1-4.《出会い》
2021.6.6:誤字脱字、誤表現を修正致しました。物語の設定は変わっていませんのでご容赦下さいませ。
⌛帝歴3851年
――ミヨウ視点――
気が付くと同じような祠の前にいた。
ただ、中の鏡がキレイになってる……。
それに……あの幽霊も見当たらない。
周囲を観察してみる。
まず空を見上げると落ちてきた穴はなくて空も見えない。
代わりに木目が見えた。
どうやら建物の中にいるみたいだ。
視線を戻して振り向くと奥に西洋風の大きな扉が見えた。
パット見は神社っぽいのに扉は洋風なのか……とりあえず出てみよう
西洋風の扉を力を込めて押すとギギギ…と開いていき明るい日の光が目に飛び込んでくる。
「おわッ!? 眩しっ」
やがて目が慣れてくると自分がどこにいるか大体想像出来た。
多分ここは神殿だ。
……それも巨大な洞窟の中にある。
日光だと思っていたのは紫、緑、白、赤、様々な色の巨大な結晶の発光だ。
「日本じゃ……ないな」
扉を開いてすぐにある階段を見る。
ここ結構高いし階段がめちゃくちゃ長い……なんだっけこれ?
えーッとあれだ!カスミさんが見せてくれた……あれだ!"平安時代の出雲大社"のやつに似てるんだ!
…
…
階段を下りていると途中で誰かがうつ伏せで倒れていた。
声を掛けようと近づくと大きな鼻提灯と大きな寝息が聞こえたからこの人が寝てるってわかった。
素通り――は不味いよな……
「あの、お休みのところすみません、ここがどこか…」
「スヤ…スヤ…」
トントンと肩叩くが起きる気配がない。
「お休みのところすみません!」
今度は少し強く肩を叩いてみる。
「あの、ここってどこなんですか!」
パチン、と鼻提灯が割れる音がするとその人はバッ、と上半身を起こした。
「○□ッ!。○○□△…!」
何を言ってるか分からないけど多分……寝起きと驚きの言葉かな?
その人は深く被ってるシルクハット、というよりはなんか理科のピペット?みたいな変な帽子を取る。
綺麗な緑の長い髪が見えて女の人だとわかった、それも美人だと思う。
「あの……、お休みのところすみません。ここってどこですか?」
もう一度この黒緑のローブを着た女の人に尋ねると、女の人はおれの目を見つめてきた。……彼女の瞳は蒼い空色だった。
通じてない?あ!さっきも聞いたことない言葉だったな…どうする、とりあえず英語?
そんな風におれが悩んでいる間に女の人はなんか腰袋に手を突っ込んでゴソゴソしていた。
とりあえずは学校でやったやつを試してみよう。
「え、Excuse me,Could yo ガフっ!おえッ!」
口に……! 何か放り込まれた! 奥に入っ……味……変!!
おれが噎せながら涙目で女の人の顔を見上げると、女の人はなにか善いことをしたような素敵な笑顔でおれを見つめていた。
「ゴホッ……あ"ー う"ん……あ、あー……」
……ふう、やっとおさまってきた。っていうか――
「いきなりなにすんだよ!危ないだろ!」
「あら、良かった、効いてきたわね!」
「は?なにが……あれ?言葉が……」
「さっきはごめんなさい。言葉が通じないと不便だからっ薬を飲ませたのよ。『ルビバ』も入ってるし体にも良いのよ」
「ルビバってなんだよ!?」
おれは自分の喉を揉みながら尋ねた。……薬ってなんだよ!おれのからだ大丈夫かな……?
「あら、伝わらなかった?"こっち"の海藻の一種よ。
ねぇ、幾つか質問に答えて欲しいのだけれど…」
「いいけど、その後はこっちの質問にも答えてくれないか?」
「もちろんよ、そのための確認でもあるの。ま、とりあえず座って座って」
……
……
"幾つか"と言ってたのに数十回は質問された。
やっと終わったかと思うと女の人は階段に紙を広げてブツブツと何やら書き込んでいる。
「…うーん、身体の部位や方角、それに基本的な物体の種類、さっきも『海藻』は伝わったけど、一方で『ルビバ』のように、
こちらの固有名詞では伝わらないこともある。
と言うことは……………まだまだ改良の余地有りね」
「ねぇ、まだ終わんない?」
「! あ、あら、ごめんなさい!大丈夫よ!さあ"何でも来い"よ!」
「おれは萢凪ミヨウ。ミヨウとかヨウでいいよ、よろしく!」
「ヤツナギ……。あ…私はルトナよ。ルトナでいいわ、ミヨウ」
「じゃなルトナ、聞きたいことがいっぱいあるんだ!
ここはどこ!? あの化け物は!?」
「そうね、まずここは『人魔界テラデラ』と言うの、地図で説明するわね」
……
……
ルトナはおれの隣りに座ると手に持っていた先が二股に分かれた杖でさっき書き込んでいた紙をつついた。
するとたちまち地図が浮かんでそこに書かれた地形がメリメリとせり上がった。……立体地図だ。
「……人魔界テラデラには3つの大陸があって、この左上の1番小さいのがミストラ大陸、その下、微妙に繋がってるように見えるのが1番大きいスボラット大陸よ。
で、この2つの大陸と海を挟んで向かい合っているのがパーズ大陸。人魔界はこの3つの大陸と周辺の島々からなっているのよ」
「すごい! おれたちがいるのは?」
「……スポラット大陸の中心から見て南西にある山の中よ」
「へー すっげぇ!!」
マジか!! 日本どころか本格的に別世界のやつだ!
「それと、さっき聞いたその化け物については分からないわ、ごめんなさい。でもミヨウがこっちに来たのには理由があるのよ。
あなたは”呼ばれた”のだと思うわ。心当たりも……あるもの…」
そう言うとルトナは一瞬黙り込んでしまった。
「…実は――」
「実は、人魔界テラデラは皇帝が治めているの。
その『魔界帝』はこの世界に代々、数千年も君臨しているの」
「数千!?」
「……先代までの皇帝は優しく民から尊敬されていたのだけれど、約200年前に先代がお隠れ(死去)になってから皇帝を継いだ現皇帝の《ガトン》は大陸中から民を拐い、皇帝直属の軍隊の監視下で何かをさせてるらしいわ」
「!!」
「…そのせいで労働者がいなくなった都市や国なんかは他の街を襲ったりして、あちこちで戦争が起きて混乱が生じているのよ」
……大変なことだとは思う、けど――
「それと俺なんかに何か関係が?」
「最初の皇帝は戦争が絶えなかった時代を終わらせ人魔界を統一したのだけれど、それにはあなたたち別世界から来た者達が手助けをしたと言う話があるの。
そこから『人魔界が窮地に陥った時、別世界から導き手が訪れる』と言う伝説が生まれたのよ。
だから…ヨウは一応それに当てはまっているわ」
「……その皇帝ってやつはひどいと思うし、できるならその人達を助けたいとも思うよ!
けど、おれはまだ中学生で、戦争とか……どうにかできるようなやつじゃないよ……」
「……無理にとは言わないわ。
だけど、ちょっとだけでも、この私たちの世界を見ていってくれないかしら……?」
「え………」
でも………戦争とか起きてるってことはここから出たら危ないんじゃ? けどすぐに帰るって言うのも……申し訳ないな……
「………」
ルトナも黙ったまま…………気まずい。
うん……じゃあちょっと見るだけ……見てみよう。
「あのさルトナ!その……せっかく来たんだし近くの町とか案内してよ、戦争?とかそういうの無しでさ!」
「……そ、そうね!暗い話をしちゃったけど人魔界だって楽しみは一杯あるんだし、案内するわね!」
――ミヨウ視点 終――
こうして2人は重苦しい空気を振り払って立ち上がり神殿の階段を友に下りていった。