プロローグ
いろいろゆるく書いてます。ゆるく見守っていただければと思います。一話一話短めの予定です。
さて。
私の婚約者はたいそうおモテになる。
女性は言わずもがな。男性にもモテる。
年齢は関係ない。
可愛らしい赤ちゃんから、しわしわのおじいちゃんおばあちゃんまで、とにかくモテる。
鍛えに鍛えまくった筋肉もりもりの騎士や、ならず者の盗賊まで限りはない。
老若男女問わずとにかくモテモテだ。
さらに、動物にもモテる。
珍しいパロミノの愛馬も、野良猫も、空を飛ぶ小鳥も、領地の家畜も、数えだしたらきりがない。
彼にメロメロである。
そして、魔物や悪魔にまでモテる。
魔王に求愛される彼をみたときは、本当にどうしたらいいのかと思った。
さすがに手に負えない。
そんな彼のことが私は、もう。
もうもうもう、本当に。
ほんっとーに!
大嫌いだった。
世界で一番、この世の誰よりも大っ嫌いだった。
大嫌いな彼と私がどうして婚約することになったのか。
向かいでお茶を一口啜った彼。
私が見ていることに気づいたのか、夜空のようだと評される深い藍色の瞳を緩やかに細める。
瞼に掛かる髪は夜空を彩る星と同じ金色だ。
彼の名前はルーディック・アレキサンドライト。
アレキサンドライト公爵家の次男。
宝石の名前を持つ彼は、宵闇の貴公子と呼ばれる。
はんっ!何が宵闇の貴公子だ!
彼の持つ宝石の名前は、ご先祖様の瞳の色に由来する。
大戦で武勲をあげた彼のご先祖様は、不思議な色合いの瞳を持っていたそうだ。光の加減で色が変わるアレキサンドライトのようだと王様がその名を与えたと伝えられる。
ルーディックの瞳も同様、光の加減で色が変わる。
陽の光では藍色、ランプの灯りだと赤み浴びた紫に。
その瞳に吸い込まれるのだそうだ。
吸い込まれて、目が離せなくなって、そして恋に落ちるのだそうだ。阿呆か。
「エリシア。そんなに見つめられたら溶けてしまうよ」
ティーカップ片手に甘過ぎる微笑みを浮かべたルーディックは、右肩に一羽、左肩に一羽、そして頭の上に一羽、小鳥を乗せている。頭の上の一羽は彼の頭をつくつくと啄んでいる。
……そのまま禿げてしまえばいい。
「溶けて消え去ってくださいませ」
そんな言葉とともに、全力で蔑みの視線を送る。が、無駄なことはわかっている。
「そんなことを言っても可愛いだけだよ。君が僕を大好きなことは知っているからね」
そう言って私の手に口づけした彼を見て、私はテーブルに突っ伏したのだった。
はあ。しんどい。