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夢か現か異世界か




 あまりにも寒すぎて目が覚めた。

 首元をひんやりとした風が吹き抜けて思わず身震いする。


 俺、窓開けたまま寝たっけ。

 寝る前の自分の行動を振り返るが、小説に没頭していたことしか覚えていない。

 よくある話、前の日の夕飯が何だったか思い出せないことあるだろ、それと同じ現象だ。


 それにしても寒い。手探りで布団を探すがどこにもない。

 もしかして蹴落としたのか? くそ、だから俺はベッドで寝るのが嫌なんだ。

 何か落としたらいちいち起き上がらないといけないから。

 その点、敷布団は快適だ。

 物を落とすなんてことは有り得ないし、仮に布団を跳ね除けたとしてもとりあえず手足ばたつかせれば見つかるからな。

 病院もホテルみたいに和室と洋室の選択が出来るようにしてほしいぜ。


 と、ここまでの感想がコンマ3秒の出来事である。



 目を開けると目の前真っ暗。まじで何も見えない。

 体感的に、恐らく今は夜中の3時頃だろう。真っ暗なのは当然だ。

 だが、何かがおかしい。俺の直感がそう言っている。

 いくら夜中だからと言ってもここは病院だ。

 多少の明かりが付いているのが普通だが、それがない。

 しかもベッドが異常にゴツゴツしている気がする。


 それにしても見えなきゃ何の確認も出来ないな。まあ、そのうち暗闇に慣れてくるだろ。

 こういうときに魔法とか使えたらいいよな。

 そしたらきっとアレだろ、指を鳴らすだけでロウソクに火がついたりするんだろ。

 目を瞑って想像してみる、何だよめちゃくちゃ便利じゃねーか。


「明かりよ、灯れ」


 ……なんてな。ちょっと言ってみただけだ。

 思わずニヤけてしまったが、こういうとき個室の病室だと誰にも見られたり聞かれたりする必要がないからありがたい。


「何をされているんですか」

「ヒョッ!」


 だ、誰だ。看護師か?

 夜中の見回りに来たのか。恥ずかしいところを見られてしまった。


「す、すみません煩かったですかね。寒くて起きてしまって……」

「なんですか、その口調。ふざけているんですか」

「はい?」

「ふざけているのかと聞いているんです。それとも何ですか、俺をからかって遊んでいるんですか」

「いや、え? まじで誰? 真っ暗で何も見えないんでちょっと待ってもらえます?」

「……はぁ」


 え、今この人めちゃくちゃデカい溜息ついたよね。すっげー感じ悪いんですけど。

 俺何か悪いことした? してないよね。


 しかも聞いたことない声だから絶対初対面だし、そんな人に向かって失礼にも程があるだろ。

 流石にこれはカチンと来るものがあるぞ。


「貴方、仮にも魔王でしょう。暗闇なんて、瞳孔の調整で見えるようになるじゃないですか。いくら左遷されて100年の眠りについていたからって、そんな事も忘れたんですか」

「……うん?」


 おいおいおい、ちょっと待て。

 なんかこの人意味不明な事言い始めたぞ。残念なことにこの寒さで頭は冴えているんだ、聞き間違えなんてことはない。

 魔王? 左遷? 100年の眠り?


 つーか瞳孔の調整とか言ったけどそんなもん意識して行えるわけねぇだろ。そんな事できる人間いるかよ。

 どうやんだよ、こうやって目力でも入れればいいのか? ん?


「え、待って見えた」


 目に力入れたら、さっきまで真っ暗だったはずが景色が見えるようになった。


 え、まじで? 目に力入れれば一瞬で見えるようになるの?

 凄くね、人体の神秘。


「おお、凄ぇ。これが目力ってやつ? 一瞬ではっきり見えるようになった」


 俗に言う目力とは意味が違うかもしれないが、この現象を目力と言わず何と言う。

 景色どころか色まではっきり見えている。凄い。

 辺り一面灰色だ。つまらん。


 辺りをキョロキョロと見回してみると、これまた凄い。そこら中に岩、石、石、岩だ。

 そして俺は石が敷き詰められたよく分からない場所で寝ていたらしい。こんなゴツゴツした所で横になったら体が痛くなって当然だ。


「なんだ、ちゃんと瞳孔の調整出来るじゃないですか」

「おう、まあな。やれば出来るんだよ」


 ドヤ顔のまま声のする方に視線を向けると、そこには煌々と輝く真っ赤な目をした青年が。

 え、待って、まじで誰。こんな日本人離れした看護師がいたら普通気付くと思うんだけど。

 あと普通に流してたけどここ何処だよ。


「おはようございます、アレク様。先程の無礼な発言、申し訳ございません。100年の眠りから無事お目覚めになられたこと、大変喜ばしく思います。早速ですが、アレク様がお眠りになられてる間に勝手ながらこの辺りの地形をまとめておきましたので、何かに役立てて頂ければと」


 数枚の紙を床、というか石の地面の上に並べ、そこには見事に綺麗な図形が書き写されていた。

 ほお、コイツ絵描くの上手いな……と感心しつつも、実際頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 まず、アレクとは誰だ。そしてここは何処だ。

 記憶喪失になっていなければ俺は木崎 正宗という名前で、病院にいたはずだ。


 普段大して使うことのない脳がフル回転で情報処理していく。


 まずこの美青年は、俺に向かってアレク様と言った。そしてそのアレクとやらは100年間眠ってたらしい。

 100年も眠るとかどんだけロングスリーパーなんですか?

 寒さで目覚めてから今までに起きた出来事を順番に解決していく。

 そしてようやく、懸命に働いた俺の脳が全ての情報を処理し終えた。


「なるほど、これは夢か」

「現実です」

「……」


 紙を並べ終えた美青年が服に付いた砂埃をはたきながら食い気味に俺の答えを否定してきた。


 実は俺の脳は、2つの答えを導き出していたのだ。

 1つめが、これは夢だということ。

 そして2つめが、そう! 俺が夢にまで見ていた転生である。

 だが現実的に考えて、やはり転生なんてことは有り得ない。だってあれはファンタジーなのだから。


 だからこそこれは夢だと理解し言葉にすることで自分に言い聞かせたのに、それを真っ向から否定されてしまった。

 表情1つ変えずに淡々と告げられると、そうなのかと納得してしまう。

 そういえば、余命宣告されたときもこんな感じだったな。


 ……てことは待てよ、もしこれが現実で本当に転生してしまったということは、俺は死んだということになるのか。



 ああ、向こうの世界の俺、さようなら――



 しかし意外にも冷静でいられている。

 転生物を読むたびに、何故どの主人公たちも皆すぐに状況を受け入れているのかと疑問だったが、どうやら俺もその類いだったらしい。

 そういう話を読み漁っていたおかげなのだろうか。


 有り得ない話ではあるが、事実この身に起きてしまったことだ。

 もしかしたら木崎 正宗が死に輪廻転生して、前世の記憶を持ったままどこか別の国に生まれ変わったのかもしれないし、本当に地球ではない場所へ転生したのかもしれない。


 いずれにせよ、夢にまで見た光景だ。

 夢オチの可能性も大いにあるが、それでもいい。

 目が覚めるまで存分にこの世界を楽しませてもらおうではないか。



 さて、楽しむぞ。

 飼い主想いの可愛いペットと共に暮らす、異世界冒険生活!


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