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《目覚め》

◯始めに

コロナ禍においてご多忙な中、拙著にお目を通して頂けることを、この上なく嬉しく思っております。こんな世の中で、拙作が少しでも皆様の暇潰し等に役立てるのであれば幸いです。


◯あらすじ

これはメイン主人公の少年を始めとした人物達が、別世界での出来事に巻き込まれ、喜楽や苦痛と言った様々な経験を通し、成長していく物語です。

結末はある程度決めています。


2021.1.30.追記

お目通ししやすいよう、文章の間隔を開けました。

2021.6.6 追記

誤記や表現を修正しました。本編の設定は変わっていませんのでご容赦下さいませ。












カタカタカタ、カタカタカタ…



走る1台の車、その後部座席……荷台の荷物が揺れる音と体を揺すられる振動で少年は微睡んだ目を薄く開ける。


「んぅ~~~……!!」


眠気覚ましに全身を強ばらせた少年はシートベルトで固定された体を捻ると車窓を通して外の景色を眺める。


不意に助手席に座っていた母親が声をかけた。


「ヨウ、起きた?もう着くよ」


「ん…、もう着いたの?」


ミヨウは寝惚けた声で答える。

と云うのも、ミヨウ少年は自宅から車で出発してすぐに”着いたら起こして!”と、座席を倒すとすぐに寝てしまっていたからである。




毎年、夏が終わる夜長月(9月)の初め、その休日にミヨウの母リョウコの実家、即ちミヨウにとっての祖父母宅へ向かうのが萢凪(やつなぎ)一家の習慣となっている。



その祖父母宅は車で2時間半も掛かる地方にあるため、中学2年のミヨウにとって起き続けるのは"めんどい、つまんない、暇"の3拍子で寝る以外にやることが見つからない。


以前に一度だけゲームや漫画を読んで暇を潰そうとしたことがあるのだが酷く酔ってしまい、それ以来完全に寝る以外の選択肢がなくなってしまったのだ。





カタカタカタ…


車が2度目の段差舗装道にさしかかる。


この道を曲がると見えてくるのは、もう何度も見たことはあるが誰のはわからない田畑、そして山々。


この景色が"もうすぐ着くよ"とミヨウ少年に話し掛けてくる。



「ミヨウ、お姉ちゃんも起こしてあげて。

母さんはおじいちゃん家にもうすぐ着くって連絡するから」


「わかってるって。……ミオ姉!もう着くってさ」


ミヨウは隣でスヤスヤと寝息を立てる少女の肩を軽く叩く。


「ん~~~! うー…起きたぁ…」


ミヨウ少年の姉"ミオ"が唸り声をあげると母リョウコは聞き覚えのある唸り方にクスリと笑う。


「ねぇパパぁ~、まだぁ?」


ミオは運転する父スバルに話しかけた。


「もう着くよ」




萢凪一家が山の近くにある祖父母の家に到着したのはお昼の少し前。


ミヨウが車から降りると、豊かな自然の香りが少年を包む。


(周りに人がいないとなんか落ち着く…空気も東京(むこう)より澄んでいる気がするし……)


「ミヨウ、荷物運ぶから手伝いなさい」


父スバルに言われ少年は車の荷台からお土産が入った袋と、遊び道具が入ったリュックを持ち玄関へと向かう。




-ミヨウ視点-



荷物を置いて靴を脱ぐ。

あ……。ちゃんと揃えてないと父さんに怒られる……直さなきゃ。


家にあがるとおじいちゃん家の不思議な落ち着く香りがする……。これってさ線香の匂いなの?


重たいお土産とゲーム機の入ったリュックを持って居間へ行くとおばあちゃんが笑顔で"きたきた"と待っていた。



「これお土産だって、どこ置けばいいの?」


「おぉ、おしょうしな、あすこに置け」



ガラガラ……


あ、玄関の閉まる音がする。父さんが残りの荷物を持ってきたみたいだ。

毎回だけど……何でミオ姉は自分の荷物だけ持ってさっさと中入っちゃうんだよ、たまには持て。



「ヨウ君、変わりない?」


「え、うん ないよ。母さんとミオ姉は?洗面所?」


「ミオちゃんもお母さんも洗面所で手ぇ洗ってもう仏壇んとおるからヨウもくん行きんさい」



おばあちゃんに言われた通り手洗いうがいをして、それから仏壇の部屋に行くと線香をあげてる母さんと姉とおじいちゃんがいた。


おじいちゃんはおれに気付くと線香を手に取って渡してきた。


「ミヨウ、よく来たよく来た。元気そうで何より。線香のあげ方分かるか?」


「うん、大体」



仏壇の中には曾おばあちゃんと曾おじいちゃんの写真があった。……赤ん坊の頃は曾おばあちゃんによく抱っこされてたって聞いてるけど……記憶にはない。


(2人共……おれは元気です)



それから部屋を出ようとすると、ふと部屋の中の色々なものが目に入る。

そうここにあるのは仏壇だけじゃない。

布を被った壺だとか神棚とか表彰状、あとは天狗のお面。

もう大分昔だけど初めてこのお面を見たときは怖がっていたような気がする。


今はそうでもないけどね!



「…ミヨウは昔怖がって泣いてたなぁ、それにつられてミオも泣いて、懐かしいなぁ」


「あー…そうだっけ?」


……おじいちゃんとかおばあちゃんって懐かしむようにこういう話するけどさ、こっちはめちゃくちゃ恥ずかしいからおれのいないところで言って欲しい。



部屋を出たところで入れ替わるように父さんが入って来た。



……居間に戻るとおばあちゃんと話す母さんと少し離れたソファでだれるミオ姉がいた。


「やぁっと来たぁ、ゲームしよ、モ○ハン手伝って」


荷物の中からゲーム機を取り出す。けど電源を入れたところで…


「萢凪さーん、出前でェーす!」


……おじいちゃんたちが頼んだ出前が来てしまった。

これはお昼に着いた時にわりとあるハプニングだ。



今回の出前はラーメンと餃子で、それにおじいちゃんたちが畑で作ったキュウリ、トマト、なす漬やらがプラスされた。




-ミヨウ視点 終-


……

……



……食事の時間とは家族の会話の時間でもある訳で、両親との時でさえ学校はどうだとか、トラブルはないかとか、プライバシーを無視して色々聞かれるものではあるものだ。


だが、時々しか会えない可愛い孫を持つ祖父母はその比ではない。

日常の細事を聞かれるだけでは済まず自分には記憶がないような幼い頃の、それも顔から炎が吹き出るような恥ずかしい昔話も雨あられのように容赦なく降り注ぐのである。



この家族も例外である筈がなく、ミヨウとミオの姉弟もこの恐ろしい団欒(だんらん)の時間では曖昧に質問に答えつつ必死にテレビを見やって動じない振りをせざるを得なかったのである。



……

……



そんなお昼を終えた後、両親と祖父母の話が止まない居間とは別の部屋にてミヨウとミオはゲームを再開していた。


「ミオ姉、次おれのクエスト手伝って!」


「良いよー」



「ちょまって!とりあえず先に尻尾だって!」


「えー!?このモンスターめっちゃ動くんだもん、あ、罠使うね」



そんなやり取りをしていると、ミオはお馴染みの話を弟ミヨウに振る。



「そう言えば、おばあちゃんのご先祖様ってこの返で神社の神主してたんだって」


「またその話ー?毎回言うよねそれ。

めっちゃ昔の話だろ、それ。下にあるあすこの神社じゃないの?」


「ははは "あすこ"だって~、ヨウ君なまってますな~」


「あ・そ・この神社じゃないの?」


「そうじゃなくてなんかもっと山寄りにあったぽい、て言うか山の中?」


「……それは初耳、誰から聞いたの?」


「午前中にママとおばあちゃんに聞いた!」


「っていうか証拠あんのかよ、それ」


「証拠はないけど、『意味がなかったらこんな話自体伝わらないと思うんだよね』ってカスミがね」


「…まあそれはそうかもね」




カスミ、というのは高校1年生であるミオの同級生だ。

彼女の家も姉弟の自宅から近く、中学も同じである。

高校ではミオと同じ文芸部でもあるのでしばしば家で遊んでいる仲。

因みに彼女の父親は大学で民俗学を教えている。



「その神社、明日探してみない?」


「え、やだよ!」


「なんで~、もしかして怖いの~?」


「……めんどい」


「え~、ヨウが行かないと始まんないんだけど?」


「なんでだよ!」


「カスミから聞いたんだけど、山の神様って女性だから男がいると喜んでくれるんだってさ!」


「生け贄役じゃん!」



そんな話をしたながら、この姉弟は母親が”夕飯だ”と呼びに来るまでゲームをしていた。



……

……



一家は大きな四角のテーブルを全員で囲むように腰を下ろす。


テーブルには出前寿司となめこ汁、沢山の山菜と果物が並んでいた。特に祖母が作ったなめこ汁が大好物なミオとミヨウは何杯もおかわりした。



「ミヨウ、サッカー部はどげんだ?」


祖父がミヨウに部活の様子を尋ねた。


「楽しいよ!」


「そうか、ミヨウはミオみたいに武道やらないのか?

……まあ、楽しんでいるなら結構だ。でも学生の本分は勉強だからな、勉強も大切だぞ」


「リョウコ、ミヨウの成績はどう?」


祖父が"勉強"などと強烈なノールックパスを祖母に決めてしまいミヨウの心を(えぐ)質問(シュート)が母リョウコへと飛んでいった。


「まあ、何とか大丈夫なんじゃない?」


「んだか……それならいい」



「ミオはどうだ、学校」


祖父が今度はミオに尋ねた。


「ふつー」


「薙刀は続けてるか?」


「高校に無かったから早めに終わる文芸部に入って薙刀は地域クラブで時間がある時にやってる~」


「勉強は?」


「へーきへーき」


ミオは質問の雨を華麗に受け流す。



「そう、ならきっとミオもミヨウも大丈夫ね。

もう……2人共いつの間にかこんなに大きくなってねぇ…。

ミオちゃんもヨウくんは覚えてるかしら、昔……」



今回は軽傷で済んだかと思いきや、祖母は最後にその優しい声で最終兵器(ファイナルウェポン)『あなたが小さな頃は』で姉弟の心を焼き尽くした。





ライフがゼロになった姉弟を囲みながら(おとな)でわいわいと話をしていると、突然スマホとテレビからけたたましい警告音と共に緊急地震速報が響いた。



「緊急地震速報です。○○県、△△県、□□県では強い揺れに注意して下さい。」

「緊急地震速報です。○○県、△△県、□□県では強い揺れに注意して下さい。」

「緊急地震速報です。○○県、△△県、□□県では強い揺れに注意して下さい。」



(△△ってこの県じゃないか!)

ミヨウがウッと身構えた途端、地面がグラグラッと揺れ始めた。




それは30秒程続き……やがて止んだ。



「ビックリしたー!」


ミオが沈黙を破った。


「じゃ、壊れたものがないか見てくる」


「お義父さん、手伝います」

そう言って祖父に父スバルが付き添い部屋を出て行く。



「最近多いわねぇ…、……テレビ、震度3……。母さん、大丈夫?」


「大丈夫だ」


母リョウコが祖母に話しかける。




約1時間後、部屋を出た2人が戻って来るが…


「他の家も回って来るからお前たちはここにいろ」


そう言って今度は家から出ていってしまった。




日が沈んだ頃2人は戻ってきた。


結論からいうと他の家も壊れるとかの被害はなく人も無事みたいだったが少し離れたところで山が崩れたらしい。


"崩れた"と言っても、砂が少し道路にこぼれた程度のようだ。

念のため役所に調査を依頼するとか。



……この日、ミヨウはお風呂に入ってすぐに布団に入った。

姉ミオもしばらくスマホをいじっていたがやがてミヨウの隣の布団に入り眠りについたのだった。


……

……



その日の深夜、布団で眠るミヨウは不気味な夢を見ていた。


冷たく、暗い空間、乾いた木の匂い、目の前には古ぼけた祠、その御神体を隠す役目の扉は開かれ、見てはならない御神体が少年の瞳に映る。

その露になった御神体のせいかミヨウの体がふらふらと近づいて行く。



(変な夢……古びた祠が……中に……何か供えら……鏡……?

……汚れ……拭か……きゃ…)



祀られた御神体、その鏡に指が触れた瞬間、少年の左腕を血の気が失せた白い手がギュウウッと掴んだ。



「うわああああッ!!!」



ミヨウはこれをなんとか振り払い祠から離れる。

少年が祠に目を向けると目と鼻のない口だけの女が立っていた。

その口からは……


「キ……ギ……」


と何を意味するでもない音が繰り返されている。





「……はっ!!!」




ミヨウが目を覚ますと見慣れた木の天井が見えた。














◯後書き

お目通しありがとうございました。

続きは出来るだけ早く仕上げていこうと思いますので、これからもお目通し頂ければ幸いです。


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