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3.



足早にトイレに駆け込むと水道で手を洗う。

別に意味はないのだが大きな音を出したい気分だった。



ジャーッ

キュ、キュッ



洗面台に両手を付いて顔を持ち上げる。

鏡の前に映る自分は今にも泣き出しそうだ。

口はへの字だし、ライトグリーンの瞳は涙を溢れさせないよう眉間にシワを寄せている。喉の奥がしまって苦しい。



情けない顔…

こんなの可愛くない…



昨日の夜は久し振りにラキに会えると心が弾んでいたはずだ。

少しでも可愛く思って貰えるよう服装を考えた。お肌のお手入れだって念入りにやった。

今日だって来る前までラキに話したい事がたくさんあって、どれから話そうか。と上がる気持ちを必死で抑えた。



あんなに楽しかったのに、すべての時間が無駄に思えた。



席に戻るの嫌だなぁ…

他の女性といるラキなんか見たくなかった。ざわつく胸を押さえギュッと目を瞑る。

でもこの場にずっと留まるわけにも行かない。

意を決してドアを開けると、通路の斜め前に今まで自分の頭の中を占めていたラキが腕を組んで立ってた。その事に驚き、一歩下がる。



「アイラ。余り強くないんだから飲みすぎるなよ?」



組んだ腕を解きながらこちらへと歩み寄ってくる。

少し低めに言われると機嫌の悪さを感じ取った。



なんかちょっと目を合わせたくない気分だ。自分の斜め下を見ながら

「…大丈夫。私は問題ない。問題は、ラキの、鼻の下」

やばい。ちょっと「鼻の下」だけきつく言ってしまった。



「はぁ?どういう事?」



アイラはぽかんとするラキを置いて慌てて店内へと足を向けた。





席に戻ろうとして店内を見回すと、改めて人が増えている事を感じた。

美味しそうな食事の香りに擦れる食器の音、お酒を飲んで気分が良くなったのかボリュームの大きい会話。

みんな思い思いに楽しんでこの場にいる。

人が多い場所で騒げばガヤガヤと聞こえるもんなんだな。などとどうでも良い事を考える。



親睦会のメンバーをちらりと見れば、ラキが居ない場でも他の騎士たちと女性達は楽しそうに盛り上がっていた。



自分以外はみんな楽しそう…。

一人残された気分になり、これは自分も酒に酔ってこの楽しい雰囲気の仲間に入ろう!と思った。



カウンターにそのまま向かい女性店員に声を掛ける



「すみません。甘くて苺味のするシュワッとするお酒ください」



「はぁ~い♪ 当店人気のストロベリースペシャルシュワットストロングですね」



さっき飲んだのも長い名前だったが、そんな名前だっただろうか??

私の顔が疑問に満ち溢れていたのであろう、店員さんがもう一度同じ名前を言う。うん。そんな名前だったような気がして来た。



「じゃ、2つください」



「了解しましたぁ~♪」



くるりとスカートを翻し店員さんは奥の厨房へと消えて行った。

えっと。大丈夫かな?顎に手を当てて首を傾げる。

でもストロベリーって言ってたし…。 間違えではない。 はず…。



「はい。お待ちどぉ様でぇ~っす」



たくさん入っているから溢さないようお気を付け下さい。と言いながらゆっくりと手渡してくれる。

アイラは両手に受け取るもさっきとどこか違うカクテルに「おや?」と思った。

始めに飲んだカクテルにはミントの葉が乗っていたのだが、これにはレモンの輪切りが入っている…。本当に同じ物だろうか?ミントが品切れになっただけか?

右手に持つカクテルを一口飲もうとグラスを傾ける。

(うん。美味しい。さっきより苦い気もするし見た目も違うけど大丈夫だ)





シイタさんが「アイラちゃん、大丈夫?」と言ってくれるが「甘い、うまい、シュワっとしてるから正解」と分けのわからない理由でヘラリと微笑む。



どうやら最初に頼んだ物はストロベリースペシャルシュワットで、今飲んでいるのとアルコール度数が違うようだ。

長い名前がいかん。けしからん。

だがしかし、無駄にも出来ん。

4人負けた。

ラキも負けた。

ラキ支払い…。絶対に無駄には出来ん!



二杯頼んでしまったので、次のグラスにも口を付けた所でフローラにお酒を奪われてしまった。

「アイラ。もう止めておこう。帰れなくなっちゃうよ?」

心配そうに覗きこむフローラは可愛いなぁ~なんて眺めつつ、うふふっと笑ってシイタさんが飲んでいたお酒をバッと取って飲んだ。

今日はヤケ酒する日なんだ。止めないでくれ!!



「ぐぅっ!! これ何? まずい…」



「こら! これはウィスキーだよ!!」



(!?)



ぐわっと独特な香りのするお酒に一瞬にして喉が焼かれて撃沈。

顔が熱くなり、目も回る。耳から湯気が出そうです。

そのままテーブルに伏せてしまった。



「う~ん。こりゃ、駄目だね。俺送ってくわ」



シイタさんがアイラの腕を持って立たせようとする。と後ろから肩を引かれた。



「シイタさんごめん。有難う。俺が連れて帰るよ」



「あ~…。 いや? 俺でも運べるけど」



「シイタさんは駄目。あ、お金は後で教えて?立て替え宜しく」



女性達が何やら騒いでいるけど、全く意に介せずさっさとアイラを背におぶって「アイラの荷物はこれだけ?」など忘れ物が無いか確認し帰る準備を始める。

フローラが「あ~、あ~、スカートなのに」と慌ててラキに近寄り上がったスカートの裾を直してくれた。「有難う」とお礼を告げるとアイラを背負ったまま「じゃ、皆も飲み過ぎないでね! また明日~」と明るく声を掛け、右手を振ってラキは店を後にした。





ラキはシイタさんのウイスキーを飲んだ事も気に入らないです。


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