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藤原史郎の殺人遊戯5

 穂村の転移させた手榴弾はポン太ではなく、マンションの外壁を破壊して出口を形成した。

 自分達の手でバリケードを構築していたせいで逃走することも出来ずにパニックになっていた近隣住民は恐る恐る外を見る。また新たな異常者が現れたのではないのかと警戒しているのだ。


「出口を作りました。もう爆発はしないので外へ避難をしてください」


 ポン太をこれ以上、成長させない為にも人的被害は出してはならない。冷静に状況を見極めた穂村による対応であった。

 貴重な手榴弾を消費してしまうが、どちらにせよ手榴弾程度の火力ではポン太への決定打にはならないのだ。


「ま、待って。怪我人がまだっ!」

「大丈夫ですから。江利香さんも避難してください」

「私が右から支えますから江利香さんは反対側をお願いします。治療は外でも出来ます!」

「モロホシちゃん。うん、わかった」


 出口に殺到する避難民に声を掛ける江利香を未だに流血が続く加藤がふらつきながらも促した。

 そこをモロホシがフォローする形で何とか出口へと全員が脱出していく。

 他の重傷者は既に健常者へと変化している。まだ、ひめのやで死者は辛うじて出ていなかった。


「あっちゃー。経験値が逃げてく」

「少しは嫌がらせになりましたでしょうか」

「そうっすね。ぶっちゃけムカついた」


 折角のイベントに水を差されたポン太は苛立って穂村を睨み付けた。

 この場にいる全員を殺害して行方を眩ます事がポン太にとってのイベント達成条件だったのだ。このままでは殺人犯として指名手配されるのは避けられない。警察など今となっては大した脅威ではないが、ポン太でも24時間戦い続けられる程のスタミナは有していない。

 ゲームの難易度が上昇したのをポン太は理解して遊ぶのを止めた。


「さっさと始末して追いかけっかな」

「グッ」


 転移した細かいガラス片に眼球を抉られるのを無視してポン太は穂村の首を両手で鷲づかみにした。

 ポン太の身体能力と再生力を封殺するには穂村の転移攻撃では火力が低すぎるのだ。他の異能者とのガチ戦闘という滅多にないイベントをポン太が楽しんで遊んでいたからこそ戦闘は成り立っていた。多少のダメージを無視してゴリ押しされては穂村に対抗手段はない。

 茜ヨモギのいない今、穂村ではリンク能力者と正面戦闘を出来るだけの実力はなかった。


 ゴキッと鈍い音がして穂村の首の骨は折れ、ダランと穂村の身体から力が抜けていった。

 あっさりと穂村を始末したポン太は既に眼球が再生しつつあり、戦闘から一方的な狩りへと事態は変化しつつあった。


「穂村」


 今まで姿を見せなかった穂村雫のバーチャルキャラクターである村雨ヒバナは涙に濡れた目で穂村だった死体を見て言った。


「指示通りにやったわ」


 次の瞬間、ワンダーランドマンションが穂村の設置していた爆弾によって崩壊し始めた。




 村雨ヒバナの固有能力『双転移』は本体である穂村雫から5メートル以内5kg以下の物体の座標を入れ替える能力である。

 その能力使用にはバーチャルキャラクターである村雨ヒバナが必ずしも傍にいる必要性はない。少なくとも穂村の自分だけの現実では。

 故にバーチャル界でヒバナを通して爆弾を購入した穂村はワンダーランドマンションの各地にヒバナ自身の手で設置させていくことで、建物を崩落させてポン太を生き埋めにする戦略が可能だったのだ。


 ちなみにバーチャルキャラクターを介してバーチャル界で物資購入をするなんて芸当は穂村以外で成功した者はいない。

 相変わらず規格外な女であった。




「やっべ」


 崩落し始めたマンション内部で慌ててポン太は穂村の開けた出入り口へと急いだ。

 その足取りは強靱な身体能力を誇るポン太らしくない鈍いものであった。まだ傷付いた眼球が完全には癒えていないのだ。

 だが、マンションが崩壊するよりも早くポン太の脱出は可能だと思われた。能力の制約上、出口までは5メートルも離れてはいない。


 ポン太は出口付近にまで容易く辿り着き、何故か倒れた。


「あ、あれ? 何で?」


 上手く呼吸が出来ないでいる自分を不思議に思ったポン太は地面から出口を見上げた。

 そこには一人のバーチャルキャラクターがいる。


「『空気』を『真空』に変化させたわ。貴方はそこで大人しくしてなさい」


 佐藤江利香のバーチャルキャラクターである赤衣エリカだ。

 彼女の固有能力『変身願望』によって即席のトラップが出口には設置されていたのだ。


 呼吸とは肺を膨らませて周囲の気圧よりも肺の中の圧力を小さくして外部から空気を身体の中に入れる行為である。

 肺の内部よりも周囲の気圧が低ければ喉を開けた途端、逆に肺の中の空気が全て吸い出されてしまう。

 この状態になると人間は数秒もしないで意識を失い1分も経たずに死ぬ。


 ポン太は意識すら失わなかったが思わぬ異常事態に身体が本能的に動きを止めてしまっていた。

 自分だけの現実でリアルの法則を塗りつぶしたポン太が窒息した程度で死ぬことはなかったが、崩壊中のマンションから脱出することは出来なかった。

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