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「おい、ちんまいの!お前とルーディックの結婚など、私は認めないぞっ!」
王宮の窓ガラスをぶち破り、謁見の間に飛び込んできたのは、セドリック・フォン・ディアベル
悪魔の名を持つ、漆黒の髪と瞳の持ち主。
その背中には蝙蝠のような翼があり、それを羽ばたかせ空中に揺蕩う。
ゆっくりと大理石の床に降り立った彼は、カツンと冷たい音を響かせてルーディックを抱き留める私の前に立ちはだかった。
「私の花嫁を返してもらう」
私の腕の中で動けずにいるルーディックの背中には小さな十字架が張り付いている。退かそうといくら払っても離れない。
「……お前、一体何者だ」
「ふん。ちゃんと名乗っているじゃないか。悪魔だと」
「ディアベル……」
いつもなら話すくらいはできるはずのルーディックが腕の中で呻く。ぐったりと力の無い彼の体が重い。
「ルーディックと結婚するのは、私だ」
私からルーディックを奪ったセドリック様は、ルーディックを横抱きにすると、ばさりと翼を広げる。
「悔しかったら取り返しに来い」
「ルーディック……っ!」
不敵な笑みを浮かべ飛び立ったセドリック様を、私は呆然と見送ることしかできなかった。
「あの馬鹿息子っ!」
ばきりと扇を真っ二つに割ったローゼグレース様が、怒りの形相でセドリック様の飛んでいったあとを睨む。
ガツガツと女性らしからぬ足音を立てて私のもとへ歩いてきた彼女は、しゃがみ込んでいる私を立たせてくれる。
「エリシア、大丈夫よ!絶対に取り返すわ!あの馬鹿息子、エリシアと結婚できないなんて、それじゃあ、産んだ意味すらないわ!」
「ローゼグレース様。それはさすがに酷い……」
ぐいっと抱き寄せられて顔を上げれば、真剣な光を瞳に湛えたお父様がこくりと頷いた。
「大丈夫だ、エリシア。私達がついてる」
「お父様……」
正直、これでルーディックとの結婚が回避されるんじゃないかとか考えていたのだが、さすがに往生際が悪いか。
そんな私の耳に届いたのは、これまで静かに成り行きを見守っていた箱入りロマンチスト第一王子の声。
「なんて、美しいっ!」
彼は両手を組んで、祈るようなポーズを取ると、瞳を輝かせつつ話し始める。
「長く離れていた幼馴染のエリシア嬢とルーディック様!再会を果たした彼らだったが、素直になれないエリシア嬢!美しく成長したルーディック様は令嬢たちに囲まれるも満たされない日々を送っていた……っ!自分に必要なのはエリシア嬢だと気付いたルーディック様は、彼女に何度も愛を伝える。そして、ついに昨日、医務室で結ばれたはずなのに……っ!」
第一王子のアクアブルーの瞳から涙が溢れ始める。両手を白くなるほど握りしめる彼の言葉には、げんなりするくらい熱が込められる。
「王宮での婚約の儀の最中!まさか、最大の試練が降りかかるっ。魔王セドリックの手に寄ってルーディック様は連れ去られてしまうのだ。エリシア嬢は、愛する婚約者を助け出すために魔王のもとへ向かう!」
ああ。やっぱり。
「な、なんて美しい愛の物語っ!エリシア嬢!必ずルーディック様を助け出してくださいっ!そして、二人の愛を証明するのです!」
気づけば、箱入りロマンチストの両脇には国王と王妃が並びこくこくと頷きながら、目尻に涙を溜め、私を真っ直ぐ見つめていた。
箱入りロマンチスト第一王子と国王である叔父上と王妃から盛大に応援された私は、ローゼグレース様とお父様と一緒にアレキサンドライト公爵家へ向かった。
本気で悪魔の元に助けに行くのか。
馬車の中、ちらりと見ればローゼグレース様はやる気満々だ。
ローゼグレース様はルーディックのお母様。と、いうことは彼女もヴァンパイアのはずだ。
セドリックも悪魔。悪魔同士ならまだしも、人間の私に何ができるというのか。
ばかルーディックっ!
自力で戻ってこられないのかっ!
「ローゼグレース様。私が悪魔に立ち向かうことなどできるのでしょうか?」
「大丈夫よ、エリシア。旦那もサイラスも力になるわ!」
「サイラスお兄様もですか?」
「当たり前じゃない!」
サイラス・アレキサンドライトは、私よりも四つ上、ルーディックより三つ上のアレキサンドライト公爵家の長男であり、跡取り息子だ。
ローゼグレース様似のルーディックとは違い、公爵似のサイラス様は銀色の髪と赤い瞳を持つ。その瞳は、ランプの灯りに青みを帯び、深い緑色へと変わる。
もうずっとお会いしていない。私にとっても、お兄様のような方だ。
ヴァンパイアであるアレキサンドライト公爵家の皆が協力してくれるのであれば、悪魔からルーディックを助け出すことも出来るのかもしれない。
でも……サイラスお兄様は体が弱かったはずだ。大丈夫なのだろうか?
「あの……サイラスお兄様は、よく熱を出しておりましたよね?」
「熱?熱なんて出してたかしら?」
「ええ。一緒に遊んでいると顔を真っ赤にして瞳を潤ませ、ふらふらになってらっしゃいました」
「あら。やだ。サイラスは大丈夫よ!それにしても、情けないわね」
「……え?」
「ルーディックよっ。ディアベルなんかに捕まるなんて。戻ってきたら、叩き直してやらなきゃ」
ばしりと折れた扇を手のひらに叩きつけたローゼグレース様は、薔薇色の唇で美しく笑みを描いたけれど、その目はまったくと言っていいほど笑っていない。
向かいに座るお父様に視線を向ければ、彼は困ったように微笑むだけだった。
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返信はしないことにしているので、ご容赦いただければと思いますが、嬉しさのあまり何度も読み返しております。本当にありがとうございます。
だいぶ型破りなエリシアですが、見守っていただければ幸いです。




