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次世代社会7

「食料自給率87パーセント。逆鎖国から10年、農業振興をこれ程アピールしても100パーセントには届きませんか。普通なら餓死者が出ているのに危機意識が薄いわね」

「最初こそ色々と騒がれていましたけど、何処からか豊富に食料が運び込まれて来ますから。海外との貿易を牛耳っている何者かがいるのはもうバレていますよ。ネバーランドの広報担当みたいになってる江利香さんと浩介さんが苦情を言われると愚痴ってました」

「あらあら。独占禁止法に違反してしまうかしらね」

「ふふっ。私も特定団体を優遇して袖の下を受け取っていると言われてしまいますね」


 際どい冗談を言い合ってユカリとモロホシは笑い合った。

 総理大臣並の影響力を発揮するワンダーランドメンバーの中で最も有効にその影響力を振るっているのが元Vtuberであるモロホシ、諸富星野もろどみほしのである。

 一つの政党を率いる次期総理大臣の呼び声も高い、大物代議士。それがモロホシの現状なのだ。


 日本が滅びるかもしれないギリギリの状況で、まだ二十代の若さにも関わらず父親の基盤を継いでモロホシが政界に足を踏み入れたのはオカルトを利用して少しでも日本を安定させる為だ。政府との繋がり事態はユカリも持ってはいるのだが、日本を封じ込めて逆鎖国したのはフリーメイソンだ。理屈や国益で考えると繋がりを断ち切る訳にはいかないのだが、感情的な憤りがどうしても両者の仲を冷え込ませていた。


 そんな時に仲介役として名乗りを上げたのがモロホシの父親である。

 当時モロホシは、バーチャル界・現神・伝説の錬金術師・異能力者この一つ一つの単語が現実の物であると理解できず、新しい時代に適応できずに苦悩している父親の尻を秘書として引っぱたいていた。それまで積み重ねた政治力学がゴミ屑のように意味のないものとなる中、モロホシは父親の名を使って秘書時代から政治に口出しをしていたのである。


 誰もが指針を欲している中、アリス姫の近くで一連の流れの全てを見ていたモロホシ以上に現場を知っている者はおらず、最初期の政府の対応は一介の秘書に過ぎないモロホシの意見を参考に動いたのだった。

 流石に天皇が信仰によって先祖返りを起こして高天原に帰ったと聞かされた時はモロホシも思考が真っ白になってろくな対応が出来なかったが、フリーメイソンの日本代表となったユカリが秘密裏にフォローをして何とか日本が安定するまで奔走し続ける事が出来ていた。


 表にこそ出せないものの当時の記憶は政治家達の脳裏に刻み込まれ、大物の政治家ほどモロホシに感謝をしていた。

 それがアリス姫の逸話がアニメとなって流れ、モロホシの民衆人気に火が付いた事と併せて一つの政党のトップへとモロホシを担ぎ上げる事態へと発展したのだ。

 最終的にモロホシは、Vtuber時代に歌っていた曲がオリコンチャートの一位を長年独占した事もあり、歌って踊れる総理大臣なんてギャグみたいなキャッチコピーで次期選挙を戦う事になる予定であった。


「ああ、それとユカリさんの長年の宿願だった堕胎の禁止。総理が今年度の国会で通すと確約してくれました。確実に反対意見が出て揉めるから、次期総理にバトンを渡す前に自分が泥を被ると」

「……そう、ですか。色々と無理を言ってしまい総理にもモロホシさんにも大変なご迷惑を」

「いえ。人口の数割がエインヘリヤルになった事でここ10年、人口が緩やかに減少し続けていますからね。必要な政策でした」

「死者数は遙かに少なくなっているはずなのですけどね」

「エインヘリヤルにも子供は生まれるはずなのに、出生率が目に見えて落ち込んでます。やはり生存本能から解放された事で種の継続に感心がなくなったとしか」


 考え込むモロホシをユカリは笑って否定した。


「性欲はちっとも減退してませんよ。相変わらず色町は凄い賑わいです」

「そうなんですか?」

「ええ。ただ、霊体にも子供が生まれる仕組みが科学的に解明されてないせいで、幽霊の子だとイジメに遭うケースは多いみたいですね。元々、エインヘリヤルの子供は滅多に生まれないですし。少数派として迫害されつつあります。エインヘリヤルの血を引いた子も契約を結ばない限りエインヘリヤルではないというのも事態を悪化させていて、新人類派閥と純人類派閥の新たな火種に発展しつつあり……」


 うへぇとモロホシは嫌なことを聞いたと顔をしかめた。

 彼女が政治に関わるようになってから、常に悩まされてきた問題がまた顔を出してきたからだ。


「また、その派閥問題に行き着くんですか。エインヘリヤルも決して不死身の存在ではないのに新人類派の政治家はエインヘリヤルになりさえすれば全てが上手く行くと断言する方も多いんですよね。怪異に喰われると驚くほど容易く死んでいくって統計データも見せたのに」

「フフッ。私は純人類派の政治家が異能に覚醒するのは純粋な人間の方が多いという学説をテレビで言っていたのを見ましたよ」

「良くある数字トリックですね。エインヘリヤルと比べて、死にやすい純人類派の人の方が不安を感じて異能を手に入れようと熱心に訓練する。それだけの話なのに。稲荷の会や警邏隊の指導希望者数とネバーランドの指導希望者数を見比べてみたら3倍は人数差があったんですよ」


 同時に怪異と異能者、年間死傷者数はどちらの方が多く出しているのかを思い出してモロホシは嫌気が差した。

 不老不死を誇る新人類派閥も、不老不死の化物とそしる純人類派閥も都合良く棚上げしているが、エインヘリヤルの殺害方法など既に民間に流布していてテンプレ通りの手順を踏めば誰でも殺せるような状態になっていた。

 魂を喰らって餌にする力の無い木っ端妖怪など幾らでもいる。純人類派閥の過激派グループの中にはそういう妖怪を飼っているような連中もいるのだ。


 この情報はエインヘリヤルが正気を失うまで死を繰り返した果てに行き着く姿を隠蔽する為にワザと流された面もあるのだが、噂話としてしかモロホシも真相は知り得ていなかった。


「現状に導いた新人類過激派と純人類過激派の指導者は逆にマトモなのですけどね。絶対に思想を曲げなくて自分の派閥を管理仕切れてないですけど。ちゃんと話は聞いてくれます」

「下手に知り合いでお互いの事情も分かっているだけにやり辛いですね。誰もこんな状況、望んでなどいないでしょうに」


 随分と遠くに来てしまったとモロホシもユカリも過去を思い返した。

 現在の世界を揺り動かす重要人物達が狭い建物の中で一緒にパーティを楽しんで笑っていた。


 そんな時も確かにあったのだ。

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