存在意義4
まだボーとする頭のまま学校に行く準備を整え、引っ越しの段ボールが片付かない事に嫌気をさしながら、足で段ボールを隅に追いやって部屋を出た。
大学に着くと正面ロビーから中庭にまでサークル勧誘の学生で賑わっていたが、なるべく目を合せないように足早に学生課の事務局を訪ねた。そこで入学式に出られなかったことを伝えると、一式の資料と必修科目や所属ゼミの選択用紙が渡された。
友達も知り合いもいない土地で、一から自分で判断することが自由と思っていたが、相談相手がいないことがこんなにも心細いとは先行き不安でしかなかった。
遠めにサークルの勧誘を眺めながら、
「サークルにでも入って友達作ろうかな。」
そうは言ったものの、生活費を考えると親の仕送りだけでは心細く、貯金も一人暮らしの費用にほとんど持って行かれ、当初より学業以外はアルバイトをして生活費の足しにしようと考えていた。
初日という事もあり、どのように講義が行われているのか見学しようと、時間割を見ると、(郷土史と比較する社会学)の講義これから始まるところだった。まずは体験受講という事で、早速講義室へと向かう事にした。新入生ばかりかと思っていたが、既にいくつかのグループがあり、2年生も受講していた。なるべく目立たないように後ろの窓際の席を選んで座った。新年度最初の講義という事もあり、教授の自己紹介と社会学という分野についての説明が主だった内容だったが、まだ義務教育課程から抜け出せていない私には、さっぱり頭の中に入ってこなかった。それよりこの場の空気に慣れるまでに、どれくらいの時間がかかるのか不安になる。
たった一つ講義を受けただけで、心が折れそうになっていた。すると講義を受けていた女子生徒二人が話しかけてきた。
「新入生?」
「はい。」
「良かった。私たちも新入生で昨日の入学式で知り合ったんです。一人ですか?」
「そうです。こちらには知り合いもいないし、初めての事ばかりで緊張しちゃって。」
この大学は男子学生が圧倒的に多く、女子生徒はほんのわずかで、昨日の入学式も大半が男性で、女性を探すのにとても苦労したとの事だった。数少ない女子生徒なので、お互いに協力し合い助け合おうという事になった。名前やケータイ番号を交換し、次の講義まで時間があるので一緒に学食で話をすることにした。
背の高いショートカットの方はイズミといい、学校のすぐ近くの下宿から通っている。女子寮のように女子生徒ばかりなので、気兼ねなく生活できるが、最初は先輩たちから毎晩お酒を飲まされるらしい。もう一人の背の低い目鼻立ちがはっきりした方はセイコといった。セイコは同性の私から見ても可愛らしい子で、地元の高校からの進学だった。地元から進学してくる人はそれなりに居て、学食で話している最中も友達らしい学生がセイコに手を振っていた。どうやらやはり男子受けがいいようだ。
「サークルはどこに入るつもり?」
セイコからの突然の質問に、サークルに入るつもりはなかった私は、
「セイコさんはもう決めているの?」
「私はツーリングサークルに入るつもり。」
「ツーリング?オートバイに乗れるんですか?」
「卒業前に免許取っちゃった。」
そう言って満面の笑みで、バッグから免許証を取り出した。顔写真が気に食わないみたいだが、行った事のない場所へ行ったり、好きな時に好きなところへ行けるのが楽しみで仕方ないようだった。しかし親の反対もありバイクはまだ持っていないそうだ。
「イズミさんは?」
「私はバイトするからサークルは考えてないかな?」
「一緒にツーリングサークル入ろうよ。」
「いや、免許持ってないし。それに下宿っていっても結構お金かかるんだ。」
「かほりさんはどうするの?」
「私もバイトかな。仕送りだけじゃちょっと不安だし。」
「そっか。まだすぐに決めなくても、余裕が出来たら入りなよ。」
二人と話していると昨日の出来事が夢であったように、平穏な時間が不安を溶かしていくようであった。






