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クロスロード  作者: 高天原
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存在意義6

しばらくぶりの投稿になりました。

初日から色々あったが、必修ゼミも決まり受講する講義の教材もそろって、いよいよ大学生活も本当の意味でスタートした。

セイコとイズミもゼミは違うが、講義や休み時間には良く会って話をする仲になった。それでもセイコはゼミやサークルの仲間たちと一緒にいる場面が多くなり、イズミと二人でいる時間の方が長くなっていた。

イズミは近くのガソリンスタンドでアルバイトを始め、週5で働いているが、講義が終わってからの時間で夜8時までと時間が短いので、毎日でも苦にならないらしい。何度か働いているところを目撃したが、背が高くどこか男っぽいイズミには、汗をかいて働く姿がとても似合っていると感じた。私もやっと落ち着いてきたので、アルバイトを本格的に探そうとしていた。もちろn第一候補は情報誌に掲載されていた駅前の居酒屋に決めていた。その他にもとんかつチェーン店の調理場や市場の仕分けスタッフというのもあったが、時給は良いが早朝勤務の募集で居酒屋がダメならばと考えていた。すでにカバンの中には履歴書を忍ばせており、後はポストに投函するだけだったが、イズミの話を聞きやっと自分も働く決意が固まった。

居酒屋の返事は早かった。二日後には面接の聯絡が入り、学校が終わってからその足で居酒屋へと向かった。というのも大学の近くという事もあり、新入生の歓迎会が連日行われており、猫の手も借りたいほどの忙しさとなっていたのだ。また時間を空けずにすぐ面瀬戸となったのは私にとっても好都合だった。勢い任せではあったが、折角のやる気を下手に曖昧な気持ちのまま面接にならなくて良かったと思っていた。

まだ営業前という事もあり、居酒屋の暖簾は下がっていなかったが、約束通りの時間にお店に到着し、恐る恐る扉を開いてみると、カギはかかっておらず、店内は薄暗くカウンター奥から忙しそうに声が聞こえてくる。

「すみません。」

我ながら小さな声だと反省しながら、気を取り直し大きな声で呼びかけた。すると調理場から大柄な人相の悪そうな人が前掛けで手をふきながら出てきた。固まっている私を頭の上から足の先まで見回すと、中に入るよう合図してきた。完全に失敗したと気を落としたが、そのまま逃げ帰るわけにもいかず、渋々厨房の中へと足を踏み入れた。中では4人の料理人が仕込み準備に追われており、誰一人として顔を上げて私を見る人はいなかった。先ほどの大柄な人は一番奥にいる小柄な料理人に話しかけていた。その小柄な人が鍋の火を止めると、こちらに向かってきた。コック帽を外した時にはその人が女性であることに初めて気付いた。私のお母さんの歳をゆうに超えていると思われる女性は、他の3人の料理人に指示を出し、厨房から出るとお店の客席に私を案内した。どうやら彼女がここの料理長のようだ。

「ごめんね怖かったでしょう。あいつは不愛想だから表には出るなって言ってるんだけど、気が小さいから何でも一番に気付いちまうんだ。」

そう言って笑う顔にはどこか年齢を感じさせない快活さがあった。

「で?名前は?」

「あっ、松本かほりと言います。」

「学生さんかい?」

「はい。今年入学したばかりです。」

「一人暮らしかい?」

「はい・・・あの履歴書はご覧になられてないのですか?」

「あー履歴書ね。うん見てない。見たのはあんたの写真だけだね。」

「それだけですか?」

「まあ学歴も資格も何も必要無いからね、必要なのは活きがいいか悪いかそれだけ。」

「活きですか。」

「で、あんたいつから来れる?」

「え?採用ってことですか?」

「そっ、できれば今からでも働いて欲しいくらいなんだよ。」

「え?いや、この格好のままでもよければ、大丈夫ですけど。」

「よし決まり!じゃあ着替えは店のシャツと前掛けがあるから。」

あまりの勢いに流されそのまま働くことになってしまった。注文やレジはフロントスタッフがやるので、私は厨房から料理を運ぶのと、洗い物が仕事となった。ただし忙しくなったらお客様のところまで料理を運ぶこともあるし、店内の片付けも手伝う事付け加えられた。基本として番号で料理が上がって来るので、何番がどの席かを頭に叩き込むことから始め、料理ができてからフロントへ渡すタイミング、下がってきた食器を洗い、どこへ片付けるのかを短時間で覚える必要があった。やる事の多さに着替えるとすぐさまメモ帳を取り出し、番号と席をなぐり書きしメニューを覚えることに専念した。また持ち場は洗い場がメインとなる為、食器の位置や布きんの替えなど入念にチェックした。

「今からそんなに緊張してたら夜までもたないよ。」

笑いながら料理長はその容姿から想像つかない勢いで、ボウルの食材をかき混ぜていた。

着々と仕込みが出来上がっていく頃、フロントスタッフが出勤してきた。このお店の開店は午後6時からだが、フロントスタッフは午後4時30分出勤で店回りの清掃とトイレチェックから始まり、予約席を確認し店内の準備、グラスや取り皿の用意や宴会メニューの確認など手慣れた様子でこなしていった。

そして開店時間30前となり、全員が集められ今日の予約状況や宴会メニューの説明があった。フロントスタッフは皆メモ帳に注意事項を書き込み、一同が準備万端となったところで、料理長より私の紹介があった。

「今日からアルバイトとして入ったかほるちゃん。無理やり今日から働いてもらう事にしたから、全員でフォローしてあげて。」

「よろしくお願いします。松本かほりと言います。よろしくお願いします。」

「同じこと2回言わない。」

緊張と恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「みんなの名前と顔は後々覚えるとして、今日も予約がいっぱいだよ。自分のできる事は精一杯やりな、わからない事は先輩に迅速に確認する事。ダメなのはわからないまま、できないままをほったらかしにする事。それだけは絶対にしちゃダメだ。」

「はい。」

「じゃあ今日もお客様をお腹いっぱい楽しませましょう。」

店長の号令と共にスタッフ全員が持ち場へと移動し、開店の合図を待った。外の看板の電気が灯され、店内の照明も全て灯された。いよいよ開店である。

これからまた投稿していきますので宜しくお願いします。

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