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後日談3

「翔太っ!」

「兄ちゃん。そんな泣きそうな顔で、どうしたんだよ」

「馬鹿、お前。時空間転移で世界規模の迷子になるとこだったんだぞ!?」


 叔父であるアリス姫が車のトランクに作成したポータルゲートを通り、東京へと帰還した橘冬木が橘翔太を泣きそうな顔で抱きしめているのを、ホッとした顔で前田拓巳は見ていた。世界の外側という未知の領域を渡り歩いた橘少年は変な病気に罹患りかんしていないか、何らかの異常が発生していないか、科学的観点とオカルト的観点から徹底的に調査をされていたせいで面会謝絶状態だったのだ。

 アリス姫の治癒魔法で大抵の病は癒やせるが、ディストピア世界で穂村雫が霊的細菌兵器なんてトンデモ病原菌を作成した事もあり、念の為に最も霊視能力の高い拓巳も調査に協力していたのである。

 顕微鏡を使ったミクロ単位の霊視など前代未聞の挑戦だった故に絶対の自信を持って言えるわけではないが、穂村雫の研究結果とバーチャルキャラクターであるリデルの世界情報とアリス姫の並外れた直感で、まあ平気だろうという結論に最終的に落ち着いたのだった。


 好い加減に思えるだろうが、そもそも世界の外側どころか現神世界での霊的微生物すら発見されたばかりなのだ。どれが世界の外から持ち込まれたモノなのかすら判別できない。もう不思議パワーに頼った治癒魔法で何となく治療した方が中途半端に科学的な治療を試すより効果が高いのだ。

 ミクロの霊視によって発見された霊的微生物が原因不明の奇病として扱われてきた病と関係性があると判明したり、医学の発展には役立ちそうではあったが。そこは研究続行を希望する科学者達の何人かをその場でアリス姫が霊能力者や錬金術師に覚醒させる事で対応した。

 もしかしたら心霊医療や治癒魔法を科学的に再現する未来も訪れるのかもしれない。


「よかった」


 大勢の命が救える可能性が出て来た事もそうだが、拓巳は次世代社会で橘冬木が弟を取り戻そうと足掻いていたのを知っている。

 結果的にその足掻きが多くの不幸を招いてもいたのだが、その信念は否定できない尊いものだったのだと、当時から拓巳は思っていた。それをただ見ている事しか出来ないでいた自分の無様さと共に拓巳の朧気な記憶の中でも印象深く残っていたのだ。


「本当に」


 橘冬木と一緒に拓巳の帰還を待っていた南透はそう言って拓巳に同意した。

 彼女もまた稲荷の会の代表人物として黄金の蜂蜜酒を薄めた蜂蜜水を振る舞われていたのである。


「無事で良かった……」


 透の視線が橘兄弟ではなく自分に向けられている事に気付いた拓巳は、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

 朧気ではあるが、ベッドに10年以上も寝たきりになっていた事を忘れられる訳がないのだ。


「すいません。随分と長い間、負担をかけてしまって」

「ううん」


 泣きそうな目で南透は笑って拓巳へ応えた。


「辛いだけじゃなかったから」


 それでも幸せだったと。

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