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第1話

 俺、徳留悠人は市内の進学校に通っているごく平凡な高校二年生だ。

 自分で言うのもなんだが、顔面偏差値は普通で成績も中の上くらい。友だちの数も特に少ないというわけでもなく、なんの面白みもない冴えない男子高校生をしているのだが、たった一つだけ誇れるとすれば、可愛い幼なじみがいることくらいだろうか? 周りの友だちからはめちゃくちゃ羨ましがられ、時にはその事実に(ねた)まれたことすらあった。

 だが、中学に上がってからの()()()はまったくと言っていいほど内面が可愛くない。見た目こそ、すっげぇ美少女なくせに俺に対してだけはやたらとキツく当たってくる。俺の友だちや周りの人には()使()と呼ばれているくらいに優しいのに……俺からすれば外面だけいい()()そのものだ。

 さて、現在の時刻は午前七時四十五分。

 両親は二人揃って長期出張中のため、家には俺しかいない。

 朝食を適当に済ませ、制服に身を包んだ俺は、洗面所の鏡前で身だしなみを整えてから玄関へと向かう。

 そして、靴に履き替えると、カバンを手に家を出た。

 五月の朝はまだ少しばかり冷え込む。

 (まばゆ)い朝日に照らされながら、家の門を出ると、ちょうど隣の家から例の可愛い幼なじみである海老名美玖と鉢合わせてしまった。

「……よっ。おはよう」

「……」

 そう声をかけてみたものの、美玖はあからさまに俺を無視して、先に行ってしまった。

 ――俺が一体何をしたって言うんだよ……。

 思わず朝からため息が漏れてしまう。

 美玖は俺と同じ高校に通っていて、今は一年生。

 容姿は何度も言うが、かなり整っていて、金髪のツインテールがよく似合っている。

 成績に関しては、学年で上位が取れるほどの秀才らしく、運動神経に至っても中学から始めたテニスのおかげか抜群。部活は必然ながらにテニス部なのだが、噂によれば新入生の中でも期待の新星らしい。

 交友関係に際しては、あまり詳しくはないが、クラスの人気者のようで、学校では一人でいるところをほとんど見かけないほどだ。

 それにしてもなんでこうなってしまったのだろうか……。

 自分自身の記憶を辿ってはみたものの、美玖から嫌われるようなことは何一つやっていない。

 ただ忘れているだけか、もしくは知らずうちに傷つけてしまったのか……。

 そんなことも視野に入れながら、なんとか前から関係を修復しようと試みてはいたが、まったくもってできていない。

 もはやここまでくれば、半ば諦めてもいる。

 俺自身、美玖のことは嫌いではないし、物心がついた時からずっと近くにいた存在だったから、妹のように思ってはきていたけど、これほどまでに嫌われてしまえば、無理に関係を戻す必要もないのかもしれない。

 それはそれで寂しいような気もしなくはないが、これも世間で言う()()()というやつなのだろう。昔は「お兄ちゃん」と俺のことを慕ってくれて、いつもベタベタと隣にくっついてきていたあの頃がなんだか懐かしく思える……。つい五年ほど前の話なのにな。

 俺は朝から憂鬱な気分になりながらも、美玖から少し遅れて登校路を歩き出す。

 目の前にはもうすでに美玖の後ろ姿はない。

 ――そろそろ彼女作ろっかなぁ……。

 年齢=彼女いない歴である俺。

 高校生ともなると、周りにはカレカノの関係で埋め尽くされ、出遅れた感が否めない。

 俺だって頑張れば、彼女の一人くらいできるはず……!

 ――教室に着いたら、親友に誰か紹介してもらうか……。

 でないと、草食系の俺では出会いが本当にないしな。おまけに部活も入ってないから尚更だ。


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