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4.



「うおぉーい。 ウラァーキー! ラァーキィーー」



「はいはい、聞こえてますよ。 酔っ払いさん。何ですか?」



「酔っぱらってなんかないもん。ラキはさぁ、 今日は綺麗なお姉さん達に囲まれてデレデレしちゃってさぁ。 鼻の下ビローンだったよ!」



「なんだよ。あ~、…鼻の下ってその事か。 デレデレなんてしてません。…お前だってシイタさんと二人で良い感じだったじゃんか」



「シイタさんは隣だったからだよ。優しいし面倒見が良いだけ」



「いや、シイタさんはガチ…。 ま、お前は鈍そうだからなぁ」



「何さぁ~、騎士団長様はぁー、お説教が好きですかぁ~?」

目の前のサラサラとした黒髪をギュッと引っ張る。



「いてぇ、髪引っ張るなよ! 落とすぞ」



アイラの表情を見ようとラキが首を横にするがアイラが両手で頭を掴んでそれを押さえ拒む。イテテと言うが今は顔を見られたくない。

ふぅっとラキが溜息を一つ吐いた。



「…何で? アイラちゃんは何が嫌だったのかな?」



優しい声でそんな事聞かないで。

嫌に決まってるじゃない。

ラキは私のラキだ!!

なんだか胸が苦しくなって両手でラキの肩を叩く



「おっ? 気持ちいいねぇ。もっと右の方を強めで頼みますよ」

ワハハなんてのんきに笑ってる。



「ちぃーがぁーうーーー!!」

もう、私の気持ちが全くわかってない!!

今はそんな冗談聞いてる気分じゃないのに…。

肩をポカポカ叩き、両足をバタ付かせる。ついでにラキの太ももだって挟むように蹴ってやった。



「わわっ、暴れんなよ。 肩叩きは嫌か」



「違う!」

燻る感情がうまく伝わらない。

自分でも分かっていないのだから相手にわかって欲しいと願うのは無理な話だ。しかし体の中で大きくなった苛立ちがうねりを持って熱になる。



後ろから腕を回して首にしがみ付く。

ラキ、ラキ!!



「囲まれてんのが嫌だった!! 腕掴んだりさ、近いっての」

ついでに何だ、あのボイン。わざと押し付けたんじゃないの? ムカつくー!



ぽすんとラキの肩におでこを乗せる。ラキの匂いと体温がグッと近くに感じる。

するとラキの肩がビクっと震えた。



「……なんで嫌なの?」

掠れた声で再び問いかけられる。



問いには答えない…。

グイッと上に体を引き上げ、顎をラキの肩に移動させ頭を傾けると整った横顔を見つめる。



この人、何でこんなに格好良いんだろう。

黒髪でサラサラな髪型も好き。

整った顔も好き。でもそれはラキだから。

少し低い声が好き。

ラキの呼ぶ【アイラ】が好き。

何よりもこの一緒に居る時の空気感が好き。

ずっと側に居たい。

離れたくないよ…。

いつか誰かに取られてしまうのだろうか?

この瞳が違う誰かを映すようになるのだろうか…。

考えるだけで胸が苦しい。



「おい。無言か? 寝たのか?」



「騎士様はさぁ~、私の事キライ?」



脈略もなく何言ってんだって自分でもわかってる。

でも何となく今日はラキを責めたくてしょうがないんだよ。

違う。

二人きりになったから甘えたいのかも知れない。

こんなのは赤ちゃんみたいにぐずってるだけだ……。



「キライってなんだよ?」



ラキがこちらを振り向いた時には何も考えていなかった。

ただ自然と体が動いた。



カプッ



ラキの左の頬に柔く噛み付く。



ズルリッ



ラキの腕から一瞬力が抜けて落されそうになる。

(あ、やってしまった)と焦る気持ちはあったが唇を尖らせ齧っていた歯を外すとゆっくり頬から離れ、再びラキの肩へと額をあてる。



落としかけたアイラを慌てて持ち上げ直すと前に向き直り

「え? 何が起こったの? 噛んだの? なんなの? 酔っ払いなの?」とぶつぶつ言っているがアイラには届かない。



怒られるかも…と怖くなって額を押し付ける。

小さな震える声を振り絞り

「……なんかさ、女子に囲まれてるの見るの嫌だったな。昔はさ、私が一番近くに居たのにさ、一人でどんどん格好良くなっちゃってさ、……モテちゃったりしてさ、ラキの良さを一番知ってるのは私なんだから……。置いてかないでよ……、寂しい …よぉ…」



本当は今日こんな事が言いたかったんじゃない。

いつもみたいにラキとふざけ合って、笑って時間を過ごしたかった。

でも、もう頭の中はふわふわして難しい事が考えられない。



「アイラ!! 俺っ」



………ぐぅ。



「って寝てんのかい!!」






ゆら ゆら ゆら

群青色の空には散りばめられた星屑たち

少し冷える風が火照った頬を優しく冷ましてくれる

街の人出はぽつりぽつり

ラキの匂いと広い背中

ここが一番安心が出来て温かい場所。

誰にも渡したくない…。

ふと脳裏にラキにしがみつくジョアンナが過ぎる。



「ら、キィ…」



「ん? 起きたの?」



その後の反応がない。

それに肩から前にまわす腕に力が入っていない。

これは…、寝言か…?



「ら、き…ぃ。……ば、かぁー」




「何でだよ!?」




第四騎士団団長。ラキ・ヘルナート。

若干20歳にして全騎士団の中でも上位を誇る強さを持つ男。

彼と対峙した敵は恐ろしさに震えるほどだと言うのに、彼は可愛い幼馴染には負かされっぱなしの弱い男だった。



***************************



翌朝、アイラは自分の家のベットの上で目が覚めた。

どうやって帰ったのだろう?

服は昨日のままだが靴はちゃんと脱いでいる。

帰ってそのまま寝てしまったのか……

全く覚えていないが一人暮らしのこの家に帰っているという事はきっとラキが送ってくれたのであろう。

王都の保護者として合い鍵を渡してある。



「うぅっ…、頭が痛いし、気持ちが悪い…」



完全に二日酔いである。

ベットから降り、水を取りに行くとテーブルの上に書き置きがあった



【二日酔いの薬だ。ちゃんと飲んでおけよ】



ラキの字だった。

「ラキ様、毎度毎度お手数をお掛け致します。感謝して飲みます」

手を合わせて薬を拝むと水と一緒に飲み込んだ。





痛む頭を抱えながら出勤すると更衣室でフローラと会った。

「ちょっと通してくださいねぇ」なんて言いながら着替えている人を避けてこちらへと向かってくる。



「アイラ。体調はどう?」



「頭痛いし気持ち悪い。でも薬飲んだから大丈夫になるんじゃないかな? 二日酔いなんて人生で初めてで戸惑っております」

眉根を寄せて情けない顔で俯くとフローラが頭を撫でてくれた。



「あ!フローラはどうだった?」

勢いよく頭をあげるとズキリと痛む。

アァァ~~~~…



「それがさ、一緒の席に座れたから前日の想像よりお話しが出来たわけですよ。その結果……。 今度は街に出てご飯を一緒に食べましょうって事になりましたぁーーーー!! ねぇ、これってデートじゃない!?」



「うわっ、凄い早い進展にびっくりだよ!」



「でしょ!でしょ? アイラ、昨日は一緒に行ってくれて有難うー!!」



互いに手を取り合って喜び合うが

頭に響いて蹲る事となった…。





お皿に朝食メニューを盛り付けていると、ニヤニヤしたシイタさんと不機嫌な顔をしたラキが一緒に来た。

「アイラちゃん、おはよう。気分はどう?」

シイタさんが目玉焼きとウィンナー、豆と野菜がたくさん乗ったお皿を受け取りながら聞いてくる。



「あ~…。昨日はご迷惑をお掛けしました。 体調はお薬を飲んだので大丈夫です。そして、シイタ様、ラキ様、昨日はご馳走さまでした」

【薬】と発した部分でラキを伺う。

すると、すかさずラキがお盆で頭を叩いてきた。



「イタっ!」



「お前さ、マジでお酒飲むなよ」

不機嫌そうに上から睨み付けてくる。

うっ、怖くなんてないもん。



「何でさ。ラキに言われなくてもちゃんと帰れたし」

あれ?そう言えば、薬もあったし書置きもあったんだからやっぱりラキと一緒に帰ったんだよね?

どうやって帰ったのか分からない。



くくっとシイタさんが笑っている。何が可笑しいのかしら?



「………お前、記憶あんの?」



「…いや、それがカクテル飲んだ後から覚えてないの」



トイレから戻って、間違えて頼んだカクテルを飲んだ事は覚えている。

しかし、その後の事が思い出せない。



話しを進めながらきつね色に輝くふっくら焼き立てのパンをトングで取ってお皿に乗せて二人に手渡す。お皿を受け取ると一度お盆を台の上に置いて、続けてラキの腕がこちらへと伸びてきた。



ガシリっ!!



右手で頭を鷲掴みにされる。片手でアイラの頭なんてすっぽりだ。



「うわっ!何!? 痛い痛い痛い!!」



「お前~、マジで俺が居ない時に酒禁止!!」



涙目で見上げると、強い目力で「わかったな!」と言われた気がした。

「…はい」



「良し」と頷いたラキはさっさと朝食を持って席へ行こうと向きを変える。



私は何かしてしまったのだろうか?







やっと親睦会が終わりました。

書いている間、頭の中は毎日飲み会でした。


次は【ラキSide】を書きたいと思います。


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