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イヴェネッタ姫から「差し上げますわ」と言われたドレスを着たまま帰宅したら、リタば大喜び、なぜかまたいるルーディックは、目を見開いて困惑した表情を浮かべている。


「エリシアお嬢様!お綺麗ですわ!エレノア様を思い出します。ぜひ、旦那様にもお見せになってください」

「いいよ、お父様はお忙しいでしょう?」

「いいえ!そのお姿はお見せするべきです!お喜びになりますわ」


リタに連れられるままお父様の執務室に向かった私は、ゆっくり深呼吸をしてノックをした。

お父様の深くて優しい低い声。そっと扉を開けた私を見たお父様は目を見開いて立ち上がった。


「お父様、お忙しいところごめんなさい」

「あ、ああ。いいんだ、エリシア。一体どうしたんだ」

「あの、短期留学中のイヴェネッタ姫と仲良くなって……」


お父様の瞳が潤んでいくのがわかる。綺麗に着飾っても眼鏡で台無しにしちゃうのだけど、でもお父様が喜んでくれるのは嬉しい。


「エリシア、本当に本当に綺麗だ。水の女神と呼ばれたエレノアに瓜二つ。いつの間にこんなに大きくなったんだ」

「お父様……」

「アレキサンドライト公爵家に嫁にやるのが勿体ないくらいだ」

「……お父様?」


指で涙を拭ったお父様は、朗らかに微笑むと沁み渡るような優しい声で、信じられないことを言った。


「昔から大好きだったじゃないか。エリシアがいいと言えば、私は歓迎すると伝えてある」

「……私がいいと言えばと伝えてあるのですね?」

「当たり前じゃないか!エリシアの気持ちが最優先だ」

「お父様っ!ありがとうございます!」


あのやろう強行突破しやがったな!と思ったが、断る余地はありそうだ。

お父様にたくさん褒めてもらった私は、執務室を出た。着飾るのも悪くないかもしれない。


リタの案内でルーディックの待つ部屋に通される。彼はお茶を飲みながら、なんと、泣いていた。

うわ!面倒くさい!


「え、エリシア。イヴェネッタ姫に食べられちゃったの」

「頭沸いてるのか」

「だって、それ、隣国で流行ってる形のドレスじゃないか」

「イヴェネッタ姫に着せられたからね」

「彼女の前で裸になったの!?」


ルーディックの瞳からぼたぼたと涙が溢れ始める。滝のように止めどなく流れて、そのうち体の水分がなくなりそうだ。


「風呂に入っただけだ」

「ぼ、僕だってエリシアの裸は見てないのに!」

「当たり前だろう!」

「今すぐ一緒にお風呂に!」

「はいるわけないだろう!死ね!」


こんなことよりも話さなくてはならないことがあるのだ!


「それよりも!お前、お父様にまで私と結婚したいと言ったのか!」

「それよりも!?それよりもってなに!?大事なことだよ!」

「黙れ!質問に答えろ!」

「エリシアと結婚するのに伯爵の許可が必要なんだから当たり前でしょ!僕はエリシアの不貞行為について聞きたい!」


おいこら、不貞行為だと。

この超絶軟派嘘吐き吸血鬼野郎。もう一度言ってみろ。

お前が勝手に話を進めているだけで婚約なんかしてないだろうが。

どの口がそれを言っているんだ。ルーディック、お前、このやろう!


ぶるぶると怒りで震える拳を握り締めた私は、さめざめ泣いているルーディックを睨む。

俯いていたルーディックは顔を上げると、突然立ち上がって私に駆け寄ってきた。

仰け反るように彼を見上げた私の脇に手を入れて立たせてくる。一体なんだと思ったときには、ルーディックに唇を奪われていた。

息もできないほど激しく口付けられた私は、くたりとルーディックにもたれ掛かる。小さく「なんか癖をつけられてる」と呟いたルーディックが私の首筋を舐めて歯を突き立てた。

つきりと走った痛みと血液を吸い上げられる感覚。

じんじんと体が熱くなり、熱で視界が潤んでいく。甘い吐息が溢れて、苦しい。


「やめ……っ!」


腕を纏められ、テーブルに押し倒される。

ルーディックの大きな手がなぞる場所が敏感になっていくのがわかる。チカチカ瞬く視界にぶるりと震えた。


「やだ、やだ。ルーディック、やだ、やめて……」


情けないくらい弱々しい声が溢れる。自分の涙で、顔が冷たい。

顔を上げたルーディックも馬鹿みたいに情けない顔をしていて、眉尻を下げた彼は「ごめん」と言って私を抱きしめた。


「とても不本意な形だけど、イヴェネッタ姫を遠ざけることができたよ、ありがとうエリシア」

「……」

「隣国の王太子殿下が亡くなったのは知っているかい?」


ルーディックの膝に乗せられて、背中をぽんぽんと撫でられる私は、こくんと頷いて返事をする。


「王太子殿下は断罪されたんだ。始末したのは僕たちアレキサンドライト公爵家だ」

「……」

「国王と隣国の王族からの依頼だった。彼は戦争を起こそうと暗躍していたんだ。イヴェネッタ姫は詳細を知らないし、王太子殿下は病死したと公表されている。僕の仕事には彼女を慰めることも含まれていた。まさか、恋をされるなんて思っていなくて……」

「……ルーディック」

「なんだい、エリシア」

「イヴェネッタ姫がルーディックに恋をしたのは……」

「うん?」

「お前の仕事の不始末だな?」


私よりも少し低い位置にあるルーディックの目が見開かれる。


「エ、エリシア?落ち着いて?」

「落ち着いていられると思うか?」


私は彼の膝上に座ったまま、体を捻ると両腕を思い切り広げる。

勢いよく彼の両頬を両手で挟めば、ぱぁんっと小気味いい音が響いた。


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