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漆黒の髪に漆黒の瞳。

すらりと伸びた長身に男らしい体躯。凛々しく精悍な顔立ち。

そして、色気というか、もういっそ目を塞いで叫びたくなるほど淫らな雰囲気を纏う。

彼の名前は、セドリック・フォン・ディアベル

悪魔の名を持つ彼についた通り名は『悪魔の王』


そのままじゃないか!


悪魔の王は今、宵闇の貴公子の腰を抱き寄せ、顎に手を添えている。

見つめ合う二人を周りの令嬢たちは固唾を飲んで見守る。


「麗しい……」


と、呟いたのは講義の手を止めた講師。

この学院、大丈夫なのか。


「ルーディック。私の花嫁」

「セドリック、僕には心に決めた人がいるんだ。花嫁にはなれない」

「こんなにも想っているのに、私の愛は届かないのか?」

「ああ。受け取れない」

「ならば、私の唇だけでも受け止めておくれ」


ゴクリと誰かの喉が鳴った。

セドリック様が、ルーディックの顔にゆっくりと唇を寄せる。顔色の悪いルーディックは困ったような表情を浮かべ、目を伏せる。


おい。ルーディック、このやろう。

信じてほしいと言ったのはその口だろう!


思わず掴んだニンニクをルーディックに向かって投げる。

セドリック様とルーディックの唇が触れ合う直前。

ニンニクが顔面に当たったルーディックは、がくりと気絶した。


「どこからニンニクが!」と、セドリック様が叫んでいるが我関せず。知らん。

講義中に馬鹿なことをしている方が悪い。


令嬢たちと講師の残念そうな声とともに再開した講義は、結局あまり進まなかった。


「あのままルーディック様とセドリック様がご結婚してくだされば、私は水の女神を自国にさらって帰れますわ!」

「そしたらスフィーもイヴェネッタ姫の国に行く!」


イヴェネッタ姫とスフィーが楽しそうに盛り上がっている。きゃっきゃっとはしゃぐ二人は可愛らしい。


「イヴェネッタ姫もスフィーと一緒にセドリック様とルーディック様の恋路を応援し隊に入っちゃおうよ!」

「いいですわ!応援いたしましょう!ライバルを蹴落とすのです!」


ルーディック様を抱き隊は、気づけばセドリック様とルーディック様の恋路を応援し隊に変わっていた。

特に講師陣が盛り上がっているようで、講義中上の空の講師が本当に増えた。阿呆ばっかりだ。

セドリック様は、数日前に転入してきた上級生だ。

彼はルーディックに一目惚れをしたと言って、講義にも出ず、ルーディックに付き纏っている。


「それにしても!水の女神っ!女性は着飾るものだとお伝えしたでしょう!」

「そうだよ、エリシア。せっかく可愛いのに勿体ない!」

「だって……眠いんだもん」


イヴェネッタ姫にぴかぴかにされ、お父様にたくさん褒められた日は、着飾るのもいいかもしれないと思った。

が、基本的に私は惰眠を貪りたいのだ。朝からあんなことをする時間があれば、やっぱり寝たい。とにかく寝たい。

特に涼しくなってきたこの季節。体温で温まったシーツはとても気持ちよくて、学院を休むか悩むほどに眠っていたい。


「エリシアは着飾らなくていい!」


聞こえてきたのは、ルーディックの声だ。

十字架のおかげで私に近づけない彼は、少し離れたところに座っている。

ぴりりと空気を引き締めたイヴェネッタ姫が扇をぱさりと開き、口元を隠した。


「あら。ルーディック様。可愛い可愛い私の水の女神に、なんのご用ですか?」

「イヴェネッタ姫こそ、僕の女神に手を出さないで。エリシアの魅力は僕だけが知っていればいいの」


ルーディックとイヴェネッタ姫はバチバチと火花を散らす。


「男の独占欲は、みっともないですわよ」

「みっともなくてもいい。僕にはエリシアだけが必要なんだ」


真剣な顔してなにを言ってるんだ!

ルーディック、この……っ!

前から似たようなことはずっと言っていたのだけど、他の令嬢を口説いていたから気にならなかった。

様子がおかしくなったルーディックがああいうことを言うのが、私だけになったせいで、恥ずかしくて堪らない!

独占欲なんて……っ!

かかかっと頬に熱が集まってくる。


「おい、ちんまいの」


ルーディックの隣に腰掛けて、成り行きを見守っていたセドリック様は唐突にそう言った。

ちんまいの、とは?

イヴェネッタ姫は、女性のわりに長身だ。だからこそ、ルーディックと並ぶ姿が美しかった。

スフィーも小柄ではない。長身でもないけど、私よりも背が高い。

と、なると?


「ちんまいのとは、私のことですか?セドリック様」

「お前以外に誰がいる」

「それは、大変失礼致しました。私、エリシア・グランフィールドと申します。以後、お見知りおきを」

「まあ、いい。で、ちんまいの」

「人の名前も覚えられないのか、鳥頭」


頬杖をついて、私を見ていたセドリック様は、片眉を上げる。

くつくつ笑いながら、口角を上げた。

彼は椅子から立ち上がり、私に向かって歩いてくる。


「歯向かってくる女は珍しいな」


唇を舌で湿らせたセドリック様は、にやりと笑って私の唇を塞いだ。


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