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そして。

ルーディックと一切、口を利かなくなって一か月。

思い詰めた表情のルーディックと向き合う羽目になった放課後、薔薇園のテラス。


「エリシア。話を聞いて欲しい」

「……」

「僕は君がいないと駄目なんだ」

「……」

「エリシア」


超絶軟派野郎ルーディックのゆるゆるな噂が流れなくなって二週間だ。

ルーディックの顔色が日に日に悪くなり、きゃあきゃあと騒いでいた令嬢たちはとても静かになった。

彼女たちは、私とルーディックが仲直りできるように応援をしているらしい。スフィーの話だと。まったくもって意味が分からん。

令嬢たちは揃って言うそうだ。

ルーディック様は残念地味令嬢といえどエリシア様がいないと駄目なのだと。

残念地味令嬢といえどエリシア様がいてこそのルーディック様だと。


「残念地味令嬢に一体どんな御用ですか?ルーディック様」

「エ、エリシア」


見開いたルーディックの目にぶわりと涙が浮かび、藍色の瞳を濡らす。ぽろぽろと零れ始める涙もそのままに、「やっと声が聞けた」と彼は泣きながら微笑んだ。


「エリシアは残念でも地味でもないよ。君はずっと僕の女神だ」

「他の令嬢に愛を囁いた口で、何を言われても嬉しくも何ともありません」

「僕の愛はエリシアだけの物なのに」

「何を言っているんだ、この超絶軟派下半身ゆるゆる野郎」

「お口が悪いよ、エリシア」

「死ね」


眉尻を下げて悲しそうな顔のルーディック。

そんな顔で絆されると思うなよ。私の決心は固い。


「僕は君に隠し事は出来ないみたいだ。このまま、久しぶりに僕の家にこないかい?大切な話があるんだ」


そう言いながら立ち上がり、がしりと私を捕まえた彼に抱き上げられる。えっ?と思ったときにはもう遅い。突然走り出したルーディックに連れ去られるまま、馬車にのせられる。


「今夜は僕の家で夕食を食べよう!」


さっきまでの思い詰めた表情と愁傷な態度はどうした。どこに捨ててきたルーディック。

寧ろ演技か?ということは、嘘か?嘘を吐いたのか!

ルーディック!この!超絶嘘吐き野郎!


あっとゆう間に到着したアレキサンドライト公爵家のお屋敷は、十年前と変わらない場所に変わらない雰囲気で、ひっそりと佇んでいた。

夕方も近いこの時間、薄暗い中で見る彼の家は幼い頃から少しだけ怖かった。静かで、妙な緊張感があるのだ。

なんだか寒いような気さえする、ぴんっと張り詰めた空気。

ふるふると首を振った私は、ルーディックに促されるままお屋敷に足を踏み入れた。


「お久しぶりですね、エリシア様」


お屋敷に入れば、見覚えのある執事にメイド、ランプで明るく照らされる室内。

外から見る雰囲気は一転、温かく受け入れてくれる幼い頃によくしてくれたアレキサンドライト公爵家の使用人たち。

案内された客間も昔のまま、出してくれるお茶も、素朴なお茶菓子も昔のままだった。


「エリシア、改めて僕の話を聞いてくれるかい?」

「……なんですか?」

「僕は……アレキサンドライト公爵家はね……」


躊躇うように口を閉じたルーディック。さっさと言え。黙っているなら帰るぞ。

ちらりと伺うように上目遣いで見つめてくる。そんなものが私に効くと思うなよ。


「エリシア、落ち着いて聞いて欲しい。そして、誰にも言わないで欲しい。本当は、言っては駄目なことなんだ。でも、僕は君がいないと生きていけない」

「そうやって他の令嬢にも話すのですか?同情するとでも?」

「本当に僕が悪かった。エリシアのことを守りたかっただけなんだ。どうしても、負担になることだから……僕はね、エリシア。僕は、ヴァンパイアなんだよ」


下半身がゆるゆるすぎて脳みそが溶けた?

何を言っているんだ、ルーディック。このやろう。この……っ!

じわりと涙が浮かんでくる。

悲しいのか、悔しいのか、苦しいのか。何がなんだかわからない。

ただ、心が痛くて痛くてたまらない。ぎゅうっと締め付けらるように痛くて、頭がガンガンと鳴り響き、涙がぼたぼたと零れてくる。

大好きだったルーディックは本当にもういないのだ。

ルーディックの嘘吐き。……嘘吐き、ルーディック。


「る、ルー……、ディック、この。う、そば……っかり、」

「嘘じゃないんだ。少し痛いけど、許してエリシア。僕の女神」


ぎゅっと抱きしめられたかと思えば首筋に痛みが走る。じわっと熱くなり、吸い出されるような感覚。

じんじん熱くて、少しだけ痛くて、でもなんだか、体が……おかしい。

はっと零れる吐息に甘さが混ざるのが自分でもわかる。なに、これ。

身動ぎしてもルーディックの腕の力は緩まない。

視界が熱で歪む。身体中が熱くなっていく。上がってしまう息が苦しい。


離れたルーディックの口元は血で汚れている。それを舐めとる舌が艶めかしい。

私の顔を見たルーディックは、私から眼鏡を奪う。

彼の瞳は室内のランプで赤みを帯びた紫色だ。夜空とは違う、深い闇の色。

眼鏡がない私が、彼の瞳を認識できるのは、至近距離にその顔があるから。

それほど近くにあるルーディックの顔がさらに近づいて、私の唇も奪った。


「ごめん、エリシア」


そう呟いた彼の口づけは鉄の味がした。


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