藤原史郎の殺人遊戯9/白昼夢6
「ああ、クソ。イベントのフラグ管理をミスったなこりゃ」
硬直した戦況と一方的にダメージを負わされ続けるストレスにポン太は愚痴をこぼした。
口を開けた際に穂村雫のバーチャル能力で針金を喉に転移させられたようだった。愚痴と共に血肉と金属片を地面に吐き捨てた。
現状でもポン太が負ける事はない。相手側にはポン太を打倒する手段がないのだ。
だが、ゲームでは決着の付かないまま延々と戦闘が続く状況を詰みという。諦めるという選択肢のないコンピューター相手に終わらない戦闘を強いられた時点でプレイヤーの敗北なのだ。
ポン太はこのゲームでの詰み状態に非常に似通った状況に陥っていた。穂村雫もピグマリオンも背後に佐藤江利香がいる限り決して心は折れないだろう。いや、穂村雫の場合は江利香が殺傷されたら、むしろ執拗にポン太を追い続けるだろうと思われた。
24時間ぶっ続けで何度殺されようと立ち向かってくる穂村を想像して、うへぇとポン太は嫌気が差した。この女なら間違いなくそうする。それだけの凄みがあった。
(そのくせエリカちゃんを殺しても、どうせ蘇るんすよねぇ……)
自分だけが一方的にリスクを背負っているような気がして、ポン太はハッキリ言えば萎え始めていた。
人を殺そうとしておいて何をとポン太の心境を知れば誰もが思うだろうが、ポン太にとってみれば楽しくなければ痛い思いをしてまでチートを手に入れた意味がないのだ。現実世界をゲーム盤のように捉える男の嘘偽りのない本音であった。
そうやってポン太が現状に嫌気が差し始めた頃、パーンという甲高い音が鳴り響いた。
「へ?」
身体を刺し貫く痛みに何が起きたのかと身体を見下ろしてみればポン太の身体から銃の弾頭が排出されていく所であった。
薬莢の落ちる音にそちらを見れば苦い顔で何人ものスーツ姿の男が拳銃を構えていた。
「警察だ。手を挙げ……なくていいぞ。お前を刑務所で管理できる気がせん」
「渡辺さん。射殺して構いませんか?」
「ああ。猛獣が相手だと思え。人間相手の対応をしたら食い殺されるぞ」
それは公安警察の渡辺の率いる極秘チームであった。ポン太に関しての諸々の情報を聞いて秘密裏に応援に駆けつけたのだ。
「警察の言う事かよ」
チッと悪くなり続ける状況にポン太は悪態を吐いて、何故か以前にも似たような状況に陥ったような既視感を感じたのだった。
そう、あの時の相手は警察ではなく。
「私は貴方のような屑が心の底から嫌いなの」
女だった。異様な程に目付きの悪い、ギラついた目の女がポン太を見下ろしていた。
周囲には何故か銃を持った女が何人もいて、ポン太を警戒した眼差しで包囲していた。
「ユカリさん。傷が再生していきます。拳銃じゃコイツは死なない」
「エナジードレインで精気を吸い取りなさい。十人以上で吸収すれば再生速度を上回るわ。ミイラ化したら粉々になるまで砕いて復活しないか様子を見ましょう」
「分かりました」
ポン太に向かって一斉に周辺の女が手を伸ばして来て、嫌な予感にポン太は身動ぎした。
動き出そうとした身体をユカリと呼ばれた女は躊躇いなく拳銃で撃ち抜いて、冷然とした眼差しで見下ろしてきた。
「貴方、何で自分がこんな目に遭ってるか分かる?」
「心当たりがないっすね」
「そう」
ギリっとユカリは唇を血が出るほど噛みしめてポン太を睨み付けた。
「貴方が殺したアイドルの女の子。私、あの子のファンだったのよ」
「ハハッ。何だそりゃ」
ポン太は笑って干からびていった。
流石にミイラ化した後に粉々にされては不死身の殺人鬼であろうと蘇ることは出来なかった。
だが、後にこの事件は公安警察へ嗅ぎつけられ、殺人事件の容疑者として追い詰められる原因となる。
今ではない何時か、ここではない何処かの、愚かな男の末路であった。




