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14

突然の口付けに目を見開いた私は、セドリック様の頬を思いっきり叩いた。


「何をする」

「私の台詞だ!」


こいつといい、ルーディックといい、イヴェネッタ姫といい。

すぐに人の唇を奪う理由はなんだ。頭、沸いているのか。


「ほう。まだ歯向かうのか?」

「死ね!」


偉そうな態度に腹が立った私は、彼の反対の頬も思いっきり引っ叩いた。


「生意気だな」


セドリック様が、私の顔を覗き込む。

生意気で何が悪い。寧ろ、お前はなんでそんなに偉そうなんだ!

バチバチと火花を散らさんばかりに睨みつけると、彼は楽しそうに口元を歪めた。

顎を撫でた彼の瞳は興味と好奇心でいっぱいだ。


「セドリック。僕の女神になんてことするの……っ!」


呆然とした表情を浮かべていたルーディックの雰囲気がざわりと変わる。どろどろと重い空気を纏い、顔が以前見た殺人鬼の形相に……っ!

ガタリと椅子から立ち上がった彼はゆらっと前に足を出し、こちらに向かって歩いてくる。


「ああ!私の花嫁!なんて美しい姿だ!」


……はあ!?

セドリック様はぶわっと花びらが舞うような笑顔を浮かべて、怒りで凶悪な顔をしたルーディックが歩いてくるのを跪いて待つ。両腕を広げた彼は、ルーディックを抱きしめ、そして、その頬に口付けると、がばっと彼を抱き上げた。

一体私は何を見ているのだ。


「私の花嫁はルーディックしかいない!」

「エリシアに口付けるなんて、許さない!」

「ああ。愛しているルーディック!」

「万死に値する!」


二人の会話はまったく成立していない。ルーディックの頬に手を添え、その顔を目に焼き付けるように見ているセドリック様はまるで恋する乙女。薔薇色の笑みを浮かべている。

一方、ルーディックは今にも人を殺しそうな表情のまま、セドリック様を睨んでいる。


「……薔薇園のテラスでお昼食べよっか?」

「あら!賛成ですわ!」

「うん。スフィーもいいと思う!」


二人が手に負えなくなった私達は、ルーディックとセドリック様を置いて、薔薇園に移動した。


「先程のルーディック様は少し怖かったですわ」

「ね!あんなルーディック様、スフィーも初めて見た」


悪魔の空気が、垂れ流しだったからね。

頬を押さえて首を傾げたイヴェネッタ姫は眉尻を下げ、スフィーは小さくため息を吐くと私に向きなおった。


「それだけ、エリシアのことが好きなんだよ。どうなの、エリシア?最近のルーディック様は頑張っているんじゃない?」

「頑張ってる?」

「そう。ずっと令嬢も口説かずにエリシアのことばっかり見てるよ。顔色もずっと悪いし、食欲なくしてるんじゃない?」

「それは……」


まさか……食事をしてないのだろうか。令嬢を口説くのは食事だと言っていた。

超絶軟派下半身ゆるゆる野郎の噂を聞かないってことは……。

サンドイッチを食べていた手が止まる。


「確かに顔色は悪いですわね。少し御痩せになられて……その儚さにセドリック様が一目ぼれをなさったようですけれど」

「そういえば、イヴェネッタ姫。ディアベル家のことわかった?」

「調べてみたのですが、見つからないのです」

「……なんの話?」


「あのね……」と人差し指を立てたスフィーがゆっくりと話し始める。

ディアベル家の長男だと名乗るセドリック様だが、スフィー曰くこの国では聞いたことがない貴族らしい。漆黒の髪も漆黒の瞳もとても珍しいものだし、あの外見ならばどんなに小さな貴族でも噂にならないわけがないという。


「だから、イヴェネッタ姫にも調べてもらったの。交流が盛んな隣国の貴族なんじゃないかって……でも」

「ええ。見つからないのです。私の国は博愛主義の信仰がポピュラーなので、セドリック様のような外見なら、男性からも女性からも大人気のはずですわ。話題にならないわけがありません。けれど、ディアベル家なんて聞いたことがないのですわ」


セドリック・フォン・ディアベル

悪魔の名前の貴族。確かに私も聞いたことがないけれど、私は社交界にもほとんど顔を出していないし、知らないだけかと思っていた。

スフィーは夜会によく顔を出しているはずだし、イヴェネッタ姫は隣国の王族だ。その二人が知らないなんて、セドリック様は一体何者なんだろう。

……そんな人に付き纏われて、ルーディックは大丈夫なのだろうか。


再び、サンドイッチを食べ始めた私だったが、なんだか味がしない気がした。


そして、今日も家に帰ればルーディックはいた。十字架を外した私にいそいそと近づき補充と称して、頭を撫でてくる。相変わらず、顔色は悪い。


「ディアベル家のことルーディックは知ってる?」

「知っているよ。僕には関りの強い家なんだ」

「そっか。なら、いいや」

「ん?どういうこと?」

「スフィーもイヴェネッタ姫も知らない貴族だって言ってたから、ちょっと心配した」


ルーディックは嬉しそうに微笑む。なんだか恥ずかしくなった私は、そっぽを向いた。


「エリシア、セドリックにはあんまり近づかないでね」

「言われなくてもそうしてる」

「ふふ。心配してくれて嬉しい」


綻ぶように笑うルーディックの瞳がキラキラと輝いているように見える。撫でていた手を止めた彼は、手を伸ばして抱き上げてくる。最近の定位置とばかりに膝上に乗せられて眉間に皺が寄る。


「降ろせ」

「いやだ」


にこにこ微笑むルーディックはぎゅうぎゅうと私を抱きしめて、満足そうに帰っていった。


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