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7.





フローラが案内してくれた場所から訓練場は良く見えた。

横から全体を見渡せるのだが、良くこんな場所をディラムさんは発見したものだ。



自分達の後ろには背の高い木々が立ち並び、前には胸元くらいの高さまである植木で出来た垣根がある。

それがちょうど目隠しとなってくれた。

植木を小さく左右に開き、隙間から覗けば見知った騎士団員の面々や声も届く。

しゃがんで見るので長い時間は足が痛くなるだろうが、少しくらいだったら大丈夫だろう。



「訓練に間に合って良かったわね。まだ始まってないみたい」



「うん。走り込みが終わった所みたいだから、これから集合して訓練が始まるんだと思う」



二人は身を寄せ合ってひそひそと話す。

先程から緊張と期待とで心臓が落ち着かない。城に通うようになって初めてラキの訓練風景を目にする。

団長になるくらいだ。

大人になったラキは自分の知る最後の姿よりどれ程強くなっているのだろう。



「集合してくださーい。 今日は第二との合同訓練となります。第二の方々が前へ、第四は後ろに並んでください」



ラキだ!!

訓練用の簡易な服装での登場だったがスタイルの良さが際立つ。

白シャツは袖を肘まで捲りあげ筋肉質な腕を出し、下は黒のパンツで足の長さが強調され、腰に下げた剣が胸ときめく格好良いアイテムとなっている。

いや、剣は格好良いアイテムではなく実用アイテムなのだけども…。

女子的には格好良いアイテムと言うかなんと言うか。もごもご…。



ついに始まりそうな雰囲気にアイラとフローラは自然と身を乗り出し無言になった。



「えー、 午前中は人間の体の仕組みを説明しましたが、しっかり頭に叩き込んで貰って実践に移りたいと思います。 では第二から誰か前に出てください」

ラキは腰から剣を外して隣に立っていたシイタさんに手渡した。



「じゃ、俺が」



と言って前に進んで来た男性はラキよりも頭一つ分大きく体格もガッシリとした大きな男だった。手を組んで太い指をポキリ、ポキリと鳴らしている。

(ラキ!逃げて! あんなの熊!!)

フローラと顔を見合わせて目を見開くと二人で揃って首を振る。

再び、視線を戻すとラキが「どうぞ」と言った。



その瞬間に相手がラキ目掛けて殴りかかった。

はずだった。

余りの早業で何が起こったかわからなかったが、気が付いたら相手が地面に仰向けに倒れていた。

やられた本人もぽかんとした表情をしている。



前方に並んでいた第二の皆さんがザワ付いているのに対して、第四の皆は自慢気な顔をしている。

うちの団長、どうよ?的な。



「はい。これで俺が顔面を突いたら戦闘不能です」



倒れた相手の手を引き上げなら「では今のをもう一度やるので、皆さんが見えるようにゆっくりと殴りかかって来てください」と言って距離を取る。



言われた通りに第二の大男がラキにゆっくりと右手で殴りかかる。

それを外に避けて相手の右肩に軽く手を当て押す。すると簡単にバランスを崩した。 すかさず背に回り相手の左肩を掴む。

「この時に左足に重心を置いて、右足を大きく振って回ってください」途中説明を入れると相手は駒の様にくるりと回転をしてラキのいいように動かされる。そのまま相手の首に腕をかけてラキが押すと相手はコロンと軽々と仰向けに転がった。



「……すげぇ。 痛くもないのに思うように動けねぇ。 やられるって思っても止められねぇ」



倒された熊男がラキを熱い目で見る。

こりゃ、惚れたな…。



「力を入れなくても体の構造を把握していたら可能な技がたくさんあるんですよ。 さ、皆さん二人一組になって練習を始めてください。人数が奇数になった所は交代しながらやって下さいね。 俺は今日は第二を見て周ります。第四の皆さんもフォローお願いします」



もちろん、他の隊だって体術は学んでいる。

しかし第四と違って主に殴り合いや蹴り合いの喧嘩タイプなので個々の筋力で差が出てしまう。

ラキの教える体術は相手の力も利用するので無駄な動きや力を使わない。体力を温存させながら戦えるのだ。



アイラは正面を向いたまま両手で顔を覆った。

(尊い!! ラキ! 素敵! 最高! 格好良過ぎて死ぬ)

脳内再生で先程の場面を何回も繰り返した。

あぁ、私にもあの技をやって欲しい。なんてちょっとずれた事を考える。




第四騎士団は平民で構成されているが年上も多いのでラキは苦労も多いだろう。ましてや第二は上位貴族ばかり。

こういった交流は今まで全く無く、余程この間の遠征でのラキの活躍が認められたに違いない。



ラキは昔から面倒みが良いから団長職は向いていると思った。

戦略を練る知識も豊富だし軍師としても素晴らしいと思える。指導している姿に惚れ惚れしていると一人の男性がラキに声を掛けてきた。



「ラキ。 君にはお礼に剣の稽古を私が付けよう」



「えっ!? アルバート様が? 光栄です!!」

両手を横で揃えるとガバリと勢いよく頭を下げる。



アルバートと言われた男性はとても整った容姿をしていた。

黄金に輝く髪はサラサラとしてすっきりと整えられている。まさに金髪碧眼の王子様のようだ。だが、表情が全くない。



「あの方は第二騎士団の団長をされているアルバート・ラングドン様よ。侯爵家の長男でもあり22歳の若さだけど歴代の総大将の中でもかなりお強いって有名な方なのよ。 ……、そしてアルバート様の腕にべったりくっついてる可愛らしいお方が弟のエドガー・ラングドン様。18歳だけど兄が好き過ぎていつもくっついて? いや、乗っかって? とにかくお側から離れないブラコン天使。こちらもかなりの剣の使い手よ」



フローラの情報力は長けている。

確かにアルバート様の腕に瞳が大きな金髪碧眼の可愛らしい男性がしがみ付いていた。

めちゃくちゃ無表情だけど、あれ訓練中に良いの?気にならないのかしら。

(あ、離れた)さすがに剣の打ち合いでは離れる様だ。



剣稽古が始まると最初は二人の力量も同じかと思われた。しかしラキの動きが鈍い。

打ちにくそうなのだ。

どうやらアルバートに隙がなく思ったところに打ちに行けていない。狙い通りの場所に攻撃が出来ないように誘導されてしまっているようだった。

ラキは剣技もかなり強いのに徐々に押されていく。

逆にアルバートは涼しい顔で、なんなら指導の言葉を掛けながら打ち合っていた。

今度は第二の騎士達が自慢気な顔をしている。



二人の稽古が終わると「うー! やっぱアルバート様には敵わない!! 打たせて貰えないし、重いのなんの!」と満面の笑みで言うから、自分に向けられたわけでもないのに無邪気な笑顔にドキドキが止まらない。



いやぁ~! ラキが眩しい。可愛い。たまらんです!



「ちょっと、アイラ…。顔がだらしない」

くすくすと笑いながら腕を叩いてくる。



「だって、ラキのあんな子供みたいな表情。 可愛くってぇー」



「ふふ。本当にそうよね。 二人の打ち合いを口開けて見てたディラムさんも可愛くてたまらないわ!!」



二人は互いの手を取り合って小さくキャーキャーと悶える。

私達の頭がお花畑になっていると、離れていたエドガー様がラキに駆け寄って来て

「ラキ! 次は僕ね」と溌剌とした顔で剣を振り回していた。

「ちょ、ちょっと休ませて下さいよ~」なんて甘えながらも剣を構えているの、絶対にワクワクしてるって思うと胸がきゅんとなった。



「フローラ。 今日は有難う。足も疲れて来たし、そろそろ戻ろうか?」

名残惜しいが長居はバレる可能性もある。

そろそろ引き上げるのが妥当だろう。



「そうだね。良いもん見れ…、 きゃっ!!」

二人とも長い時間しゃがんでいた為に足が痺れていた。

アイラは時折、片方ずつ伸ばしたりしていたのだが、それをしていなかったフローラは立ち上がろうとした瞬間倒れて後ろに手を付いた。



慌てて地面に付いていない方の手を両手で引っ張りフローラを起こす。

間一髪の所で尻餅をついてスカートを汚す事を避ける事に成功した。

しかし、この行為が裏目と出た。

後ろを向いた状態で立ち上がった為、アイラの頭に付けていたお揃いの髪飾りが存在を主張していたのだ。




緑の木々の中に映える赤…。

そう。来る前にお揃いで付ける事にしてフローラに飾って貰った髪飾りがラキの眼に止まってしまったのだった。




*****************************



「じゃぁ、ちょっと水飲み休憩だけ取って良いよ? 飲んだらすぐ戻って来てね。僕とやろ?」

エドガーが剣を向けながら挑発的に言う。



「はい」



踵を返すとタオルと一緒に持ってきている水筒を取りに行った。

すると、視界にないはずの色が過る。

(ん? 今、視界に赤が入って来た?)感じた場所を振り返ると確かに赤い花が咲いている。ミルクティー色の髪の上に…。



(ちょっ、 あんな所で何やってんだよ!? ここ一般立ち入り禁止だぞ!?)

すぐにアイラだと分かった。

休日だと言っていたのに、何でこんな場所に?

誰かを見に来たのか?

誰を…。

ラキの中に黒い物が燻った。





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