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ゴブリン

 


 待て待て待て待て、何が起きた。


 俺、たしか石ころ蹴ろうとしただけだよな。

 それなのに何で今俺は宙に浮いてるんだ?

 まさかあの衝撃だけで俺は空を飛べるのか?

 だとしたらこの先、気軽に「缶蹴りしようぜー!」なんて出来ないじゃないか。どうしてくれるんだ。


 気付いたら浮いているという状況に心臓がバックンバックンしているが以外にも頭は冷静で、


 ……ま、異世界だしな。俺、元魔王だし。


 結局はその二言で片付いてしまうだけの事であった。


 洞窟全体を把握するために、もう少し高い位置に移動する。

 眼下に広がるそれは想像していたよりも大きく、瓢箪(ひょうたん)のような形をしていた。

 東京ドーム5個分とか言ったが、実際目にしてみるとイメージしていた大きさよりも遥かに巨大だ。

 所々にある白いバツ印はヴァンが書いたものだろう。


「あれに沿って壊せばいいんだな」


 だが、まさかこの洞窟が瓢箪形をしているとは思わなかった。

 もっと円に近い形だったら適当に爆破出来ただろうが、まさかの瓢箪。

 えーい! なんて雑にやったら余計なとこまで壊してしまいそうだ。

 爆破方法は相変わらず不明なままだが、やれる事をまずやろうと思う。

 俺はどうしたら印に沿って余計な部分を壊さず爆破出来るかを考えて、そしてなるべくリアルにイメージをしてみた。


 ……そう、ただイメージしただけなのだ。



 ドドォーーン――……



 脳まで振動が来るような地響き。

 硬く重い物がぶつかりながら落ちていく音。

 それらの出来事はまさに目の前で起きていた。


 さっきまであったはずの洞窟が、綺麗に外側3mだけを残して破壊されている。

 イメージをしただけで、その通りになってしまったのだ。


 もうやだ、自分が怖い……


 思わず両手で顔を隠してしまった。


「アレク様! お怪我はありませんか!」

「俺は天才なのかもしれない……」

「は?」


 うん、ごめん。調子乗りました。

 そりゃこれくらい出来るよね、元魔王だし。

 だからそんな冷めた目で見ないでください。


 ヴァンの視線に耐え切れず、今後何が起きたとしても、驚くことなく全てを受け入れようと心に誓った。


「ヴァン、その図ってもしかして」

「はい、先程アレク様からお預かりし少々手を加えさせていただきました。住居の設計もしてみたのですが、想像するに恐らくこのような建築物だと思うのですが、いかがでしょう」

「どれどれ。……おお! まさに日本家屋! 凄いじゃないか!」

「有難うございます」


 照れ臭そうにしているヴァンはさておき、これはもう凄いとしかいいようがない。


 縁側もあるし土間もある。玄関ドアもちゃんと引き戸仕様だ。内装は実際に作ってみないと感想は言えないが、庭まで設計されていた。

 畳を知らないなんて嘘に思えるくらい、ちゃんとした日本家屋だった。


 何だかワクワクしてきた。


「もしかして俺ってば家も魔力で作れたりするのか?」

「いくらアレク様でもそれは不可能かと。そもそも魔力とは空気中に分散している魔素を使っていますので、魔素から生き物や物体を新たに生成する事は出来ません」

「そうなのか」


 意外なところで不便だな魔力って。


 とある映画で魔法を使って物を動かしたり引き寄せたりしていたことを思い出し試して見たが、魔力ではそれも出来ないらしい。

 魔法と魔力って言い方が違うだけで同じことだと思っていたが、どうやら全然違うみたいだ。





「それではアレク様、俺はゴブリン達を呼んできますので崩した瓦礫を外壁の外に出していただけますか?」

「ゴブリン? 何故だ?」

「弱くはありますが、彼らもアレク様の立派な配下です。数もいますし、築造するにあたって手伝っていただきます」

「それは助かるけど、俺怖がられてたりしないか? 眠りから覚めてだいぶ時間が経つが、未だに1匹も見てないぞ」

「彼らは臆病なだけです。今のアレク様を見れば皆協力してくれますよ」

「だと良いがな。……では俺は瓦礫を何とかしておく。ゴブリン達の事は頼んだ」

「かしこまりました」


 ヴァンがゴブリンの住処へ向かうのを見届け、俺は爆破し崩した瓦礫の山に視線を移した。


 手をかざしそのままゆっくり持ち上げると、瓦礫の山も手の動きと合わせて持ち上がっていく。

 そして欠片1つも落とさないよう意識を集中させ、慎重に壁の外へ移動させた。


 その瓦礫の山の中に、キラッと光る何かを見つけた。

 気になって近付いてみると、それは水晶のように透明で、それでいて水色や紫、黄色、様々な色に変化する。

 もしかしてこれって宝石の原石なのだろうか。もしかしたら何かに使えるかもしれない。

 1つ見つけると次から次へと見つかる。まるで白髪探しみたいだ、なんて思いながら水晶を集めていると、背後に複数の気配を感じた。



 ヴァンがゴブリン達を連れてきたのだろう。


 その予想は的中で、振り返るとおよそ40匹弱のゴブリンが膝を付き整列していた。

 容姿は皆肌は薄緑、白髪(はくはつ)で耳が尖っているが、姿形は人間と大差ないものだった。

 そして、俺の動作1つで体を強ばらせる者が多数いた。


 その様子を見て、心臓が痛くなった。

 100年前の俺は、本当に愚かだったのだろう。

 今更過去を変えることは出来ないと分かってはいるが、とてもじゃないが悔やみきれない。

 魔王アレクとしてここに存在している俺は、過去に起こした誤ちを懺悔しつつ、そしてその誤ちをこの先忘れることなく生きていくべきなのだの痛感した瞬間だった。


「そんなに畏まらなくていいから聞いて欲しい」


 その言葉に顔を上げる者もいれば、変わらず怯える者もいる。

 俺は深呼吸をし、そして深々と頭を下げた。


「すまなかった」


 何事かとどよめいているのが伝わってくる。

 ヴァンも目を見開いて驚いているのが分かる。

 仮にも魔王が謝罪しているのだから、当然といえば当然なのかもしれない。

 慌ててヴァンが駆け寄って来ようとしたところで、俺は頭を上げ話し始めた。


「正直なところ、俺は過去に自分が何をしたのか覚えていない。自分が誰に何をしたのか、一切覚えていないんだ。だが、ヴァンから聞いた話や皆の俺に対する態度を見れば、俺がどれほど最低なことをしてきたのかは分かった。本当に申し訳ない」

「アレク様……」

「それでも、どんな理由であれ、眠っていた100年もの長い間、俺の元に残ってくれたことに感謝する。そして、その上で今一度お願いしたい」


 1人1人と視線を交わす。

 こうして改めて見ると、同じゴブリンと言えど皆それぞれ個性がある。

 背の高い者、低い者。筋肉質な者、真面目そうな者。

 老若男女様々だ。


「もう一度俺と一緒に来てくれないだろうか」


 そういう俺に返答する者は、誰ひとりいなかった。




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