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バッドエンドの向こう側4

「疑問に思っているのではないか? 何故、安倍晴明は子供達を騙してまで儀式を遂行したのかを」

「ええ、その通りです」


 SCP-879-AW-リコールマンの言葉に包帯男、橘翔太の成れの果ては頷いた。

 傍らにはSCP-007-AW-時空妖精であるティンカーベルが楽しそうにキャッキャと騒いで道案内を続けている。時空の狭間に呑まれて立ち往生をしている物部摩耶を救いに彼らは動いている最中なのだ。

 マーブル模様のように世界の色合いが混ざって景色が移り変わる中を時空妖精は迷いなく突き進む。何処にでもいるし何処にもいない。それが時空妖精という生き物だ。


 時空の狭間で物部摩耶と出会うという未来の可能性があるならば、出会う事に成功した自分に何処に行けば良いの? と、過去から聞きに行って未来の自分に教えて貰えば良い。それが彼らには当然のように出来る。天文学的確率を更に天文学的確率で掛け合わせたようなか細い可能性だろうと、可能性があるのならば彼らにとって成功率は100パーセントと変わりないのだ。

 そんな目的意識を持って自分達の異常性を利用する時空妖精など普通は存在しないが。


「過去改編に頼らなければ日本に未来はない。儀式を遂行した動機は分かります。足りない力はSCPを利用する事で補う。危険思想ですが分からなくもありません。財団だろうと同じ選択をしたでしょう。ですが……」

「最初から私を、いや君を頼れと言いたいのだろう?」

「ええ」


 包帯男は、いや橘翔太はなくした記憶を追い求めてバーチャル世界の江利香の自己領域に現れた事がある。安倍晴明ならば、その際に接触をする事も出来たはずだ。

 何故ならば包帯男が江利香の自己領域に現れたのは時空妖精を追い続ければおのずと記憶の手掛かりは得られるとリコールマンが包帯男の質問に答えたからだ。リコールマンは質問には必ず答えるが、誤解するような返答をしたり、はぐらかしたり、行動を示唆して意味深に笑うだけのパターンも多い。

 結局、包帯男が過去の己の足跡を知ったのは、安倍晴明の役目を引き継いだリコールマンがベラベラと今までの経緯を語ったからであった。


 最初から全てを話していれば包帯男はワンダーランドとぶつかり合う事はなかったし、安倍晴明がリコールマン経由で包帯男に助けを求めていれば、時空の狭間に呑まれて永劫を過ごす危機に記憶と引き換えに救った少女を晒す事もなかった。そう、無言で糾弾する包帯男にリコールマンは笑って答えた。


「それは仕方のない話だ。私が君に接触したのは安倍晴明に後を託されたからなのでね」

「なるほど。リコールマン、貴方が過去を変えるのはこれで二度目だという事でしょうか」

「いいや、一度目だ。私に過去を質問せずとも君は時空妖精を収容しようと動く」


 リコールマンはそうさなと例え話を始めた。


「二次創作という文化が分かるかね? 既存の小説や漫画にアニメを題材として作者以外の他者がオリジナル展開を書き加えたり、既存のシナリオを変更する事を言うのだが」

「言葉としてなら理解していますが、それが?」

「なぁに、こういう事だよ。原作がある作品に手を加える時には出来る限り歴史通りに進ませた方が未来を予想しやすく干渉しやすいと」


 それに、とリコールマンは言う。


「ハッピーエンドの可能性が残っているのに面倒な執筆作業をする程、私はこの作品の熱烈なファンという訳ではなかったし、あまりにも些細な事でストーリーが左右されるからね。下手に弄るのも怖かったのだ。それを安倍晴明は見透かしていたのだよ。だから、私が気に入っていた霊能力者編のエピソードに登場する子供キャラを再び引っ張り出してきた。やれやれ悪趣味な。私は少し、この作品に登場する希に見るフィクサー型の安倍晴明と話をしてみたかっただけなのだがね」

「何を、貴方は何を言っているのです。リコールマン」

「この世界の話さ。君達も分かるだろう?」


 間が空く。返事はない。

 それも当然だ。何故ならば。


「君達に言っているのだよ。そう、スマホやパソコンの前にいる君達に」


 リコールマンは読者に語りかけているからだ。今の君達の反応を反映する事は残念ながら世界の理に反する。

 世界の壁を越えて語りかけるリコールマンに包帯男は顔をしかめた。彼に君達の姿は見えていないのだ。


「イデア論さ。七十三話『理外の化物』でサンジェルマン伯爵が引用しアリス姫が補足していただろう。我々の見ている世界は現像世界であり、イデア界から投影された影に過ぎないと。難しく考える必要はない。現実で如何に精巧に紙面に絵を描写しようと完璧に世界を模写しきる事は難しいという話だ」


 もっと分かりやすくリコールマンの事を知りたければ第四の壁で検索すると良い。

 彼は君達のいる世界を認識するメタキャラなのだ。この世界は所詮フィクションに過ぎないと君達が思っているのを彼は知っている。


 だが、彼を単なるフィクションキャラと認識すると痛い目を見るだろう。

 彼はSCPである。


「包帯男、君は三つの異なる世界から観測されているのだ。『SCP財団異世界支部』『クトゥルフ神話の日本侵食』『ネカマ姫のチート転生譚』これが彼らの世界での君が登場する作品のタイトルとなる」

「……理解しました。私の足跡もまた、何処かの本棚に並んでいるという訳ですね?」

「残念な事にやる夫スレとウェブ漫画にネット小説で素人の作品に過ぎないようだ。そこまでの知名度はないな。精進したまえ」


 笑うリコールマンに包帯男、橘翔太はどうしたものかと溜息を吐いた。




 本を読むように世界を俯瞰するSCP、リコールマン。

 さて、では彼は一体、何処にいると思う?

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― 新着の感想 ―
[一言] リコールマン、外宇宙にいそう(小並感)
[一言] クトゥルフらしく時間遡行で平行世界作ったりそうかと思えばバットエンドな世界になったりSCPを使って読者まで引き込んでくるとはさすが作者さん常に予想の斜め上を通っていきますな。
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