紫いつもケヴィンが好む露出の多い服を着ている。アマンダはケヴィンが口説いてパーティに無理やり入れた。中級魔法までしか使えない正直強くはない。


 「実力が伴っていないのはアマンダもだろ。」

 「なんですって。」

 「まあアマンダ。こいつとは今日で最後なんだ。優しくしてやろう。これで2票目だな。お前たちはどうだ。」


 当然、オレのことを良くは思っていないアマンダはムキになるが、ケヴィンが手で制した。


 クリストとシャルは黙っている。


 「みんなよく考えてみろよ。勇者の俺様が剣では当然、帝国一の実力者。クリストの力は帝国一だ。アマンダの魔法力は賢者にも引けを取らない。シャルは教会お墨付きの聖女だ。回復で銀狼の牙の力になってくれる。」


 ケヴィンがオレを指さして言った。


 「ヨースケ、お前にはなにが出来る。なにが出来るんだよヨースケ。テイマーのお前に何が出来る。」


 銀狼の牙はパーティ構成がいいとよく褒められていた…オレを除いてだが。


 オレはテイマーだ。鷹の相棒を扱うことしか出来ないさ。

 そんなの最初にパーティを組んだ時から分かっていたじゃないか。


 「おまえがジークを使わずに出来ることを言ってみろ。」

 「後方支援のバフだけだ。」

 「そうだよな。よかったよ。お前が自分の実力の無さを一番理解していて。ジークハルト以外には、なにもお前にはないもんな。」


 この世の中ジョブが全てだ。勇者や戦士などは戦闘で大きく活躍ができる様になるし、魔法使いや聖女は魔法が使える。冒険者の中ではテイマーは下級ジョブ扱いされている。


 オレには残念だが15歳の時に、天啓でテイマーというジョブが言い渡された。

 オレも必死に剣を振って鍛えたし、頑張って後方支援のバフを覚えたさ。

 だが、聖女シャルロットのバフは強力だった。オレなんかが数年かけて覚えた魔法を数日でマスターした。

 それにケヴィンやクリストと模擬戦をして一発でも与えたことすらなかった。

 

 「今の話を聞いてわかった。ヨースケ残念だが俺もケヴィンに賛成だ。」


 黙って聞いていたクリストが言う。クリストは力持ちで斧を振るうのだが、温厚な男だ。オレと一番仲が良かったクリストさえもオレが不要だと思っていたのか。


 「これで3票目だ。決まりだな。どうもシャルロットは反対みたいだがな。」


 ケヴィンがヘラヘラと笑いながら言った。


 「私は、先程から申している通り、反対です。考えてみて下さい。今まで銀狼の牙をサポートしていたのは誰です。」


 聖女候補のシャルロット。教会から派遣されて一年前に銀狼の牙に加入した。元々幼なじみだったが、天啓でジョブが聖女と言われてからすぐに教会に引き取られた。


 シャルロットは誰もが振り返る美人だ。銀髪に青色の目。胸は全くといって良いほどないが、スタイルが抜群に良い。今まで幾多の男たちが告白しているが、誰も付き合えていない。高嶺の花だ。


 「さっきから言ってるだろ。それは別の奴がやるさ。前衛も後衛もできる盗賊をもう雇った。まあこれは決定事項だ。」


 後任をもう雇っただって。そもそも話し合いですらないじゃないか。オレは言葉が出なかった。




 「なにか最後に言うことはあるかヨースケ。」

 「では最後に一つだけ言わせてくれ。本当にオレの仕事を後任の盗賊ができるのか。」

 「笑わせんなよヨースケ。お前が出来る仕事なんて誰にでもできる。新メンバーのニコルだ。」


 ケヴィンが声を出して笑った。


 「あの盗賊団のニコラだって。お前たちの失敗する未来がオレには見えるよ。」

 「ヨースケのくせに生意気なこと言うじゃねえか。」


 オレは笑った。


 「何がおかしい。」

 「ニコラは帝都で活動する盗賊団の頭だ。盗賊団の頭を務める女が我の強い銀狼の牙のメンバーをサポートすることなどできやしないさ。盗賊団の評判くらい知っているだろ。」

 「ふん。負け犬の遠吠えだな。ヨースケよりは何倍も優秀だぜ。」


 「そうか。どうやらアマンダと一緒でニコラも顔だけで銀狼の牙に誘った。そうだろケヴィン。」

 「てめぇ。」

 「図星みたいだな。お前にはがっかりだよ。こんなパーティこっちから願い下げだ。」


 ケヴィンが立ち上がりオレの胸ぐらをつかんだ。周りで飲んでいる冒険たちも話を辞めてこちらを見ている。


 「辞めなよケヴィン。皆がこっちを見てるわ。」

 「チッ」舌打ちしたケヴィンがオレから手を離した。


 「せいぜいニコルには気をつけることだ。みんなの活躍を祈っているよ。」

 「ああ、さっさと失せろヨースケ。最弱のお前はもう追放されてんだ。居場所なんざここにはねえ。それにお前なんかに言われなくても俺たちはS級パーティだうまくやるさ。」


 後からケヴィンたちの笑い声が聞こえてきた。


 最後にシャルロットと目があったが彼女はオレを止めなかった。




 追放された後、ギルドマスターのメンゼフさんに報告しに行った。受付に居るのは冒険者ギルドの看板娘ミントさんだ。


 「ミントさん。こんにちは。メンゼフさんはいますか。」

 「ヨースケさん。こんにちは。ギルマスですね。今二階にいますよ。何の要件でしょう。」


 追放されたとは言いにくかった。数週間前にメンゼフさんにS級パーティになったお祝いをしてもらったばかりだからな。


 「その。相談がありまして。」

 「なにやら訳アリみたいですね。それなら直接二階に行ってください。」


 お礼を言い、二階に上がる。ノックすると入れと声が聞こえた。


 「どうした。ヨースケ。こんな時間に。一杯やりにでもきたのか。」

 「いえ…実は…その言いづらいのですが。」


 メンゼフさんは筋肉隆々のおじさんだ。もう十年以上ギルマスを務めているらしい。メンゼフさんは書類を書く手を止めてこちらを見つめた。


 「なんだよ。金ならオレはないぜ。全て酒に使っているからな。」

 「いえ。違います…銀狼の牙を追放されました。」


 メンゼフさんが椅子からずっこける。


 「銀狼の牙を追放だって!!! お前が。嘘だろ。」


 メンゼフの声の大きさに驚いたし、椅子からずっこける人を人生で始めた見た。少しだけ落ち込んでいたが元気が出た。


 「穏やかじゃねえな。それで何があった。」

 「先程、急にケヴィンから追放されました。オレがテイマーなのが原因だと思います。」

 「そうか。あいつらは後方支援を蔑ろにしてたからな。今まで一から銀狼の牙を支えてきたのに残念だったなヨースケ。」


 メンゼフさんが立ち上がりオレの頭を撫でた。オレは無意識のうちに涙が流れていた。


 「ちょっとだけ待ってろ。いいかヤケを起こしていなくなるんじゃねえぞ。これでも飲んで座っていてくれ。」


 お酒を置いてメンゼフさんが出ていったが今は酒を飲む気分にはなれなかった。




 数分後、副ギルマスを務めるカインさんとメンゼフさんが戻ってきた。カインさんは副ギルドマスターを務めながら魔法学校の教師や、A級以上のクエストを勇者としてこなしている。冒険者の誰もが憧れる人だ。噂では看板娘のミントさんと付き合っているらしい。


 「やあヨースケ。久しぶりだね。」


 「カインさん。ご無沙汰しています。帝都に戻られたんですね。」


 冒険者をケヴィンと始めたときから、カインさんにはお世話になっていた。冒険者の試験から冒険者としてのあり方まで全て基本を教えてくれた恩人だ。カインさんがいなければ銀狼の牙はS級パーティにはなれていない。


 「ああ。調査が一段落ついたからね。話はメンゼフさんから聞いたよ。実はオレも勇者パーティを追放されてギルド職員になったんだ。」


 「エッ! カインさんがですか。」


 「そうさ。追放された時にメンゼフさんにギルド職員に誘ってもらったんだ。今のヨースケと同じ状態だったんだよ。」


 カインさんでも追放されるだなんて、今では考えられない。


 「そんなに驚かないでくれよ。ヨースケ。」


 オレは驚きのあまり口を開けていたみたいだ。


 「いや、驚きますよ。完璧なカインさんが追放だなんて。」


 「あはは。そういってもらえるとありがたいけどね。僕はヨースケは優秀な冒険者になると思ってる。」


 カインさんに言わると不思議とそんな気になってくる。


 「でもヨースケの特出しているのは戦闘能力ではない。むしろ戦闘力だけ見れば冒険者の中でも下から数えたほうが早い。」


 その通りだ。それが原因で追放されたのだから。悔しくて唇を噛む。


 「落ち込まないでくれ。それ以外の特出している能力を活かすべきだと言っているんだ。」


 「はぁ。」


 我ながらマヌケな返事をしてしまった。


 「今、帝国では新しく特殊部隊を編成していてね。そこの部隊長が空席なんだ。ヨースケが部隊長をやってみないか。」


 カインさんの話が入ってこない。


 「オレが…帝国の特殊部隊ですか。特殊部隊ってなにやるんですか。」


 「内容はほとんど冒険者と変わらない。各地のダンジョンへの出向や魔獣の討伐がメインらしい。」


 「オレが帝国の部隊ってやれますかね? それに隊長ってオレ平民ですよ。」


 「ああ。不安になるのは分かる。今回の特殊部隊は出身を問わずに優秀なメンバーを集めたらしい。実力はお墨付きだが、個性が強いメンバーが多くてね。まとめ役が必要らしいんだ。」


 「なるほど。それで銀狼の牙を世話していたオレが適任と思っているんですね。」


 「そうだ。世話と言うのは言い得て妙だね。元将軍のルノガーさんが責任者をしていてね、旧知の仲で相談を受けていたんだ。もちろん、ヨースケが冒険者を続けたいなら、他のパーティを紹介するよ。」


 オレは銀狼の牙のメンバーとは会いたくない。他の街に行こうかと思っていたのだが。帝国の特殊部隊であれば顔を合わせることもほとんどなさそうだ。


 「分かりました。是非とも受けさせてください。」


 「もちろんだよ。ルノガーさんにはこの後報告しておくから、明日朝に迎えに来てもらように手配するよ。」


 「待てよカイン。ヨースケはギルド所属になってもらうって話じゃなかったか。」


 「もちろんです。メンゼフさん。所属はギルド職員でギルド職員から出向する形にするのはいかがでしょうか。ヨースケが特殊部隊が合わなければギルドに戻ってこれますし。まぁ、ヨースケがいやじゃなければですが。」


 「さすがカノンだな。そこまで考えていたのか。」メンゼフさんが深く頷いた。


 「もちろんです。精一杯頑張ります。」そう言ってオレも頷いた。ここまでオレのことを考えてくれたんだ。期待には答えないとな。




 お礼を言ってオレは宿に戻った。給与面など全て任せますと伝えた。金なんていくらでもいい。暮らしていける金さえあれば良いんだ。オレはもう裏切らない仲間がほしい。


 部屋に戻り、鷹のジークハルトを撫でる。


 「ピィ!」

 「ジーク。今日のご飯は大好物のイモムシだよ。」

 「ピィ! 」


 嬉しそうにジークがイモムシを突っついて食べる。


 ジークハルトとは小さい頃からの相棒だ。


 「ジーク、オレパーティ追放されちゃったよ。」

 ジークがオレの頬を撫でてくれた。


 「ありがとう。ジークは優しいな。」


 ジークを撫でていると扉がノックされた。


 「空いているよ。」


 扉が開くと、聖女シャルロットが立っていた。


 「こんばんは。ヨースケ。」

 「ああ。さっきぶりだね。立ち話もなんだ。席に座ってよ。」

 「今日はヨースケとジークに会いに来たの。」


 食事が終わったジークをシャルロットが撫でる。


 「ジークは今日も元気そうね。」

 「ピィ!」と嬉しそうにジークが鳴く。


 ジークはシャルロットのことを気に入っている。


 「あの……ヨースケ。」

 「どうした。」


 シャルロットが撫でる手を止めてオレを見つめた。


 「ほんとうに……銀狼の牙は辞めるの。」

 「そうだな。追放されたのに辞めるも何もないよ。」


 シャルロットがオレが座っているベッドの横に移動して座った。


 「ヨースケは冒険者は続けるの。」

 「そのつもりだったんだけど、ギルドのカインさんに誘われてね、帝国の部隊に所属することになる。」

 「そっか………」


 シャルロットが黙りこんだ。沈黙が苦しい。実際は数分だろうが、シャルが黙り込んでいる時間が永遠に感じた。


 「私もついていったらダメかな。」

 「当たり前だろ。シャルロットは聖女だ。教会の命令は守らないとしないといけないだろう。」

 「そっか。そうだよね。」


 下を向き俯くシャルロットが黙り込んだ。


 シャルロットが小さい頃はよく自分の意見を言えずに黙り込んでいたっけ。俯くシャルロットを見ると昔を思い出すな。


 「オレには言いたいこと言っていいんだよ。シャルロット。」



 シャルロットが顔をバッと上げて言った。


 「他人行儀にシャルロットって呼ばないでよ。昔みたいにシャルって呼んで。」

 「ああ。すまない。シャル。でもシャルが思うように発言して良いんだ。今は聖女じゃない。ただの幼なじみのシャルなんだから。」


 聖女になってから、シャルよ二人きりになると暗い表情になることが多かった。教会から言動を注意されているのだろう。聖女はいつでも元気でなければならない。精神的な負担は相当大きいはずだ。


 「その帝国の部隊って言うのはなにをするの。戦争に行ったりしないよね。」

 「もちろん。オレも全てを分かっているわけではないけど、やることは帝国直属の冒険者みたいな位置づけらしい。」

 「そっか。帝都にいるならいつでも会えるね。」


 シャルが嬉しそうに言った。


 「ヨースケは昔はS級冒険者と勇者に認定されるのが夢って言っていたじゃない。その夢を諦めていいの。」

 「ああ。S級パーティにまで銀狼の牙はなったし、オレは求められる場所にいたい。」

 「そっか。そうだよね。でも私もヨースケともっと一緒にいたかったな……」

 「いつでも会えるだろ。同じ帝都にいるんだから。」

 「そういうことじゃないもん。ヨースケの分からず屋。」


 シャルがべーと舌を出した。この表情は昔のシャルだ。それにしても分からず屋だって。オレのなにが分からず屋なんだ。


 「シャルはこれからも銀狼の牙にいるのか。」

 「教会からの指令がある限りね。またヨースケと村に戻りたいわ。」

 「村か。オレはあんまりいい思い出はないけどな。」


 オレは爺様に育てられたのだが、冒険者になる前に死んだ。いや正確に言うと殺されたとオレは見ている。シャルの家の人には会いたいが、それ以外に会いたい人はいない。


 「帝国の部隊でいじめられないといいね。」

 「そうだな。オレは戦闘はあまり強くはないから。それは少しだけ不安だよ。」

 「ねえヨースケ、二人だけで全て捨てて旅に出ない。」

 「冗談言うなよ。シャル。」


 シャルの目を見るが、この目は冗談を言っている様な目ではない。


 「………そうだよね。私は聖女の修行をしないといけないし、ヨースケは帝国の特殊部隊があるもんね。」

 「ああ。でも休みには一緒に旅でもしよう。昔みたいにね。」

 「うん。」


 ジークがシャルの肩に乗り移って、頬ずりをした。


 「もちろん。その時はジークも一緒に行こうね。」

 「ピィ! 」

 

 「俺は銀狼の牙を追放されて決めたんだ。次こそは求められる人間になるって。だからオレはカインさんに紹介された帝国の特殊部隊で頑張る。シャルは聖女として頑張る。お互いに苦しい時は支え合おう。」

 「なんで…なんでヨースケはそんなに強いの。」


 驚いた。隣を見るとシャルの目から涙が流れている。


 「シャルには言っていなかったね。オレは異世界から転生した人間かもしれないって。」


 俺に両親はいなかった。爺様からは森で拾われたと聞いた。残念なことにオレに前世の記憶はない。不思議に思ったのは帝国には黒い髪の人間がほとんどいなかったからだ。


 ケヴィンと冒険者になって帝都に来た時に研究所に依頼して調べてみた。


 「調べたんだけど、まったく分からなかった。少なくともこの大陸の人間ではないって結論が出てね。詳しいことは分からずじまいさ。」

 「そうなの全然気がつかなかった。」

 「分かったのも最近だからね。オレが異世界人だからか分からないが、爺様が殺されたのもそれが理由なんじゃないかと思ってる。何もできないオレに爺様はすべてのことを教えてくれたんだ。犯人を今でも探しているのさ。」


 爺様はオレには何も言わなかったが、オレが異世界からの転生したことを知っていたと思う。知らない大人がオレを引き渡せと何回も来ていた。オレなんかを庇って爺様は殺されたんだ。


 「だから決めたんだ。オレは有名になって犯人を捕まえるってね。まだ生きていればだけど両親にも会ってみたいな。」


 あの日の爺様の顔は今でも夢に見る。忘れるもんか。


 「ヨースケは偉いね。私なんか全然ダメ。ただ流されて教会の言うことを聞いているだけだもん。」




 シャルは弱気になっているようだ。


 「そんなことないよ。シャルは頑張っているさ。」

 「ううん。私がただ聖女のジョブがあるから教会に求められているだけだもん。命令されて銀狼の牙にいるけど、私は何も決めてない。」

 「そんなシャルに励まされている人だっているんだ。オレだってそうだ。」

 「そうかな。」

 「シャルは美人だし、一緒にいて元気をもらえる。それには聖女なんて関係ない。シャルの魅力だろう。」


 シャルの顔が真っ赤に変わる。


 「そっそんなこと言ったら勘違いしちゃうよ。」

 「なにがだ。事実だろ。」

 「もう、ヨースケのバカ! 」


 軽く肩を殴られた。ジークもじっとした目でオレを見ている気がする。


 「元気出てきた。ヨースケも頑張ってるんだもん。私も頑張らないとね。」

 「その調子だ。シャルなら大丈夫さ。」

 「うん。私も精一杯やってみる。もし落ち込んだりしたら会いに来ても良い。」

 「もちろんさ。ジークも喜ぶ。宿は変わるかもしれないから、ギルドに聞いてくれ。」

 「ピィ! 」


 良かった。シャルは元気が出てきたみたいだ。最近ずっと辛そうな顔をしていたからな。安心した。


 「後、銀狼の牙はどう考えても苦戦すると思う。命だけは大事にしろよ。シャル。」

 「そうよね。どう考えてもうまくいくとは思えないもの。」

 「そうだな。うまく入ってほしいが難しいかもしれない。」


 銀狼の牙が失敗してもなんとも思わないが、シャルの身は心配だ。


 「そういえば、クリストはシャルのこと好きって言ってたぞ。」

 「知ってる。断ってるんだけどね。それに、ケヴィンも彼女がいるのに告白してくるの。それでアマンダには睨まれるし、私がパーティ内でどれだけ肩身が狭い思いをしていることか…」


 シャルがモテるのは分かる。男なら誰しもこんな美女と付き合いたいものだ。


 「でも私には、………がいるから。」


 ボソッと言ったので聞き取れなかった。


 「まあ、思う人がいるなら、注意することだな。」


 シャルはジーッとオレを見つめる。


 「なんだよ。。」

 「もういい。ヨースケはヨースケのままでいてね。」


 よくわからないが、シャルに元気が出たならそれでいいさ。


 「オレは帝国の特殊部隊でシャルは聖女として頑張ろうな。」

 「うん。頑張ろー! 」


 「最後にヨースケの未来を神に祈らせてください。」


 シャルが目を閉じて手を握り、神に祈った。


 「ヨースケの未来に幸福が訪れますように。」


 シャルの祈っている姿は美しかった。オレは見惚れていた。


 「ヨースケのこれからを祈っておきました。ヨースケ、ちゃんと聞いてるの。」


 オレはシャルをこの場で抱きしめたかった。先程から突き放してはいたが、すべてを捨ててシャルと旅したい。でもシャルには聖女という立場がある。オレなんかが邪魔をしてはいけない。


 「ああ。悪い。もうこんな時間だ明日もダンジョンだろ。もう戻ったほうがいい。」

 「そうね。また遊びに来るわ。ジークもまたね。」

 「ピィ! 」


 シャルがジークを撫でてから部屋を出ていった。宿まで送ろうと言ったがケヴィン達に会うと不快な思いをするかもしれないと気を使ってくれた。


 「ジーク、シャルは可愛いな。」

 「ピィ! 」


 「ジークもシャルと一緒に冒険したいよな。」

 「ピィ! 」


 自分で言った言葉に照れて、顔が赤くなるのが分かる。


 今は別々の道でもまた一緒に冒険する日が来るかもしれない。

 それまでオレは帝国の特殊部隊で必要となる人間になってもっと力をつける。聖女の名に劣らない様にならないといけない。


 明日は初出勤だ。今日は早めに寝るか。オレは明日からが楽しみでなかなか寝付けなかった。



◇ 


 翌朝、寝覚めは良かった。ご飯を食べてジークにも餌を上げて準備完了だ。

 迎えに来てもらうためにギルドに顔を出す。


 「おはよございます。カインさん。少し約束の時間より早かったですかね。」

 「おはよう。ヨースケ。ちょうどいいタイミングだ。今使いの人が来てくれていたよ。」


 カインさんの隣に女性が座っていた。


 「あなたがヨースケさんね。はじめましてアオイです。特殊部隊では副隊長を任されています。これからよろしくお願いしますね。」


 アオイと名乗った少女は丁寧に頭を下げる。

 長い黒髪に黒い目。帝国の出身ではなさそうだ。身長は160cmくらい。見たことはないが、帝都の紋章が書かれた服を着ている。剣を携えていて姿勢も良く、立ち振舞が美しい。感覚だがアオイは勇者のケヴィンよりも強い。


 「はじめましてヨースケです。今17歳です。よろしくお願いします。」


 オレも深く頭を下げて挨拶する。


 「ヨースケさんは同じ年ですね。嬉しいです。部隊のみんなも年齢が一緒の子が多いんですよ。」


 アオイが笑った。


 「そうですか。仲良くなれるといいのですが。」

 「みんな良い子達ですから、大丈夫です。みんな楽しみになっていますから、早速行きましょうか。」


 カインさんにお礼を行って、アオイと共に城内へ向かった。



 ◇



 ヨースケが追放された夜、遅くまで銀狼の牙は酒を飲み続けていた。


 ヨースケの元に向かうために私は抜けたが、宿で飲んでいるため部屋に戻るには前を通らないといけない。


 「シャルロット遅かったじゃねえか。こいつが新しいメンバーのニコルで盗賊だ。」


 「ニコルです。ジョブは盗賊。斥候と罠の解除は任せていいよ。」


 ニコルは小柄だが胸が大きい。ケヴィンの好みで選んだというヨースケの仮説は正しいと感じた。

 ニコルの声は猫なで声というのか、媚びる声が鼻につく。トラブルが起きる予感しかしない。

 

 退屈な飲み会がまた始まるなとため息が出る。


 「どうしたシャルロット、辛気くせえ顔をするな、俺様が守ってやるから。銀狼の牙は大丈夫だ! 」

 「ええ。」


 ケヴィンは嬉しそうな顔で私の肩をバンバンと叩く。横を見るとアマンダが睨んでいる。


 全てを捨ててヨースケと旅をすればよかった。心の底から後悔する。だけど、ヨースケは帝国の特殊部隊で働くんだ。邪魔は出来ない。


 「シャルロットとケヴィンは付き合ってるんですか。」


 ニコルが私に冷たい目を向けながら言った。


 「そっそんなことありません。」


 私は弁解する。ケヴィンと付き合うなんてごめんだ。それにアマンダにこれ以上睨まれたくはない。


 「そんなに必死に否定するなんて怪しいですね。」


 わざとだ。ニコルはわざとこんなことを言って反応を楽しんでいる。

 アマンダが怒りながら言った。


 「いい加減にして。ケヴィンは私のものよ。」

 「そうですか。私もケヴィンさんかっこいいなって思ってたんです。」


 ケヴィンは満更でもない顔をして頬を掻く。


 「まあ俺様を取り合うのはよしてくれ。シャルロットもアマンダも落ち着いてくれ。」


 私は落ち着いている。この人たちになにを言っても話にならない。


 「私は先に休ませてもらいます。明日のダンジョン攻略からよろしくお願いしますね。ニコルさん。」


 私は挨拶をして2階の部屋に上がる。一人になるとため息しかでない。


 「ちょっと待ちなさいよ。」


 アマンダが追いかけてきたようで肩を強く掴まれる。


 「痛いです。なんですかアマンダさん。」

 「次、ケヴィンに色目を使ったら焼き殺すわよ。わかったなら行きなさい。」

 

 そう言うと、アマンダは戻っていった。色目なんて使っていないし使うわけがない。


 ヨースケがいなくなってからまだ数時間しか経っていないのにこれだけパーティがバラバラなんだ。冒険がうまくいくはずがない。


 「ヨースケの言ったとおり、銀狼の牙はだめかもしれないな。」


 私は部屋で星空を見上げながらため息をついた。




 シャルロットの悪い予感は見事に的中する。


 次のクエストから連続で失敗が続く。クエストのボスにすらたどり着けず、冒険者としての地位を落としていくことになるのだが、それはまた後日のお話。


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[一言] これで終わり?こんな良くある出だしで評価なんかできないけど。
[気になる点] 起承転結の起か承くらいまでしかない、短編として成り立ってないように思いました。 せめてタイトル回収くらいはして欲しかった。
[良い点] おもしろいかったです [気になる点] 先が気になります [一言] 連載たのしみにしてます!
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