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藤原史郎の殺人遊戯4

 殺人鬼、藤原史郎。通称ポンコツのポン太と相対する穂村雫は思った以上の難敵に顔をしかめていた。

 まず目に付くのが異常な身体能力だ。リンクアバターやバーチャルキャラクターの物理法則を逸脱した強靱な身体能力と並び立つほどの肉体をポン太は持っている。

 いや、身体能力だけならばポン太は穂村の見たことがあるリンク能力者もバーチャル能力者も凌駕していた。


 穂村がこれまで見た中で最も身体能力が高かったのは佐藤浩介だ。最強のリンク能力者。浩介は20万登録のバーチャルキャラクターである茜ヨモギをも越える身体能力を持っていた。聞いた所、彼のシンクロ率は87パーセントなのだそうだ。RPGは高レベルになるほど一気にステータスが伸びていくタイプのゲームがある。ブレイブソルジャーのオンラインゲームもその類いであり、タラコ唇やアリス姫の50台のレベルのプレイヤーが6人でパーティを組んでやっと佐藤浩介と渡り合えるようなバランス構成になっているらしい。

 ポン太はその佐藤浩介の3割増しの身体能力を持っていると穂村は判断していた。瞬きをした次の瞬間には目の前にポン太がいたという事が何度かあった。油断するとあっという間に挽き肉にされかねない。


 次に目に付いたのは怪物的なタフネスと再生能力。

 暴漢がワンダーランドを狙ってきた時の為、穂村の双転移で撃退できるよう予め砕いたガラス片や各種香辛料を混ぜ合わせた目潰しや5キロの鉄球などを用意していたのだが、ポン太に通じていないのだ。

 正確には通じているのだが効果が薄い。ガラス片で首を抉ろうと香辛料で目を潰そうと鉄球を頭部に叩き落とそうと1分も経たずに復帰してくる。


 その上、明確な敵である穂村ではなく避難してきただけの一般人を意図的に狙って攻撃するのだ。

 既に3人の重傷者が出ていた。必死に佐藤江利香が異能で治療しようと躍起になっている。

 赤衣エリカの固有能力『変身願望』で『重傷者』を『健常者』に変化させる事で擬似的な回復魔法を習得したのだ。その様子を舐めるようにポン太が見ていて、眉をしかめて穂村は自分に注意を逸らそうと口を開いた。


「貴方は何の異能者ですか」

「リンク能力者だけど?」

「ではシンクロ率はどれくらいでしょう」

「シンクロ率?」


 初めて聞く単語にポン太は首を傾げた。穂村は突破口を見いだして慎重に言葉を選んだ。

 リンク能力の詳細は穂村も知り得ている。ゲーム内でデスゲームを行う事でゲームアバターとの同期率を上げ、現実での変身時のスペックを上げる異能だ。

 決して、ポン太のように習得時から超人的な能力を得られるタイプの異能ではない。準備期間が必要なのだ。


 その事実を知らせる事でポン太の自分だけの現実を揺るがせれば弱体化するのではないかと穂村は思ったのだった。


「リンク能力にはレベルがあります。ゲーム内に入り込んでデスゲームを生き残らなければ本領を発揮しません。貴方がリンク能力者であるならば、例外ではないのです」

「へー、そうなんだ」


 感心するようにポン太は頷いて笑った。


「じゃあ俺はやっぱリンク能力者っすよ」

「ですからレベルを上げないと力は発揮できないと」

「やってるじゃないっすか。レベル上げ」


 ほら、とポン太は指を指した。

 必死で怪我人を癒やしている江利香の方向へと。


「ちまちまモンスターを狩るよりPKした方が効率いいっしょ」


 これがポン太が正体を現してまで殺人行為を行った理由である。

 殺人行為に特別な感情を抱かないポン太が楽しそうに襲いかかってきたのはレベル上げだったからだ。


 モンスター。一般人よりもチート能力者という経験値の高そうなレアエネミーを逃さない為にポン太は正体を現したのだった。


「そうですか」


 穂村はポン太の目的を正確に理解し、この場で必ず抹殺しようと決意した。

 放置をしたらポン太は大量殺人を躊躇わずに犯し続け、際限なく強くなり続ける。そういう異能者として完成しようとしていた。


 たとえリンク能力者のようにアバターに変身できずともアイテムボックスを利用できずとも魔法やスキルを持たずとも、怪物のような身体能力と再生能力だけで既に脅威なのだ。これ以上の成長は許容できない。


 穂村は血塗れのポン太が現れた時点で村雨ヒバナにバーチャル界で購入させていた手榴弾のピンを密かに抜いた。

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