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突然鳴り響く轟音。

ものすごい揺れに襲われ、床に倒れ込む。

パラパラと上から何かが落ちてくる。ランプの灯りが消え、部屋は薄暗闇に包まれた。

ゆらりと立ち上がったルーディックから眼鏡を奪う。

視界が戻った私の目に入ったのは、凶悪な顔をしたルーディックと無残に姿を変えた部屋。

椅子もテーブルも倒れ、ティーセットは割れて散らばっている。

そして見上げた天井は吹っ飛び、空が見えていた。

ちょっと、待て、おい。

ルーディックはふらふらと歩き出す。

まさに殺人鬼みたいな顔をしてどこに向かうつもりだ。

まさか、スフィーのところじゃないだろうな!


「おい、ルーディックどこに行く」

「スフィリア嬢のところに決まってるでしょ!僕のエリシアのファーストキスを奪うなんて……万死に値する!」


彼が腕を振り下ろすと再び爆発音が鳴り響く。

ぐらぐらと激しい揺れに床に蹲り頭を抱えた。


「万死に値するのはお前だ!スフィーに何かしたら殺す」

「エリシアは僕のものだ。認めない。ファーストキスが僕以外なんて認めないよ」

「お前に認められる必要なんてない!」


きゃんきゃん言い合いをしているとバンっと扉が開く。

駆け込んできた執事と数人のメイドが、常人ではありえない素早さでルーディックを取り囲んだ。


「お坊ちゃま、申し訳ございません」


そう声を揃えて謝った彼らは、慣れた手つきでルーディックを縄で縛り上げる。


「離せ!こんなことをして許されると思っているのか!」

「はいはい、お坊ちゃま。申し訳ございません」

「離せと言っているだろう!」

「そんなふうになさるから御父上に笑われるのですよ」


暴れるルーディックを手早く縛り上げた執事は、メイドの用意した十字架に磔にしていく。

ちょ、え、おいおいおい。それ、大丈夫なのか?

みるみるうちにルーディックの体から力が抜け、十字架に吊るされた彼はだらりと頭を垂れている。


「まったく。お坊ちゃま。わたくしは何回部屋を直さなければならないのですか?いい加減にしてくださいませ。少しは反省するとよろしいでしょう」


ぐったりとしているルーディックに言ったのは、幼い頃に何度も話したことのある執事のリデルだ。彼はくるりと私を振り返ると恭しく頭を下げた。


「エリシア様、大変お騒がせ致しました。ルーディック坊ちゃまのことはどうぞお許しください。きつく言っておきます。スフィリア様の安全はこちらで確約いたしますので、ご安心を」


リデルが胸に当てていた右手を軽く振ると、後ろに控えていたメイドの一人が煙のように消えた。


「この部屋では落ち着いてお話も出来ないでしょう。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

「は、はい」


新しく通された部屋で、再びお茶に口を付ける。ふぅっと息を吐いた私の向かい、少し離れた場所。

磔にされたままのルーディックは十字架ごと壁にたてかけられている。

さすがに可哀想な気がするけど、いい気味だ。反省しろ。

スフィーの身の安全は、なんとかしてくれるようだし、問題はない。


「おい、大丈夫か?」

「エリシアのファーストキスが僕じゃないなんて大丈夫なわけない」

「そっちじゃない」


頭を垂れたまま、ぽたぽたと涙を零している。

磔にされて落ち着いたのか、凶悪な顔は消え、いつものルーディックだ。無駄に美しい宵闇の貴公子。

テラスで見た彼は随分と顔色が悪かった。今はぐったりしているものの頬に赤みが指している。

もしかして、私の血を吸ったからなのか?

この、超絶軟派吸血鬼野郎!童貞なんて信じないからな!

ファーストキスなんて尚更信じられないからな!


「とりあえず、ヴァンパイアっていうのはわかった。十字架に磔にされると動けないようだし」

「そっちで判断するの?」

「だまれ変態。勝手に血を吸いやがって」

「甘くて美味しかった」

「死ね」


よし。十字架のアクセサリーを注文しよう。

私の分とスフィーの分。

大っ嫌いなルーディックの弱点となり得るなら、それはもうお金を幾ら掛けてもいい。十字架を頭の先から足の先までつけて歩いてやる。

他には……なにかあるだろうか。


「ねぇ、ルーディック様」


意識して可愛らしく話しかける。

いつもより少しだけ声を高く。口角を上げて、分厚い眼鏡じゃわからないだろうけど渾身の上目遣いだ。


「なんだい、エリシアっ!」


顔を上げたルーディックは嬉しくて仕方ない表情だ。まるで尻尾を振る犬。


「日光は苦手ではありませんの?」

「ああ!長時間じゃなければね!長年の訓練の賜物だよ!」


それはもう涎を垂らさんばかりの顔で答えるルーディック。


「……苦手なものはございませんの?」

「十字架とニンニクかな。あとはだいたい大丈夫だよ!」


十字架の他はニンニクか。

ニンニクを持ち歩くのは臭いだろうか。

いや。ルーディックを遠ざけられるなら持ってやろうじゃないか!


「教えてくださってありがとうございます。ごきげんよう、ルーディック様。夕食はどうぞお一人で」


かたりと椅子から立ち上がった私は、壁にたてかけられたルーディックに微笑む。


「え、え!?エリシア?」

「動けないようですし、お見送りは結構ですわ」

「エリシア!エリシア!?」


扉を開ける前、ちらりと彼を振り返る。

忘れてはいけない。ちゃんと伝えなくては。


「私とお前に仲直りという道はない。私はお前が大っ嫌いだ!」


閉じた扉からルーディックが何か叫んでいるが、そんなもの無視だ。無視!


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