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「おいこら、ルーディック。どういうことだ」


少し上にあるルーディックの頬を思いっきり引っ張った私は、ぎりぎりと抓る。

反対の手でルーディックの胸ぐらを掴んで、自分に引き寄せた。


「お前、私を抱いて学院中を練り歩いたのか!?」

「ぼくふぁ、えりふぃあと、けっこんすふの!」


左頬を思いっきり抓られて、ちゃんと話せないくせに主張だけはしやがって!

この……っ!このおおばかやろう!


「ここは王族専用なのか!第一王子に許可ってなんだ!?お前……っ!王族の許可のもと、男女が二人きりで数時間!!それも、よりによって第一王子だと!?」


このっ!嘘吐き吸血鬼野郎!よりによって!


「あの箱入りロマンチストに言ったのか!?」


真っ直ぐ私に視線を向けたルーディックは、抓られいるせいで歪になる微笑みを浮かべてこくりと頷いた。

全身から力が抜ける……。よりによって第一王子……。


「可愛らしいアクアブルーの瞳をキラキラと輝かせて、ご結婚おめでとうございますって言われたよ」


あの箱入りロマンチストっ!

この国の第一王子は恋愛小説が大好きで、寝ても覚めても恋に恋する乙女思考野郎だ。

いつか白馬の王子様が迎えにくると思っているロマンチスト。

お前が王子だろう!お前が迎えに行けよ!

長く離れていた幼馴染の再会から始まる恋物語なんて……!好きに決まってる!絶対に!

彼の頭の中では、感動の再会、恋の駆け引きから医務室での逢瀬まで妄想されてるっ!下手したら、婚前交渉まで……っ!

結婚しなかったら、あのロマンチスト、断罪する可能性すらあるぞ……っ!

ああ。国王にも王妃にも伝わっているだろう。そうしたら、お父様にも伝わるし、アレキサンドライト公爵にも伝わる。もう……もう覆せない。

アレキサンドライト公爵に伝わったら、公爵夫人にも伝わるはずだ。

こ、公爵夫人……っ!

すっっっかり忘れてた!そうだ!公爵夫人!!


「おい、ルーディック!アレキサンドライト公爵夫人は今どこに?」

「母上なら、今日は王宮で謁見があったはずだけど?」

「ああ、ああああ……ああああああ……っ!」


アレキサンドライト公爵夫人……ルーディックの母親。水の女神の……お母様の崇拝者……っ!とんでもない、とんでもないのだ。


「私の水の女神……どうされましたの?」


頭を抱えている私に泣き顔のイヴェネッタ姫が声を掛ける。


「イ、イヴェネッタ姫。私、イヴェネッタ姫の国に……っ!」

「だめ!」

「お前、ローゼグレース様がどれだけ盲目的か!」

「母上はエリシアが大好きなんだよ」


ルーディックっ!この……っ!その能天気な頭をかち割ってやりたいっ!


「エリシア、どうしたの?大丈夫?」


私の様子に涙を止めたスフィーがきょとりと瞳を瞬く。


「ふぐぅっ!スフィー!スフィー、助けてっ!」

「だめっ!」


スフィーに向かって両手を伸ばす私を逃がさんとばかりにぎゅうぎゅう抱きしめるルーディック。

急に涙を浮かべた私に、イヴェネッタ姫とスフィーがぽかんとしている。


「僕のお母様はエレノア様とエリシアのことが大好きなんだ」


ルーディックはそう言って、二人に微笑むけれど、大好きなんてそんな生温いものではない。

アレキサンドライト公爵夫人、ローゼグレース様。

今は亡き水の女神エレノアの親友。

お母様の親友の愛情は、そんなに生易しいものではないのだ!!

さすがに人様の親の話だ。ルーディックにぼそぼそ小声で囁く。


「あ、あの方は私のことを平気で監禁したいとか言うんだぞ!?」

「僕も監禁したいよ」

「死ね!剥製にしたいとか、標本にしたいとか言うんだぞ!?」

「冗談に決まってるでしょ。母上はエリシアが大好きなだけだよ」

「冗談……」


恐ろしい思い出が、走馬灯のように駆け巡る。

私を閉じ込めて鍵穴から何時間も見続けていたローゼグレース様。飲まず食わず、飽きもせず。

隙間なく飾られたお母様の肖像画。

増える私の肖像画。

お母様の等身大ドール。それも、複数体。

立っているものから座っているもの、ベッドに横たわっているものもあった。

そこにひとつ足された、私の等身大ドール。

笑顔を浮かべ、ふりふりドレスを着た私の人形。

そのドールたちと大量の肖像画に囲まれ、閉じ込められた私。

よく正気でいられたものだと自分でも思う。

いつの間に採寸したのかサイズぴったりのドレス。

同じデザインのドレスが成長に合わせて着られるように、大きさをかえて用意されていた。

そして、それはお母様のドレスと同じデザインばかり。

アクセサリーもお母様とお揃いのものが大量に用意され、その全てには、ローゼグレース様の瞳と同じ深い紫色の宝石が使われていた。


「……ひぅっ!む、無理!無理無理無理無理!ルーディック、ルーディック無理!」

「僕がそばにいるから大丈夫」


ぜんっぜん!全然、大丈夫な気がしない!


「私の水の女神は、何をそんなに怯えてらっしゃるの?」

「ね。エリシア、何がそんなに怖いの?」

「僕のお母様がエリシアのこと大好きなだけだよ」


首を傾げるイヴェネッタ姫とスフィー。

にこにこ微笑みながら私を宥めるルーディックと、頭を抱えて泣き出す私。


ああ。どうしよう。逃げられない!絶対に逃げられない!!絶対に逃げられないだろう、これ!!


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