存在意義 2
静かに始まってしまいました。面白くなるのかまだまだ分かりませんが、応援してください。
メグミさんと呼ばれていた女性はこの店のオーナーで、この店はバー件事務所として使っているそうだ。バーの方は営業しているものの、ほとんどお客も来ない状態で、お店のお酒はほぼメグミさんが飲んでしまうみたいだった。事務所というのは他に副業をしていて、基本そちらの方を収入源として経営が成り立っているという。リョータさんはその副業の方をお手伝いしており、今日もその打ち合わせに来たのだという。
「君は、今日の入学式に来たの?」
「はい。桜井かほりといいます。入学式に出るつもりでしたが、もう・・・」
「へぇー、リョータと同じ大学なのかい?」
まだグラスに入っていたお酒を呑みながら、メグミさんはカウンターから話しかけてきた。
「リョータさんも大学生何ですか?}
「リョータは大学5年生だけどね。あら?6年生だっけ?」
「今年で5年です。誰のせいで留年したと思ってるんですか。」
どうやら仕事のせいで大学には行ってないようだ。
「リョータ。まだ入学式に間に合うでしょ?会場まで送ってあげなよ。」
「いやいいんです。もう入学式はこんな膝擦りむいて恥ずかしいし。」
「新たな一歩は先延ばしにするの?今踏み出さないで後悔しないかい?」
「はい。気持ち次第でいつでも一歩を踏み出せるんですから。」
「そうかい。じゃあ時間もあるなら、暇つぶしにちょっと付き合いなよ。」
入学式をサボって私はメグミさんに誘われるまま、お仕事の見学をさせて頂くことになった。
初めての土地で、初めて会う人。親切にしてくれて世の中悪い事ばかりじゃないと、二人の背中の後をついていった。すると一軒のお店に入っていった。
まだ昼の1時お店は営業しているはずもなく、店内は真っ暗でカウンターの電気だけが薄暗く点いていた。
「ママ―、まだ生きてる?」
メグミさんはカウンターをのぞき込むと、丸椅子で眠っているママに声を掛けた。
「あら、メグミ。待ってたよ。」
「遅くなってゴメンね。やっと準備できたんで、やらせてもらっていいかな?」
「そうかい。それなら外で待ってるよ。」
「うん。終わったら呼ぶね?」
ママはガウンを羽織り私を訝しそうに見ると、何も言わずに店の外へと出ていった。
「これから何をするんですか?」
「まぁこれも社会見学と思って、世の中には大変な仕事があるってとこ見ていって。」
そう言うとポケットからお札のような束を取り出し、店内の四隅に張り出した。本物のお札を初めて見たが、それが何を意味するのか薄々感じていた。
「これってお札ですよね。ていう事は何か霊的なことですか?」
「正解!なかなか鋭いわね。生で見れるなんて中々レアな体験でしょ?」
「いやいや、いいです。見れないなら見れなくていいです。」
「でも残念。もうお札貼っちゃった。リョータの後ろで大人しくしていてね。」
私の意見は相手にされず、淡々と準備は進められていった。
「リョータさんこれって大丈夫なんですか?」
「いや、毎回危ないことになってるよ。とりあえず俺の後ろから離れないで。」
まったく感情を表に出さないが、とんでもないことを言っている。先ほどまで二人に感謝していた自分が情けなくなってくる。そんなに簡単に他人を信用してはいけないのだ。ここは地元の田舎とは違い都会なんだ。どんな人間がいてもおかしくない。何で自分はこんなにドジばかりしてしまうんだろう。こんなことなら入学式に出ていればよかったと様々な思いが頭をよぎった。
だが時すでに遅し。メグミさんは着々と準備を終え、何やら呪文めいた言葉をつぶやき始めた。最後のお札を床に描いた魔法陣のような術式の上の置いた。すると唯一の灯りがある、カウンターのライトも点滅し、終には消えてしまい真っ暗になると、先程のお札が独りでに燃え上がると、一瞬お店の中を明るく照らし出した。そこには人ではない黒い影が映し出された。
「怖かったら目を閉じてて。」




