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山中異界物語  作者: 笑う雪ダルマ
ミデワ村編
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1-7.《帝国軍襲来》

2021.6.7:誤字脱字、誤表現を修正致しました。設定に変更はありませんのでご容赦下さいませ。













ミヨウはミデワ村で過ごすうちにその暑苦しい目覚めに慣れ始めていた。


この日の早朝もミヨウはその暑さで目を覚まし、その原因である腹部を見やる。

そこにはふわりと大きな尻尾が幾重にも重なっていた。



村に滞在して数日、村の為にと一生懸命なミヨウ少年の姿に子ども達も心を許し、また拐われた両親、兄弟がいなくなった寂しさからか夜は少年の周りで寝るようになったのである。



ミヨウは、そんな子どもたちを起こさないようにとソロソロと外へ出て井戸の水で顔を洗い、寝惚けた思考をはっきりさせる。


「ふぁ~あ、おはヨウ、あんた起きんの早いわねぇ……」


魔女ルトナはその大きく開いた口に手を当てながら井戸にやって来た。


「ルトナこそ、いつも起こしに行ってるのに今日は早いね」


「ホントは寝てようと思ってたんだけどね、ヨウが起きるのが見えたし、話をしたくて」


「話って?」


「…いつまでもは居れないわよ?」


「うん、わかってるさ」


「ならいいわ。今日、とは言わないけど考えておいて」


「うん」


ルトナは井戸でパシャパシャと顔を洗うとこの数日で建てた仮設の宿屋へと戻って行った。



……

……



ミヨウは井戸の前で考え込んでいた。


(ルトナの言うとおりだ、そろそろ区切りをつけないと)


「……行って、しまうのですか?」


「! ヨネィさん…!」


井戸で佇むミヨウに声を掛けて来たのは、ミデワ村村長の孫娘"ヨネィ"だ。その紫がかった狐の耳と尻尾が特徴である。


風貌はミヨウより年下に見えるが少年を含めた子ども達の中で1番落ち着きがあり、特に村の子どもたちからは姉のように慕われている。



「ルトナ様とミヨウ様には大変感謝しています。

火を放たれ、酷い有り様だった村もここまで綺麗になりました」


「いいって、だから顔を上げてよ!」


深々と頭を下げるヨネィにミヨウは慌てるように言った。

彼としても落ち着きがあるとは言え、自分より年下に見える少女にこんなに頭を下げられるのはなんだか申し訳なかったのだ。



「私たちも……いつまでもお二人に頼っている訳にはいきません」


「……これから皆はどうするんですか?」


そう言う彼女の大人びた雰囲気にミヨウは思わず敬語を使ってしまった。


「……こうなってしまった以上、拐われた皆は戻って来ないでしょう。これからは私たちだけで生きていかなければならない……そう覚悟しています」


ミヨウは言葉が出なかった。


「……村の外へ移り住んだ仲間たちに手紙を出し戻って来てくれるよう伝えたり、或いは宛はありませんが、この村を捨てて別の場所に…」


そこでヨネィは黙り込んでしまった。

そんな彼女にミヨウは突飛な提案をする。


「……じゃあさ一緒に行こう!」


「え……?」


「人間の世界だよ!

おれの家族なら絶対みんなのことを受け入れてくれるさ!

おばあちゃんの家とかどうかな!結構ここと雰囲気似てるし!」



「ありがとうございます。そしてごめんなさい。

混乱させてしまいましたね。

……村を捨てるのは本当に最後の手段です。私たち皆、この村が大好きですから」


「ッ おれこそごめん… 皆の気持ちを考えずに……」


「謝らないで下さい、本当はとても嬉しかったんですから」


「うん、わかったよ。でもいつか遊びにおいでよ。

今度はオレの家族を紹介するからさ!

ついでに人間の世界も案内するよ!」


「ふふっ、その時はどうかよろしくお願いいたします」






「ミヨーお兄ちゃんかえっちゃうの?」





そんな2人の前にいつの間にかトヒナがいた。


「「トヒナ!いつの間に?」」


ミヨウとヨネィが揃って驚く。


「今さっきだよ!どう?きづかなかったでしょ!

あたしは村1ばんのせんしになる女だからね!」


突然現れたトヒナはフフンッ、と仁王立ちでそう言った。


「何回も聞いたよ、トヒナならきっと大丈夫だって!」


ミヨウはあの離れでのことを思い出して言った。



「…それで、いつお帰りになってしまうのです?」


ヨネィがミヨウに尋ねた。


「え?あー…もう村もだいぶ片付いてるし2日後……とかかな?」


「そう……ですか…」


ヨネィもトヒナもその狐と兎の耳をしゅんとさせた。


「今度は来る時はなにかお土産をいっぱい持って来るよ」


トヒナの頭を撫でながら少年はそう約束した。


……


ミヨウが仮設宿屋に戻ると二度寝したルトナ以外の皆は起きており、朝食の準備をしていた。


この日の朝食は村定番の魚の丸焼きに山菜のスープだ。


そんな朝食を終えた後、宿屋の外で子ども達がはしゃぐ声を聞きながらミヨウは長老モカミィと他2人の中年女性たちに村を出る日程を打ち明けていた。


「…一応の予定です。あとでルトナにも聞いてみないとわからないですけど」


「そうですか…2日ですか。……お帰りの際もどうかお気をつけて」


「あの……また"この場所"に来てもいいですか?」


頭の中では今朝がたヨネィから聞いた”或いは村を捨てて”という言葉が引っ掛かっており、"この場所"と言うおかしな言い方をついしてしまった。

そんなミヨウの言葉に長老モカミィは……


「ヨネィから何かお聞きに?」


「え、いや……はい」


「そうですか……確かに"それも"選択肢の一つではありますがほとんどない、と長老の立場からも言っておきます」


「そうですか、……よかったです」



……

……

……



それから2日経った朝、ミヨウは荷物をまとめていた。


やがて出発の準備を終えたミヨウはルトナを起こそうとそのリュックを肩に掛け、彼女が寝ている部屋に向かった。


コンコンッ、ギギィ……


「ルトナ、入るよ。 だらしないなぁ…」


年上の女性(ルトナ)は布団から手足を出し、大きな鼻提灯を膨らませ寝ていた。

そんな姿を目の当たりにしてミヨウは思わず呟いてしまった。



「ルトナ 起きてよ。朝に出発するって言ったのルトナだろ?」




きゃあああああああ!!!




突然、外から悲鳴が聞こえ寝ていたルトナも一瞬で目を覚ました。


「ミヨウ、外よ!」


ルトナの声にミヨウは宿屋の外へ飛び出た。

悲鳴を聞いた焦りからか少年は背中に熱を感じていた。





外には村の皆が1ヶ所に集まっており、その先頭にいる長老モカミィの前には白髪に赤い角が生えた肌の青い人魔が立っていた。


その青肌の男の後ろには数匹の巨大な鳥の魔獣と、彼と同じような服装を着た20人くらいの兵士が並んでいた。


……帝国軍だ。


だがそれだけではない。


彼の後ろには兵士たちに捕らえられたトヒナがいたのだ。









◯以下はミヨウら一家が祖父母宅で経験した例の地震関連のエピソードとなっております。


《特別エピソード:竹岡編》


20○○年9月5日(ミヨウが祖父母の家で地震に遭った翌日)

場所は現代日本首都東京 ???機関



そのとある一室で唐木田は上司の竹岡に報告をする。


「長官、昨日△△県沖で発生した地震ですが"例の未確認生物"……また発見されたそうです」


「そうか。それで研究所からの報告は?」


「はい。2週間前の生物と同種だそうですが…」


「そうか、報告ご苦労」


「いえ……」


「どうかしたのか?」


「…結局、アレは何なんでしょうか」


「さあな。何故私に聞く?」


「この件で竹岡長官は先日も米国から招かれた、との噂を耳にしまして…」


「ははは、”招かれた”か。どちらかと言えば”呼び出された”の方が正しいがな。

……まあ、お前と私の仲だ。座れ」


「失礼します」


2人はガラス机を挟み向かい合うように黒塗りのソファーに腰を落とした。


「米国はアレの情報を知りたがっている。何せ新種だからな」


「ですが只の新種の海洋生物、と言うだけであれば長官が招かれたりしないでしょう?」


「お前も承知の通りアレは新種と言うだけでは無い。

”生きた宝箱”だ。”鍵”は無いがな。」


「…では米国も?」


「そうだ。あちらも”鍵”が無いらしい。

『日本は本当に”鍵”を持っていないのか』と言ってきたよ。

全く……研究者でもない私にわかるわけがないのにな。

はあ、おまけに米国だけでなく中露英独…自国の政府まで私を疑うとは」


「長官は昔からこ案件に関わってましたからね。

まあ、そいつらと違って私は素直に陳謝しますよ。

どうも、疑ってすみませんでした。この通り」


唐木田頭を下げ竹岡に陳謝した。


「全く、私もいい迷惑だよ。大体、私が”長年担当している”とは言うが入庁した時に偶々配属されていただけだ。

しかも当時は寄せ集めが溜まった窓際部署、拘って居座り続けたのも私だけ。……まあ、そのおかげで肩書きだけはいまや”長官”だがな、ははは。


だからそもそも……"見つかる数が増えた"からと言って急に頼られてもな」


「あ、愚痴終わりました?」


部下の唐木田はその手に持った研究所からの報告書をパラパラと捲っていた。


「…君も相変わらず急にギアを上げてくるね」


「でもホント不思議ですよね。

直接触れることはできず縄で引っ張ったり重さを測る事しか出来ないなんて」


「……その報告書も昔から変わらないな。

『計量と縄で引っ張る事しか出来ません』だけでこんな長々と……」


「竹岡さん……実は私、ヤツを現場で触ってみました」


「で、ちゃんと裸で消毒液まみれになってから私の所に来たんだろうな?」


「ちょっとぉ、そんな意地悪言わないで下さいよ。

心配御無用、相変わらず”見えない何か”で皮膚には触れられませんでした」



(音楽が鳴る音)



「ん、失礼するよ」


「娘さんですか?」


「ん? おお、そうみたいだな…」


「じゃあ私もここで出ます。失礼しました」


「ああ、今度飲みにでも行こう。




………もしもし、ああ、パパだ。」



……

……



「………ああ、じゃあ切るよ」


ピッ



それから竹岡は執務席に座り別の部下からの電話があるまで、そこに飾ってある娘と2人で写った写真を眺めていた。



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