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クロスロード  作者: 高天原
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存在意義

一人の少女の成長を、日常と非日常から描いたヒューマンミステリー。前作のその後として描いてみました。よろしくお願いします。

4月。ここから新たな一歩が始まる。

地方都市の大学といっても、はるかに田舎の地元に比べると明らかに都会だ。

24時間営業しているお店や、レンタルビデオやコンビニエンスストアもすぐ近くにある。

中心街に行くにも、電車一本で朝から晩まで動いている。

両親からは寮に入るよう言われたが、それだけは断固拒否。そのために子供の頃からお年玉を貯金し、

アルバイトもして、念願の一人暮らしを手に入れたのだ。まだ荷物はダンボールに入ったままだけど、今日は入学式。着慣れないスーツを着込み、姿見に映る自分に、馬子にも衣装というフレーズが脳裏をよぎったが、

「大人になったら似合うようになるんだから。」

と自分に言い聞かせ、恥ずかし気に身なりを整えると、意を決しアパートを出て、入学式が行われるグランドホテルを目指した。

この大学は中心街にあるホテルを借りて入学式を行っていた。まだ知り合いも居ないので、一人電車に乗り街まで移動することとした。電車の中は入学式に出席するだろう人で混みあっていた。みんなスーツを着込み、緊張した顔をしているのがどこか初々しく、自分も同じく見られていることを想像すると、顔が火照っているのがわかった。電車を降り駅に着くと、駅前は改めて都会を感じさせる、巨大なビルや商業施設が広がっていた。それでも周りの人々は入学式があるホテルを目指し、迷うことなく歩き始めていた。自分がいかに田舎者か痛いほど実感し、その人達を見失わないよう後をついていくことにした。

何処をどう間違ったのか、間違ったことがわかっていれば間違えることはないのだが、一緒の電車に乗っていたから、この人について行けば会場に着くと思っていたのが、」そもそもの間違いだったのだ。あからさまに入学式が行われるホテルがあるとは思えない、風俗店が立ち並ぶ路地を歩いていた。すると前を歩いている男性は一軒のお店に入る階段を昇って行ってしまった。そこで初めて自分が迷子になっていることを知った。知らない土地でしかも風俗店が並ぶ路地に、昼間から女の子一人立ち尽くしている。慌てて来た道を戻ろうと振り返ったが、履き慣れないパンプスに足首をひねってしまい、思いっきり転んでしまった。すると先程階段を昇って行った男性が戻ってきて、大丈夫?と声を掛けてきた。見上げると階段の途中から顔だけを出し、のぞき込むようにしていた。

「はい。すみません。」

「君ずっと俺の後ついて来てたよね。」

「すみません。間違えてしまって。」

「ずっと俺の事見えてたの?」

「はい?あ、はい見えてます。」

すると階段からもう一人女性が降りてきた。

その人は長い黒髪に、胸元の開いた白のブラウス、タイトな黒のスラックスと、絵に描いたような洗練された大人の女性だった。

「へぇーあなた珍しい娘ね。彼に気付くなんて。」

ただ見た目は洗練されていたが、どうやら昼間からお酒を呑んでいるらしく、何かに掴まっていないと、まともに歩けないくらい足元がふらついていた。

「メグミさん、また呑んでるんすか。まともに歩けてないし。」

「だってリョータが来るのが遅いんだよ。待ってたんだから。」

そう言ってリョータと呼ばれる男性に抱き着こうとしていたが、それをいつもの事のように頭を抑え込み、抱き着かせないよう抵抗していた。

「まぁここでは目立つから中に入んなよ。」

彼は転んでいる私に手を差し伸べ、立ち上がらせてくれたが、膝を擦りむきストッキングは破れ血がにじんでいた。せっかくの新たな一歩をこんな風にドジを踏む。ため息交じりに自分の不甲斐なさを嘆いていたが、

「新たな一歩なんていつでも踏み出せるよ。気持ちひとつでいつでもね。」

そう言って店の中に案内され、救急箱を出してくれた。

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