後日談2
「目は覚めたかな?」
「んあ? アンタ、誰?」
病室のように真っ白な部屋の中、ベッドの上で彼は目を覚ました。個室の中はベッド以外には何も置かれておらず異様に殺風景だ。
白衣を着た眼鏡の男は笑顔で彼に答えた。
「私はローズル。ローズル博士と呼んでくれたまえ」
「ここは病院っすか?」
「残念ながら違うね。君は過去の事をどれくらい覚えているかな?」
ローズル博士に質問された彼、藤原史郎は首を傾げて考え込んだ。
記憶が酷く曖昧だ。確か最後の記憶は遊んでいたネトゲのとあるギルドが、ヤクザの事務所へと襲撃をしに行こうと言い出した場面だった気がする。頭のネジの外れた誘いに面白がって参加して―――どうなったのだったか。
「あー、ネトゲのオフ会に参加しようとしてたような」
「ふむ。オフ会。何というネットゲームで何という名前のギルドの集まりだったんだい?」
「そりゃ……あれ? 何て名前だったかな」
欠けた記憶に悩む藤原史郎をジッと観察してローズル博士は頷いた。
どうやら、何時も通りの状態らしいと。
「今日の所はゆっくりと休みたまえ。仕事は明日から頑張ってくれれば良いから」
「仕事?」
「ああ、そうだとも」
ニコリと口元を歪めたローズル博士は微塵も笑っていない目で藤原史郎を歓迎した。
「Dクラス職員は何人いても足りないからね。財団は殺人鬼だろうと喜んで雇うんだ」
ヒクッと引きつった笑みで心当たりのあった藤原史郎は承諾するしかなかったのだった。
アイテム番号:SCP-666-AW-ポンコツ男
オブジェクトクラス:Euclid
特別収容プロトコル
SCP-666-AWはサイト-8141の人型SCP収容施設内にて、固定された家具と浴室が備わった2部屋の独房に収容されています。SCP-666-AWが望んだ嗜好品や食事を与える事は許可されていますが、武装に流用できないか事前に念入りなチェックを行うようにして下さい。SCP-666-AWが施設内を移動する場合は常に二人組の武装スタッフによる監視を徹底し逃亡しないよう注意を払い、気を許さないようにして下さい。SCP-666-AWが逃亡した場合は小型追跡装置の反応を参考に一分隊の武装スタッフが即座に追跡を開始して該当オブジェクトの捕獲、または終了を迅速に行う事が必要不可欠です。通常のDクラス職員として動員する場合は可能な限り消耗する事を前提の実験に用いる事が推奨されています。決して該当オブジェクトに異常存在の知識を与えてはなりません。
説明
SCP-666-AWは前触れもなくDクラス職員に紛れ込んでいた人型実体です。茶髪の脱色された髪を持つ身長170cm体重63.6kgのごく一般的な日本人男性の見た目をしています。聞き込み調査と心理分析によって過去の経歴で数人の被害者を殺害している事が明らかになっていますが、巧妙な手口で隠蔽し逮捕をされた形跡がありません。また財団内に訪れる前の一部の記憶が曖昧な事から記憶処理をされた疑いがありますが、現時点で詳細は明らかになっておらず、更なる調査が必要とされています。
SCP-666-AWの異常性は一つ、Dクラス職員である事に尽きます。財団が職員として勧誘していないにも関わらず突如としてサイト内に出現して以降、SCP-666-AWは常にDクラス職員です。他のDクラス職員と同じように消費され続けているにも関わらずです。何らかの理由によって生命活動が停止をするとSCP-666-AWは記憶を失ってサイト内の収容施設の自室に再出現します。この際に以前の肉体は残ったままな事から特殊なクローン体の可能性が示唆されています。記憶や精神性の大規模な変容によっても条件は満たすらしく、現在、SCP-666-AWは3体が同時に生存しています。オリジナルに近しい出現したばかりの個体をSCP-666-AW-1、記憶を完全抹消された個体をSCP-666-AW-2、精神が大きく変容した個体をSCP-666-AW-3として継続観察されています。
補遺
SCP-666-AWは異常存在の知識を得ると故意に収容違反を招こうとします。その際に偶然や過失を口にしますが信じてはいけません。SCP-666-AWは一部では知能の足りないポンコツだと揶揄されていますが、SCP-███、SCP-███というKクラスシナリオの危険性があるオブジェクトを事前説明があったにも関わらず意図的に収容違反させようとしました。現在SCP-666-AWに異常存在の知識を与える事は明確に禁止されています。実験には細心の注意を払うよう気を付けて下さい。
【ちょっとしたプレゼントさ。目減りしない罪悪感を抱かない人的資源が確保できて嬉しいだろ? 僕も世界滅亡の危機をポップコーン片手に見れて楽しめるしウィンウィンってやつだね】




