5. 親睦会 ラキSide
今回の遠征は難しい問題を抱えていた。
表向きは隣国から流れてくる盗賊の討伐だが実際はもっと複雑だった。
何年か前から、隣国から怪しい薬が流れ込んでいる。
火を付けて煙を吸うタイプの様だが最初は気分の高揚が見られ物事が深く考えられなくなり、嫌な事を忘れて楽しい気持ちになるようだ。
だが常用すると禁断症状が現れ苛立ちから暴力的になると報告を受けていた。
最後は幻覚症状を見たり体が蝕まれ死亡してしまうという。
国が絡んでいるとなると厄介だったが、どうやら一貴族の犯行のようだ。というところまで調べはついた。
しかし、バックに隣国の上位貴族が絡んでいるとなると迂闊に手を出せない。
隣国と手を組んで情報を交換し模索しながらの遠征となった。
結果としては盗賊を捕える事に成功したがまだ黒幕を吐かせる事に成功していない。これからは自殺防止の処置を取りながらの尋問となる。
そんな大事な時ではあるが……。
俺の可愛い可愛い幼馴染が親睦会なんて言う名前の飲み会に参加するなんて言うじゃないか!!
男は狼! 触るな! キケン!!
冗談じゃないぞっ!!
俺だってアイラ成分を補給しないとやってらんないくらいには働いたぞ?
なのに他の男がアイラと時間を一緒に過ごすとか許せん。
いつも断るくせに参加するなんていうからすぐに理由を聞き出した。
そしたら俺の耳に口元を寄せて、そっと「内緒だよ? 友達の好きな人が今回は参加するんだって。だから一緒に来てって頼まれたの」だってさぁー…。
こら、頬を染めるな。照れるな。
可愛いじゃねぇか。
そっかそっか。じゃ、しょうがないね。
「アイラは参加するのか? なら俺も今回は出る」
遠征頑張ったし、拷も…いや、尋問は第二でやるって言ってたから俺は関係ないし。
不在にしてた間の書類は…机に山になってたけど、どうにかなる?んじゃないかな。
気合でどうにかするさ。
結局、時間に遅れるといけないから先行で二人行って貰って、残りの参加者でラキの仕事を片付けた。
皆さん、いつもより事務処理早いですね。など手伝って貰った身で口が裂けても言えない。
お店に行く途中で今日の親睦会メンバーだと言う女性達にあったけど、その中にはアイラが居なかった。
ジョ…なんとかって女の子が腕にくっ付いてきてずっと話し掛けて来たけど、別になんとも思っていないからセミが腕に止まってんなって思ったら気にならなかった。
店内に入るとすぐにアイラを探した。
嘘だろ? 4人席だと!?
すでに定員が埋まっている場所に居る。最悪だ。
先行で行く!と張り切って出て行ってしまったシイタさんは前から「食堂係りのアイラちゃん可愛いなぁ~。ラキ知り合いだろ?紹介してよ」って頼まれていた。
全力で無視していたのに…。
とりあえず、頃合いを見計らってシイタさんを追い出してアイラの前に座ろう。そう決心するとお腹が空いてきたので食事を楽しむ事にした。
チラチラとシイタさんの背中越しにアイラの方を盗み見る。
手に持ったジョッキを傾けエールをゴッゴッと音がなるほどの勢いで流し込む。
楽しそうじゃねぇの…。
ま、アイラが楽しいなら良いんですけどね? ほどほどでお願いしますよ?
うっかり好きになったりとか本気でやめてくれよ。
シイタさんは会話も上手いし、大人の男の色気っての?あるんだよなぁ。優しいし仕事も出来るし。
俺は、ほら
そこは追々…。
アイラが席を外したタイミングを見計らって後を追った。ちょっと酒の量を調整するよう本人にも伝えておきたかったからだ。我ながら口煩いとは自覚している。
トイレから出て来たアイラはちょっと機嫌が悪かった。
俺が女子トイレの前なんかで待ってたから【変態!】って思われたのかな。と思ったが鼻の下がどうのこうの言われて一人残された。
「何か付いてるのか!?」
擦ってみたけど分からないので鏡で確認すべく、トイレのドアを開けた。
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(!?)
戻ると衝撃的映像が目に飛び込んで来た。
アイラがシイタさんの飲んでるウイスキーを取り上げて飲んだんですけど!?
間接キスってやつじゃないの?
胸がモヤッとしている所にシイタさんが送ってくって言うのが聞こえてきてすぐにアイラの元へと向かった。
途中で抜けるのも支払いがあるのに悪いとは思ったけど、俺の一番重要事項はアイラだからごめんなさい。
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「うおぉーい。ウラァーキー! ラァーキィー」
「はいはい、聞こえてますよ。酔っ払いさん。何ですか?」
くそ~! この酔っ払い持って帰りたいくらい可愛いぃぃ!!
でも紳士はちゃんと送り届けるべし!と唇を噛み締め我慢する。
「酔っぱらってなんかないもん。ラキはさぁ、今日は綺麗なお姉さん達に囲まれてデレデレしちゃってさぁ。鼻の下ビローンだったよ!」
おいおいおい。人様の首の横で息も荒くしゃべるなよ。
くすぐってぇ~。
日中は温かくなってきたが夜は少し冷える。アイラが風邪を引くといけないと思い足早に進むが、早く送り届ければそれだけ別れの時間も早くなる。
早くかゆっくりか…、どちらを選択するか思案しながら会話を進めていくと「お説教が好きですかぁ~」などと言って急に後頭部の髪を引っ張られた。
幼い頃にしていたように落とす振りをしてアイラの体を上下に揺すってみる。
昔はもっとやって欲しいと笑って強請られたもんだ。
「どうだ?」とアイラの表情を確認しようと振り向くと小さな両手で頭を挟まれ拒否された。
ふぅっと溜息を一つ吐く。
何か、がアイラを不機嫌にさせている。心当たりなんてないけど、まさか俺がなんかしたか?
「…何で? アイラちゃんは何が嫌だったのかな?」
アイラの不安なんて俺が今すぐにだって取り除いてやりたい。
何でも聞かせて欲しい…って思ってんのに人の気も知らないで急に怒って肩を叩いてきた。
…うん。気持ち良いぞ。何も痛くねぇ。
もっと強めで。と調子に乗ったら怒られた。酔っ払いめ。
しかも両足を開いて閉じてと俺の脚を挟んでくる。
暴れるなとは言ったが、もっと強く挟んでくれ!!
じゃなかった、俺以外の奴にこんな事したら…。
殺す!!!(もちろん相手を)
背中でもぞもぞと動きだす。
ん?眠いのか? この絡みっぷりからも完璧にぐずってんな。と思って軽く体を上下に揺すってやる。
すると後ろから回って来た腕が交差してしがみ付く。
自分とアイラの隙間が無くなった。
「囲まれてんのが嫌だった!! 腕掴んだりさ、近いっての」
じれたように吐き出される台詞に一瞬思考が停止する。しかし肩におでこを乗せられた瞬間現実に引き戻され肩がビクっと震えた。
「……なんで嫌なの?」
自惚れじゃなければシイタさんではなく俺に嫉妬してんのか?
緊張から喉が張り付いて声が掠れた。
早くアイラの声で、アイラの口から答えを聞きたい。
なのに無言で自身の体を上に引き上げると俺を横から見つめてきた。
早く答えをくれよ。俺に嫉妬したのか?
なんで他の女といて嫌だと感じたんだ?
「おい。無言か? 寝たのか?」
「騎士様はさぁ~、私の事キライ?」
求めている答えではない。
アイラの話は酔っているからか会話が飛ぶ。
俺がアイラの事を嫌いだって?どうしたらそんなふうに思うんだよ。
むしろ食っちゃいたいくらい可愛くて仕方がない!
さすがにキライか?と問われると、どんなつもりで言ってんだ!と責める気持ちも湧き上るので振り返って表情を確認してやろうとする。と
視界に目を伏せたアイラが近づいてきた。
カプッ
左の頬を優しく噛み付かれる…。
何が起こったのか分からず頭が真っ白になる。それと同時に力が抜けて落としそうになった。
兎に角、冷静になれ。
頬にあたった唇が柔らかくて気持ちいいとか、離れる瞬間「チュッ」って音がしたぞ!とか…。
お~、俺の心よ、無になれ、無に!
いや駄目だ、 後で思い出せるように頭の中に叩き込め!!
などと煩悩と戦っていると肩から囁くような小さな声がする。
「……なんかさ、女子に囲まれてるの見るの嫌だったな。昔はさ、私が一番近くに居たのにさ、一人でどんどん格好良くなっちゃってさ、……モテちゃったりしてさ、ラキの良さを一番知ってるのは私なんだから……。置いてかないでよ……、寂しい …よぉ…」
嫉妬で寂しい思いをさせていたのは俺か!?
悲しい思いをさせたくせに、それが自分を思っての事だとすると堪らなく高揚する。
願っていた言葉が聞けた。
例え、それが慕っている兄の様な存在を取られそうだという焦燥でもいい。押さえていた気持ちを伝えたい。意を決して口を開く。
「アイラ!! 俺っ」
………ぐぅ。
「って寝てんのかい!!」
静かな街並みに俺の突っ込みは独り言となり、勇気は消えて行った…。